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本当の王子様  作者: みつき


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第3話 やっぱり、変な人

 火曜日の朝、給湯室へ入ると、見覚えのある背中があった。

 

「あれ? ……え、悠さん?」


 彼は、すっとシンクの前をあけてくれた。


「おはようございます」


 動揺をごまかすように、私は共用ポットに水を入れた。


「あの……昨日のこと、内緒にしてください」


「昨日のこと?」


「えっ?」

 

 あれ? 違った?


 いや、スーツ姿で雰囲気は全然違うが、悠さんのはず――。


 というか、名前なんだっけ? 全く覚えてない。


「昨日は、ありがとう。……誰にも言わないよ」


 やっぱり、本人じゃん!


 彼は少し笑って、タンブラーを持って出て行った。

 

 満タンで重くなったポットを持って、フロアへ戻った。


「ふう……」


 なんか朝からドキドキさせられたわ……。


 席に戻ると、早速名前を調べる。過去の資料や社員名簿を探した。


 あった、これだ。


 ――井上匠。


 モバイルアプリ開発部署の人か。座席表を見ると、席は離れているが同じフロアの人だった。


 接点ないと、覚えらんないのよね……。


 席から立つ。彼の席の方を見たが、遠くて見えない。

  

 メール出してみるか……。いや、社内メールはまずいだろう。


 会社の人に言うことは考えにくい。だって、自分がレンタル彼女を利用してることがバレるもん。


 始業時間になった。


 さあ、仕事しなきゃ。 


 今日から新しいプロジェクトが始まる日だった。最近は、クライアントの要望に答えるだけだと、AIに勝てない。

 

 AIに打ち勝つには、独自のデザインを編み出さないといけない。クライアントの希望以上のものを作らないと……これがなかなか厳しいんだよね。


 彼を気にしつつ、その日は終わった。


「お先に失礼します」

  

 帰りがけに、彼の方を見ていると、まだ残業していた。


 先日のデートを思い出す。

 

 ん? 待って。冷静に考えるとさ……。

 

 同じ会社で、私を指名して、好きな物まで知ってて……。

 

 それって、ちょっと怖くない? ちょっと鳥肌が立ってきた。


 外に出ても、つい後ろを見てしまう。


 結婚式に着て行く服を試着しに、駅ビルのパーティードレス店に向かう。

 

 日曜日でも良かったんだけど、せっかくの休みが潰れんのも嫌なんだよね……。

 

「いらっしゃいませ」

 綺麗な女性店員さんだ。


「再来週の日曜日に姉の結婚式があって、着て行くドレスを探してるのだけど……」


「それなら、こんな感じのはいかがですか? お客様ならどんな色でもお似合いになりそうですが、お好きな色とかございますか?」


 可愛らしいドレスが沢山あって、自然に笑みが出る。


「ピンクか黄色かなあ?」


 店員が数着持ってきた。

 

「でしたら、こちらなどいかがでしょう」


 店員が差し出したのは、くすみピンクと淡い黄色のドレスだった。


 どちらも派手すぎず、華やかで可愛い。


「ご試着されますか?」


「はい、お願いします」


 まずは、くすみピンクから着てみることにした。


 試着室のカーテンを閉め、服を着替える。


 鏡の前に立つと、少しだけ背筋が伸びた。


 肩まわりに透け感のあるレース。ウエストの切り替え位置も高くて、脚が長く見える。


 ……うん。まあまあかな?

 

 カーテンを開けると、店員が笑顔になった。


「とてもお似合いです。お肌も明るく見えますね」


「ほんとですか?」


 思わず声が弾む。


 やっぱり、可愛いほうがいい。


 これ着たら、優しく見えるかな?


「こちらのお色も、ぜひ」


 淡い黄色は、思っていたより落ち着いて見えた。


 明るいのに子どもっぽくなくて、春みたいな色だ。


「こちらも素敵です。柔らかい雰囲気になりますね」


 柔らかい、か。


 どっちにしよう。迷う。


「こんなバッグと合わせてもよろしいと思いますよ」


 結局、店員の勧めるセットを買ってしまった。アクセサリーや靴まで。


 店員さん乗せるの上手いなあ……。ま、いっか。


 あ、お姉ちゃんから電話だ。


「もしもし」


「紗奈? 来てくるドレスって買う? レンタルにする? もしまだなら用意しようか?」


「あー、今ちょうど買ってきたところなんだ。買うの早かったな……」


 電話口で姉が笑っている。


「お金使わせてごめんね」


「お姉ちゃんの方が色々大変じゃん? そんな気を遣わなくていいよ」


「ありがとう。今度遊びに来てよ。引っ越す前にね」


「あ、うん。じゃあ、日曜日行こうかな」


「おいで。待ってる。その日は知り合いとか友達も来るから、ワイワイ楽しもう」


「うん!」


「じゃあまたね。なんも持ってこなくていいからね」


「フフ。またね」


 やっぱり紗英はお姉ちゃんだな。気遣いのできる人――だから友人も多い。


 私なんて友達と呼べる人はいない……。


 スマホが震える。


 あ、業務連絡だ。木曜日、予約が入った。名前は……。


 悠さん?! ……井上さん、だっけ。


 業務連絡には、店名と時間、それから「井上で予約しています」と書かれていた。


 そう言えば……向こう、驚いてなかったな。


 やっぱり、知ってて?


 ……どうしよう、行くの。


 でも、正体知ってるってことは、変なことはしてこないよね?


 なんか言いたいことあるのかな? なんで指名したのか聞きたい。


 それにでかい出費もあったし、バイトしないと……。

  

 きっと、大丈夫。


 私は、悠さん……井上さんとデートすることにした。 


 ◇


 木曜日の定時後。


 今日は食事デートということだった。


 ――やっぱり、会いづらいな。


 井上さんの方を見ると、まだいた。


 まさか、一緒に行くわけにいかないし……。


 先にお店に行こう。

 会社の化粧室でメイクを直してから、向かった。

 

 駅から少し歩いた場所にある、小さな和食店だった。

 木の引き戸を開けると、だしの香りがした。 


「いらっしゃいませ」

 

「井上で予約してます」


「どうぞ、こちらです」


 カウンターの後ろのテーブル席に、すでに彼は座っていた。


 (はや……)


「お疲れ様です」


「お疲れ様」


「飲み物、どうします? 僕は車じゃないけど、今日はソフトドリンクにします」


「私も」


「何食べます?」


 メニューを二人で見る。

 

「刺身御膳、おいしそう……」

 

「じゃあ僕、天ぷら御膳にしようかな」


 彼が注文してくれた。

 

「こういう店、よく来るんですか?」

 

「一人でも入りやすくて、たまに来るよ」 


 少し沈黙。


「「あの……」」


 二人で同時に切り出した。


「どうぞ」


「白石さん、どうぞ」


「……なんで私指名したんですか? もしかして知ってた?」


「実は……」


 井上さんは口の中のご飯を飲み込んでから、続けた。

 

「婚活しようか、迷ってた時期があって」


「婚活?」


 思わず聞き返す。


「うん。でも、僕あんまり積極的な性格じゃないし、自分から告白とか無理そうだなって」


 ……それは、なんかわかる。


「だから、先に確かめたかったんです」


「何を?」


「自分が、ほんとに彼女欲しいのかどうか」


 私は、味噌汁のお椀を持ったまま止まった。


「レンタル彼女で誰かと出かけてみて、彼女ほしいって思うなら婚活しようって。逆に、彼女に必要性を感じないなら、そのまま趣味に生きて、ずっと独身でもいいかなって」


「……でも、なんでそんなに結婚したいの? まだ遊べばいいじゃない? まだ決めるの早いと思う」


「親が結構歳いってて、安心させたいなって。かといって会うたび結婚の話されるのも嫌なんです」


 一理あるけど……変わってるなあ。


 まあ、本当なんだろう。私も姉が結婚したから、風当たり強くなりそうだし……。


「それで、たまたまサイト見てたら……白石さんがいた」


「……なるほど」


 少し話作りすぎてない?


「なんで私があのテーマパーク行きたいって知ってんの?」


「白石さんの席、会議資料届けに何度か行ったことあるんです。机にグッズ置いてあったから、あの物語好きなんだなって」


 ま、まあ。グッズ何個も置いてあるけどさ。


「白石さんて、顧客のこときちんと考えた設計してるの知ってたから、話してみたかったんです。他の人は、無難でこなせばいい仕事してる人が多いのに」


「ちょっと! 褒めすぎです!」


 ……なんか嫌だ。見透かされてるようで。褒めてくれたんだけど。なんか嫌。


 ストーカーぽい人だと思ったのに。そんな真っ当なこと言うなんて、単に変わった人だけなのかもしれない。

 

「白石さんは、なんでレンタル彼女を?」


 井上さんは、そう言ってからホタテの天ぷらをパクついた。


「最初はほんと、些細なことで広告見た時に……」


「ふんふん」


 井上さんは箸を止めて、口を動かしながらこっちを見ている。


「時給いいし、うちの会社副業オッケーだしね、やってみたくなったの」


 ――本当は……寂しいのに振られるのが怖くて彼氏作れなかったから。

 

 そんなこと言えない。

 

「やってみたら、案外楽しくて」


「そうなんだ」


「悩み相談だったり、何十年もお付き合いしたことない人とかね」


「変な人いなかった?」


「今のところ、大丈夫。中には怪しい人もいるらしいけど」


「……例えば?」

 井上さんの動作が止まる。


「……無理やりキスしてきたりとか」


「危ないね」


「なるべく気をつけてるよ」


 しばらく沈黙して、二人ご飯を食べる。

 

「白石さんの彼氏って……おおらかなんだね」


 箸を口に当てながら答えた。

 

「うん……まあ」 

  

 いることにしとこ……。


「僕なら嫌だな。危なそうだし」


「本当に危なかったら、やめようと思ってるけど……」


「そうした方がいいよ」


「ありがとう」

 微笑む。


「あ……会社の人には内緒にしといてね」


「もちろん」


 とりあえず、言いたいことは言えた。喋るとは思えないけど、きちんと口止めしとかないとね。


 食べ終わり、店の外へ。会計を済ませた井上さんが出てくる。


「ごちそうさまでした」 

 お辞儀をする。


「じゃあ、気をつけて」

 

「うん。井上さんも」


 軽く会釈して、それぞれ歩き出す。


 ライン交換お願いされるかと思った。知り合いだからしてもよかったけど。


 毎回お願いしてくる人もいるのに。


 ――やっぱ、変な人。

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