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本当の王子様  作者: みつき


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2/12

第2話 レンタル彼女と魔法の一日

 今日は土曜日。 

 テーマパークでデートの予定。

 

 半日なんだから、気合い入れないと……。


 ヒールにするか一瞬迷ったけど、シューズにする。


 薄手のシフォンブラウスは、やわらかいアイボリー。

 小さな花柄と、控えめなフリルが少しだけ甘い。


 下はシンプルなデニム。


 鏡の前で一度だけ全体を見る。

 

 ――まあ、これでいいか。


 メイクも決まってる。


「うん。良し!」


 電車の中で、相手のプロフィールを見る。


 同い年の二十五歳。前から行きたいテーマパークがあるけど、一人で行けないから、利用。


 一日料金だと結構高いし、二人分の入場料も合わせるとバカにならない。よっぽど行きたかったんだなあ。


 私も行ったことないから、楽しみだ。


 最寄駅での待ち合わせだった。


 駅に着くと、人の波に乗って階段を下る。 

 初めての人は、やっぱり緊張する……。どんな人かな?


 そのまま改札を出て、コンビニに向かう。

 コンビニ前に数人立っていた。


 男性は二人。一人はカジュアルな格好の背の高い人。もう一人は、チェック柄の、少し野暮ったいシャツの人。 


 チェック柄の人がこちらを見て会釈した。――あの人か。


「悠……さんですか?」

 

「はい。咲さん?」


「お待たせしました。よろしくお願いします」

 軽く会釈して、営業スマイル。


 あれ? どっかで会った気がする……気のせい?


 彼は少し笑ってからこう言った。


「……チケットは買ってあるので、このまま行きましょうか」


 このテーマパークは、一通り回って四時間から五時間かかるらしい。


「私、このテーマパーク来てみたかったんです」

 

 彼は、微笑んだだけだった。


「私、原作一巻から全部持ってました」


「僕も。世界観がいいよね」


「うんうん。魔法使える気になっちゃう」

 私は魔法を唱えて、杖を振る真似をした。


「杖ほしい? 売ってるよ」

 彼は、こっちを見て言った。


「あ、ううん。大丈夫です」

 微笑む。


 ――もっと熱量高いのかと思ってた。もう少しテンション下げよう。


「どの辺を見て回りますか?」


 なるべく聞き役になるように気をつける。 


「できたら、全部観たいな」

 

「わかりました」


 案内板の通りに歩くと、入り口には列ができていた。チケット確認と手荷物検査をしているらしい。

  

 バッグの中を軽く見せ、金属探知機をくぐった。


 彼が手荷物検査で、止められた。

 

「これは……?」と、検査員。

 

「折り畳みハサミです」

 

「申し訳ありません。刃物類のお持ち込みはご遠慮いただいております。そちらはロッカーにお願いします」


「あ……、そ、そうですか。ごめんなさい」

 彼が焦っている。

  

 思わず、吹き出しそうになった。


 (なんで、ハサミなんて持ってんの――?)


「ごめんなさい。荷物置いてきます」


「行ってらっしゃい」

 少し笑いをこらえた。


 彼の背中を見ながら、思った。

 

 (変な人)


 彼が戻ってくる。


「いつも同じリュックを持ち歩くんで、そのまま持ってきてました。まさか引っかかるとは……」


 彼は黒のリュックを背負い直した。


「大丈夫です。行きましょう……でも、ハサミはなんで持ち歩くの?」


「ハサミって色々便利な場面があるんですよね。タグ切ったり、服のほつれを切ったり、紐を切ったり……」

 

 彼は思い出しながら、丁寧に答える。


「なるほど」

 

 (タグなんて、店員に頼めばいいのに。やっぱ、変だな)


 入場ゲートを抜けると、すぐに展示ではなく、広いロビーに案内された。


「あー、ドキドキする!」

 

 昨夜観なおした、映画を思い出す。


 彼はこっちをみて微笑んだ。


 短い映像が終わると、正面の大きな扉がゆっくり開いた。

 

 周囲から小さなどよめきが起こる。


「わー」


 お互い目が合う。


 中は想像以上だった。映画の世界そのままだ。


「あ、あれ、あのシーンだよね。遅刻しそうになった時の」

 私が指さした。


「確か……二巻だったね」


「そうそう」


 私の周りにはこの物語をよく知ってる人がいなかったから、素直に嬉しかった。


 フロアを回っていると、私ばかりはしゃいでいるのに気づいた。振り返って、後ろの彼を見る。


 彼はただ微笑んでいた。


「ごめんなさい……私ばっかり、はしゃいじゃって……。悠さんは楽しんでますか?」

 

「とっても楽しいよ」


 彼は笑った。


「ならよかった」


「咲さん、疲れてませんか?」


「私は大丈夫ですけど、悠さんが疲れてるなら休みますか?」


「僕は平気。咲さん、ずっと僕に歩幅合わせてくれてるでしょ」

 

 ドキッとする。だって、こんなこと言われたことなかったから。


「気のせいですよー」


 笑ってごまかした。


「半分きたから、お茶でもしましょう」

 

「はい」

 微笑む。スニーカー履いてきて良かった……と内心ほっとした。


 カフェスペースの席に腰を下ろす。彼が注文しに行った。

 

 ここのバタービール、ずっと気になってたんだよね。

 

 戻ってきた彼の手には、泡の乗ったバタービールが二杯とポップコーンがあった。


「いただきます」

 

 先に口をつけた私を見て、彼がやさしく笑った。


「おいしい?」


「おいしい! 甘いね!」


 彼が笑う。


「ポップコーンもどうぞ。塩味だよ」


 ポップコーンを口に入れると、彼が聞いてきた。


「バタービール持ってるところ、写真撮ってもいい?」


「あ……はい!」

 営業スマイル。


 彼がスマホで撮影して、スマホをしまう。

 

「咲さんは、キャラクター誰が好き?」


「私は……主人公のこと嫌ってるように見えて、ほんとはずっと大事にしてたキャラかなあ」


「あー、あの人ね。僕も設定に深みがあって、好きだな」


「一緒〜」

 微笑む。


 意外と価値観は似ているのかもしれない。見た目は野暮ったい人だけど。


 二人でポップコーンを食べながら、映画や原作の話で盛り上がった。

 

「……後半戦、行こうか」

 

 彼が立ち上がる。


「はい」

 (後半戦……。なんか言い方オヤジっぽいな。同い年なのに)

  

 このテーマパークは、フォトスポットが多い。


「写真撮ってあげましょうか?」

 

 私が聞いた。


 彼は少し考えてから、「いや、僕はいいかな」と断った。 


 あれ? すごく来たかったんだよね……? 写真苦手なのかな?


 少し違和感を覚えたが、すぐに頭から消えた。


 色々な杖が置いてある部屋に来た。すると、彼がリュックからメジャーを取り出し、長さを測っている。

  

「なんで、長さ測るの?」


 (てか、メジャーまで持ち歩いてんのか)


「自分用の作ってみたくなってね。咲さんのも作ろうか?」


「え? あ……、嬉しいけど、悪いしいいです」

 

「全然悪くないよ。僕、物作るの好きなんだ」


 スマホで撮影しつつ、長さをメモしていた。


「……でも、そういう楽しみ方もあるんですね」

 

 作業を覗きながら言う。


 彼は微笑んだあと、「もう観る所、ここで最後だね」と、少し残念そうな表情をした。

 

 彼はお土産を買わないらしく、そのまま帰ることになった。ロッカーへ寄って荷物を回収する。

 

 私はトイレでメイクを直す。


 ……疲れたけど、楽しかったな。また指名されたい気もする。


 駅の改札口で別れの挨拶をする。


「今日はありがとうございました。悠さんとのお出かけ、楽しかったです」


「僕もとっても楽しかった」


「もし良かったら、また宜しくお願いします」

 私は軽くお辞儀をした。


「こちらこそ」

 彼もつられてお辞儀をした。


 つい笑ってしまった。すると、彼は少し照れていた。


「じゃあ、また」

「また」

 お互い手を振って別れた。


 リピートあるかな……? わからない。ま、いっか。


 電車で座りながら、テーマパークのフロアを思い出して、目を瞑る。


 彼が手荷物検査で引っかかったのを思い出して、笑いそうになった。慌てて両手で頬を押さえ、笑いをこらえた。

 

 ◇ 


 火曜日。

 

 出勤して給湯室へ向かう途中、見覚えのある背中が視界に入った。

 振り向いた彼と、目が合う。


 ――え。悠さん……なんでここに?

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