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本当の王子様  作者: みつき


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第1話 可愛いだけじゃダメ

https://49829.mitemin.net/i1135122/

 私には、誰にも言っていないことがある。


 今の会社は副業オッケーだし、わざわざ申請しなくてもいい。任された仕事――ウェブデザインと制作さえこなせてればなんも文句を言われない。

 

 月、木、金で在宅をしているから少し早めに作業を締めてもバレない。木曜日、金曜日の定時後と土曜日にやっている副業もだいぶ慣れてきた。


 副業はと言うと……一日だけの彼女をしている。要するに《レンタル彼女》だ。


 きっかけは、ひょんなことだった。推しの記事を見ていた時のこと。いつもならスルーをする広告がなぜか目に止まった。


 『レンタル彼女になりませんか?』


 しばらく、彼氏と別れたショックで泣いてばかりいた。やっと考えなくていい日が増えてきた。


 ――でも、寂しい。


 一週間くらいやってみようか迷った。別にお金に困ってるわけじゃない。でも、一人でいられるほど強くない。……振られるのも怖い。


 ある日、姉の紗英から電話がかかってきた。


「こんばんは。久しぶり」


「こんばんは」


「やっと結婚式の日が決まったのよ。急だけど三週間後の日曜日。健斗さんの転勤が急に決まって、その前にやることになったの」 


「そっか、いよいよだね。おめでとう」

 ……嬉しいのに感情が出せない。

 

「ありがとう。詳しいこと決まったら、また連絡するね」


「うん。わかった。楽しみにしてる」


「じゃあ、またね」


「またね」


 紗英は、典型的な優等生タイプ。出来の悪い私とよく比べられて辛かった。


 姉に勝てるのは見た目だけだ……。


 親は、私にはフリルつきの可愛らしい服ばかり買ってくれた。お下がりは一度もない。

 

 ――紗奈ちゃんは、なんでも似合うね。

 母の声が頭をよぎった。


 気がついたら、レンタル彼女のサイトを開いていた。


 《キャスト募集》をクリックした。


 人を幸せにする仕事に思えてきて、やりたくなってきたんだ。


 今思えば、自分に自信がなかったけど、やって良かったと思える。

 

 今日もこれから《彼女》になる。


 待ち合わせ場所は、彼の職場から一つ先の駅の改札。彼は何度か利用してくれて、今は私を指名してくれる。


 彼だ――。

 

「こんばんは。南さん」

 

「こんばんは、咲ちゃん」


 お互い本名は名乗らない。その代わり、親しみやすい名前で呼び合う。 


「今日は映画館でしたっけ?」


「う……ん。観たい映画があったんだけど、一人で見て来ちゃったから、今日はご飯食べに行こう」

 南は頭を掻いた。


「どんな映画見たんですか?」

 私は興味ありそうな声を出す。


「俺って、ノンフィクションが好きだからさ。女の子はそういうの嫌いでしょ?」

 

 南は、見た目三十代後半ぐらいで、背は高くなく、ガッチリした体型だ。学生時代ラグビーをしていたそうだ。


「そんなことないですよー」

 私は少し笑いを含みながら、手を振って否定する。

 

 (ノンフィクション映画……見たことないな……)

 

「んじゃあ、また今度誘うよ」


「はい」

 愛想笑いする。


 案内されて行った先は、少し上品な匂いがする居酒屋だった。


 席に着くと、おしぼりで顔を拭く南。

 それを見て少しニヤけた。

 

「咲ちゃんは、ビールでいいかな?」

 

「はい。とりあえずビールで」

 

 私が笑うと、南もつられて笑う。

 

「最近さ、弟が結婚するって聞いてさ。先越されちゃったんだよねー。俺が咲ちゃんとかと遊んでる間にさ」

 おしぼりを折っては開いてを繰り返した。


「それは……おめでとうございます。んー……結婚するのもしないのも自由だと思いますよ」

 私もおしぼりをいじりながら言う。


「自由……か……」

 南は遠くを見つめて呟いた。


「私も姉がいるんですけど、近々結婚するらしくて……」


「おっ! めでたいことが続くもんだね。おめでとう!」


「でも、嬉しいはずなのに素直に喜べない自分がいて……嫌なんですよね」

 

 (あ、ちょっと喋りすぎた……)


「あ! わかる! 寂しいような、取り残されたような変な気持ちね」

 南はこっちを見た。


「うんうん」

 目が合う。

 (かなり違うけどね……)


 ちょうどその時、ビールが来た。

 

「乾杯しようか……お互いの姉弟の結婚と……」

 南がジョッキを掲げる。


「お互いの自由に……乾杯」

  

「乾杯」

 

 お互いのジョッキを合わせて、カチンと音が鳴った。


「プハー! うまいね!」


 私も二口飲んだ。

 

「おいしー」 


「俺、モモ串とねぎまと砂肝、それと唐揚げ頼む。咲ちゃん何頼む?」


「それ、全部鶏肉じゃん」

 

 どんだけ鳥好きなの――? 思わず笑った。

  

「私、大根サラダとポテトにしようかな」


 南が店員を呼ぶ。

「すいませーん」

 

 やばい。なんか酔ってきた……。一杯でやめとこ。


「ちょっとお手洗いに」


 南が注文している間にトイレへ。


 (体調悪いのかな……? 次はノンアルにしよう)


 鏡を見ると、頬を染めた自分がいた。


 別れた彼氏に言われた言葉を思い出す。

 

『酔った紗奈、めっちゃ可愛い』


 この人は、違うと思ってた。私を見た目だけで見てたわけじゃないと……。


 付き合いが長くなるほど、冷めた言葉を浴びた。


『お前、性格きっつ。それに、なんでそんないつも冷めてんの? つまんないんだけど……』


 結局、振られた。


 何人も振られるたびに、自分への自信が削られていった。


 やっぱり、レンタル彼女は、私に合ってるかもな……。


 ――これなら、絶対、振られないから。

 

 用を足して、席に戻ると、南が唐揚げを頬張っていた。


「ごめん、お腹空いてたから、先食べちゃった。咲ちゃんの分は、取っといてあるから」


 テーブルの白い皿には、焼き鳥二本と砂肝一つ、唐揚げ一つが乗っている。


「みんな食べちゃっていいのに」

 南らしくて、笑ってしまう。


「俺さ、小さい頃いじめられてた弟が心配で、ずっと守ってやってたんだ」

 南はサラダを食べ始めた。


「そうだったんですか。南さん強そうだしね」

 ポテトをつまむ。


「社会人になっても心配だった……。で、親より親らしかったよ」

 南はそう言って笑った。


「じゃあ、結婚されたら寂しくなりますね」

  

「そうなんだよ」

 言いながらポテトを振り回す。


「俺は、咲ちゃんに寂しさ埋めてもらおうかな」


 (ん? ちょっと、言動怪しくなってきたな……)


「……まあ、冗談だけど」 


 私は肩の力を緩めた。


「咲ちゃんは、お姉ちゃんとはどんなだったの?」


 正直に言うべきなのか、適当に繕うべきなのか、一瞬迷った。


「うちは年子で歳が近いから、すぐ比べられるの。姉は優等生で、比べられて辛かった」

 つい本音が出てしまった。スカートを握りしめる。


「それは……周りの奴が、見る目がないね」


「えっ?」


「咲ちゃん、こんなに可愛いのに」

 南の視線に少し熱が籠る。


「ありがとうございます……。というか、そろそろ時間が……」

 (可愛いだけじゃダメなの。可愛いだけじゃ)

 

 南が腕時計を見た。


「あ。もうこんな時間か」

 

 (危ない危ない。南さん、こういう人だったのか……。気をつけないといけないな)


「咲ちゃんと過ごしてると、ほんと時間経つの早いな。先に店出て待ってて」


「早いですよね」

 (もう、早く帰りたい)


 店の外でしばらく待っていると、会計を済ませた南が出てきた。


「ご馳走さまでした」

 

「いえいえ! またよろしくね」


「こちらこそ、ありがとうございました」

 お辞儀を丁寧にした。


「では」

 晴れやかな笑顔。


「バイバイ」

 手を振る南。


 振り向かずに駅に向かう。

  

 私って、そんなに性格きついの?


 見た目しか取り柄がない。


 ……でもいつか、知らなかった自分を見つけたい。

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