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『俺、ラノベの真似して勉強してるだけなんですけど、なんで東大判定出てるんですか?』  作者: さらん
第三部:三年生

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■第27話 「答え」の先にある景色

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


 二日間にわたる東大入試の全日程が終了した。

 最後の科目の終了を告げるチャイムが鳴り響いた瞬間、教室を満たしていたあの濃密な気圧が、潮が引くように消えていった。


 試験場を出ると、夕闇に包まれ始めたキャンパスに、安堵と不安が入り混じった受験生たちの声が小さく波打っている。


 俺は正門へ続く道で、一人立っている涼子を見つけた。彼女の表情は、どこか遠くを見つめているようで、それでいて憑き物が落ちたように穏やかだった。


「……終わったね、陽太」

「ああ。終わったな」


 三年前の春、ただラノベの主人公キース・ラインに憧れて、「問題文は設計図だ」なんて格好つけていたあの日から、俺たちはどれだけの言葉を積み重ねてきただろうか。


 神田先生に論理の甘さを叩き直され、模試の結果に一喜一憂し、そして一年生たちに「教える」ことで、自分たちの知性を磨き上げてきた。


 この解答用紙に書き残してきたものは、単なる正解の羅列じゃない。俺たちが三年間かけて築き上げてきた、誰にも恥じることのない「思考の軌跡」そのものだ。


「……陽太、私ね。最後の問題で、神田先生が言っていた『正解のない問い』に出会った気がしたの」


 涼子が、銀杏の並木道を見上げながら静かに言った。


「出題者が何を求めているのか、一瞬分からなくなった。でも、その時思ったんだ。作問者の先生も、きっと迷いながらこの問いを作ったんじゃないかって。だから私は、自分なりに一番筋が通ると思う道を信じて、最後まで書ききったよ」


 俺は黙って頷いた。

 俺も同じだった。完璧な解答なんて、どこにもないのかもしれない。


 でも、あの解答用紙に向き合っていた時間、俺は確かに、見知らぬ作問者の先生と、言葉を超えた深い場所で繋がっている感覚があった。それは、三年間泥臭く「対話」を続けてきた俺たちにしか、たどり着けない境地だった。


 数週間後。

 春の陽光が降り注ぐ中、俺たちは再び、本郷の地を踏んでいた。


 掲示板の前に群がる人々の歓声と悲鳴。スマートフォンの画面で合否を確認する時代になっても、この場所で自分の番号を探すという儀式だけは、何十年も変わっていない。


 俺は震える手で、自分の志望科類の番号を追った。

 一桁ずつ、ゆっくりと。


「……あった」


 隣で、涼子が短く息を呑む音がした。

 彼女の目にも、同じように自分の番号が映っているのが分かった。


「陽太……私たち、合格したんだね」


 涼子の瞳に、じわりと涙が浮かぶ。

 俺は、込み上げてくる熱いものをこらえながら、ただ強く頷いた。


 逆転合格だとか、奇跡だとか、そんな言葉で片付けてほしくはなかった。これは、三年間という気の遠くなるような時間をかけて、自分たちの手で掴み取った「必然」の結果なのだから。


 報告のために予備校へ向かうと、神田先生は講師室で、いつもと変わらず不敵な笑みを浮かべて座っていた。


「……おめでとう、とは言わんぞ。お前たちが自分の頭で考え、自分の足でこの結果を勝ち取ったのは、俺にとっては最初から分かっていたことだ」


 先生はそう言って、俺たちのボロボロになった三年前のノートを返してくれた。


「だが、これだけは言っておこう。高橋、水野。お前たちが手に入れたのは、東大という肩書きじゃない。どんな難問を前にしても、逃げずに立ち向かい、自分なりの答えを創り出せるという『知性の自由』だ。それを一生、忘れるな」


 神田先生の言葉は、これまでのどの講義よりも深く、俺たちの胸に刻まれた。


 春。

 赤門をくぐる俺たちの背中に、かつてのような気負いはもうなかった。

 目の前に広がるのは、まだ誰も正解を知らない、広大な学問という名の海だ。


(……さて。次の対話を、始めようか)

 俺は、新しいノートを握りしめ、新しい未来の一歩を踏み出した。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


少しでも「面白かった!」「スカッとした!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、

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それでは、次回もどうぞお楽しみに!

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