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『俺、ラノベの真似して勉強してるだけなんですけど、なんで東大判定出てるんですか?』  作者: さらん
第二部:二年生

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■第11話 マニュアル(予備校の講義)の真の価値に気づく時

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


 二年生の夏。蒸し暑い外気とは対照的に、冷房がキンキンに効いた予備校の大教室。


 俺はいつものように、教室の最後列でプリントの陰に隠れながら「内職(自学自習)」に励んでいた。


 現在行われているのは『現代文ハイレベル』の授業だ。

 一年生の時から、俺は「予備校の一斉授業は非効率だ」と見切りをつけ、授業中はひたすら自分の弱点を潰すための自習に時間を充ててきた。ましてや現代文なんて、日本語を読めば分かるものをわざわざ人に教わる意味が分からない、と本気で思っていたのだ。


 だが、その日の俺は、東大数学の過去問を前にして完全に思考がフリーズしていた。


 何度読んでも、問題文の条件が頭の中で整理できない。解読(翻訳作業)の無限ループに疲れ果て、思わずペンを止めて大きなため息をついた。


 その時、マイクを通した現代文の講師の声が、ふと耳に飛び込んできた。


『――いいですか皆さん。この筆者の文章は一見難解で、装飾過多に見えます。しかし、文章の「骨格」だけを抜き出せば、非常にシンプルです』


 黒板の前に立つ小柄な初老の講師は、チョークで長い文章の一部を四角く囲んだ。


『「Aである。しかしBという条件下においては、Cとなる」。……この文章のメインプロセスはCです。Aという前置きは単なる導入ノイズであり、最も重要なのは「Bという制約条件」を見逃さないことです。装飾された言葉に惑わされず、論理の構造ルールだけを抽出しなさい』

「……っ!」


 俺は、弾かれたように顔を上げた。

 講師が黒板で図解している現代文の「論理構造の抽出」。

 それは、俺と涼子がここ数週間、東大の数学や物理の過去問を前にして、血を吐くような思いで泥臭く手探りで行っていた『複雑な問題文の翻訳作業』と、完全に一致していたのだ。


(……なんだ、これ)

 俺は手元の東大数学の過去問と、黒板の現代文の解説を交互に見比べた。


 数学の問題文にある「ただし〜」「〜を満たすとき」。あれはまさに、現代文で言うところの「Bという制約条件」だ。


(俺たちは、わざわざ自分たちでゼロから『解読のルール』を編み出そうとしてウンウン唸っていた。でも……予備校ここでは、その『複雑な文章をシンプルに翻訳するための技術』を、最初からカリキュラムとして教えてくれていたのか……?)

 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。


 隣の席を見ると、涼子も自分のノートにペンを走らせる手を止め、黒板を食い入るように見つめていた。彼女も気づいたのだ。


『……文系の生徒はもちろんですが、理系の生徒こそ、この論理構造の抽出(読解力)を疎かにしてはいけません。難関大の理系科目は、計算力ではなく、この「条件を正確に読み解く国語力」で合否が決まるからです』


 講師のその言葉に、俺は一年生の時に抱いていた「予備校の授業なんて無駄だ」という傲慢な思い込みが、音を立てて崩れ去るのを感じた。


 予備校は、ただ不安を煽って授業料を巻き上げるだけの悪徳業者じゃない。


 何十年分もの東大の過去問を研究し尽くしたプロたちが、「東大の要求する思考プロセス(仕様)」を逆算し、それを生徒にインストールするための最短ルート(カリキュラム)を緻密に組み上げていたのだ。


 一年生の時の俺たちに授業が「無駄」に感じたのは、ただ単に、俺たちがその高度な授業マニュアルを理解するための「基礎スペック」すら満たしていない、ポンコツだったからに過ぎない。


 基礎が固まり、東大という強大なバグの姿を自覚した今だからこそ、この授業の真の価値が分かる。


「……涼子」

「うん、陽太。……私、今まで現代文の授業って、ただの読書感想文の延長だと思ってた」


 涼子は、少し悔しそうに、でもどこかスッキリしたような顔で笑った。


「違うね。これ、東大の問題を解読するための『最強のツール』の使い方講座だったんだ」

「ああ……。俺たち、とんでもないお宝の山の中で、目隠ししたまま素手で穴を掘ってたみたいなもんだ」


 俺は、机の上の過去問と基礎問題集をカバンの中にしまった。


 そして、これまで一度も真面目に開いたことのなかった「現代文のテキスト」を机のど真ん中に広げ、シャープペンシルを握り直した。


「内職(自学自習)は終わりだ。……ここから先は、プロの技術ノウハウを一滴残らず吸収させてもらうぞ」

「了解っ!」


 自分たちの限界を知り、泥臭くあがいたからこそ、外部リソースの「本当の使い道」が見えた瞬間。

 俺たちはもう、「無駄を省く」という言葉に逃げるだけの半端なシステムじゃない。


 使えるものは予備校の講義から講師の脳内まで、すべてを徹底的に使い倒す。東大合格という果てしない要件定義を満たすための、本当の意味での『貪欲なインプット』が始まったのだ。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


少しでも「面白かった!」「スカッとした!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、

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それでは、次回もどうぞお楽しみに!

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