■第28話 「対話」は続いていく
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
それでは、本編をお楽しみください!
桜の季節が過ぎ、本郷のキャンパスに若葉の匂いが立ち込める頃。
俺と涼子は、講義の合間に三四郎池のほとりで、分厚い専門書を広げていた。受験勉強の時とは比べものにならない情報の荒波に、正直に言って二人とも毎日アップアップしている。
「……陽太、この教授の論文、読んだ? 設問の立て方が意地悪すぎて、あの神田先生の講義を思い出しちゃった」
「ああ、俺もさっきまで格闘してたよ。でも、これだけ読解を拒むような文章も、どこかに必ず『入り口』があるはずなんだよな」
そんな会話をしていた時だった。
「……やっぱり君たちだったか」
聞き覚えのある、少し気取った声に顔を上げると、そこには見覚えのある顔があった。予備校でいつも「最新の的中情報」を自慢していた、あのブルジョワ層の彼だ。
彼は以前のような嫌味なオーラを消し、どこか晴れやかな顔で俺たちの前のベンチに腰を下ろした。
「君たちと同じ学部に合格できたのは、僕にとって最大の屈辱であり、最大の幸運だったよ」
彼、松本は苦笑しながら続けた。
「あの模試の日、君たちが『自分の頭だけで解析と同じ視点に立った』と言った時、僕は初めて自分の勉強に限界を感じたんだ。情報を買っているだけじゃ、本質には届かないってね。それからだよ、僕が他人の作った予想問題じゃなく、自分の頭で『対話』を始めたのは。……君たちに、礼を言わせてくれ」
かつてのライバルとの意外な再会。俺たちが泥臭く積み上げてきた「真似事」から始まったメソッドが、実は周囲にも影響を与えていたのだと知り、胸の奥が熱くなった。
その週末。俺たちは神田先生に呼び出され、久しぶりにあの予備校の門をくぐった。
講師室へ顔を出すなり、先生は不敵な笑みを浮かべて俺たちに「これ」を突きつけた。
「いいところに来た。ちょうど一年生の基礎クラスが、お前たちの『伝説』を聞きたがっていてな。十分やる。現役東大生の生の声を聞かせてやれ」
「えっ、ちょっと待ってくださいよ、先生!」
断る間もなく、俺たちはかつて自分たちが「教える側」として立っていたあの教室に押し込まれた。
目の前には、三年前の俺たちと同じように、不安と期待が入り混じった顔をした下級生たちが座っている。
俺は教壇に立ち、深呼吸をした。隣に立つ涼子と目が合う。彼女は「任せたわよ」と小さく頷いた。
「……皆さんに、一つだけ伝えたいことがあります」
俺は、ノートを広げる後輩たちに語りかけた。
「僕は三年前、ただのラノベの主人公に憧れて、格好つけたい一心で勉強を始めました。毎朝五時に起きて歩くのも、問題文と対話するなんていうのも、最初は全部『設定』に過ぎませんでした。でも、その真似事を三年間、一度も疑わずに信じて続けてきた。それが、今の僕を作りました」
教室が静まり返る。
「受験勉強は、ただの暗記じゃありません。問題用紙の向こうにいる誰かと、言葉を交わすことです。自分の頭で考え、自分の言葉で答えること。その積み重ねを信じれば、皆さんもいつか、自分にしか辿り着けない『正解』に会えるはずです」
話し終えると、教室から小さな、しかし確かな拍手が沸き起こった。
その後ろで、神田先生が腕を組んで、少しだけ満足そうに頷いているのが見えた。
予備校の帰り道。
俺と涼子は、夕焼けに染まるいつもの道を歩いた。
「陽太、いいこと言ったじゃない」
「まあな。でも、一番驚いてるのは俺だよ。あのキース・ラインの真似をしてた俺が、本気で誰かに『考える力』を説いてるんだからさ」
俺たちは笑いながら、未来へと続く道を歩いていく。
大学生になっても、社会人になっても、この「対話」は終わらない。
システムエンジニアになって、複雑な設計図と向き合う時も。
あるいは、人生という正解のない問いに立ち向かう時も。
俺たちはあの日磨き上げたペンを武器に、自分たちだけの物語を書き続けていくだろう。
「……さて。次のページを、めくろうか」
俺の手の中には、新しい真っ白なノートが握られていた。
(『俺、ラノベの真似して勉強してるだけなんですけど、なんで東大判定出てるんですか?』 完)
読者の皆様、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
『俺、ラノベの真似して勉強してるだけなんですけど、なんで東大判定出てるんですか?』これにて堂々の完結です!
最初は「中二病の真似事から始まるコメディ」のつもりで書き始めた本作ですが、神田先生の熱血指導が入り、涼子と共に泥臭く這い上がる「青春ヒューマンドラマ」へと成長し、無事に東大合格というゴールまで走り切ることができました。
陽太と涼子が自分の番号を見つけるシーンを書いている時は、彼らが積み上げてきた3年間を思い出し、作者の私まで目頭が熱くなってしまいました。彼らの「対話」と成長を最後まで温かく見守り、応援してくださった読者の皆様には、感謝の気持ちでいっぱいです。
さて、本編はこれにて美しい幕引きとなりますが……ここで嬉しいお知らせがあります。
なんと! スピンオフ第2弾の執筆・投稿が決定いたしました!!
本編では語りきれなかった「あの愛すべきキャラクターたち」の、知られざる裏側や日常をお届けする予定です。
果たして誰が主役になるのか?
これからも、皆様の心を熱くするような、あるいは少しクスッと笑えるような、自分らしい物語を全力で紡いでいきます。
引き続き、応援よろしくお願いいたします!
それでは、また次のスピンオフでお会いしましょう!
重ねてになりますが、最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!




