第11話 気づいてしまった
月曜日。
総合テストが始まった。
テスト環境にアクセスが集中し、朝から画面の読み込みが遅い。
「ログイン、ちょっと重くない?」
「サーバー側で詰まってるかも」
あちこちから声が飛ぶ。
テスト項目を一つずつ潰していく。
画面遷移。入力。登録。エラー確認。
問題が出れば、その場で切り分けて、担当に投げる。
「ここ、登録後に一覧戻らない」
「再現する?」
「する。動画撮った」
「ありがとう、チケット切るね」
スラックの通知音が鳴り続ける。
修正、再テスト、確認。
同じ操作を何度も繰り返す。
気がつくと、時間がかなり経っていた。
「白石さん、このケース見てもらっていい?」
呼ばれて、席を立つ。
隣のモニターを覗き込む。
チーム全体が少し張り詰めた空気になっていた。
「あれ? ここ仕様と違ってる」
「ほんとだ」
これは、中村さんの担当分だな。
「中村さん、ここのところのデザインが別ページのと一緒になっちゃってるから、急いで直して」
「はい。すみません、直します」
「ここのボタン効かないな……困るよ」
ここも中村さんとこか……細かくチェックしとけばよかったな。
「ここは私が直すね」
「すみません、よろしくお願いします」
これくらいならすぐ直せるかな。共通関数化されてるはず……あれ? ないやん。まさかサーバ側も? ないやん……。作らないと!
「白石さん、なんかあった?」
井上さんが声をかけてくれた。
説明するとすぐ理解してくれた。
「俺、サーバ側作るから、イベント作っといて」
「うん」
焦ると誤字が増えてしまう。私がホバー要素だのイベントを作り終わる頃には、井上さんはスクリプト関数まで作り終えていた。
「助かる!」
「動かしてみよう」
動作確認をすると、仕様通りに動く。……間に合った。
中村さんはまだ苦戦してるようだ。
「すみません……全然うまくいかなくて……」
中村さんの声が少し震えていた。
モニターを見たまま、動かない。
「私変わろうか?」
私が代わりに席についた。
「中村さん、気にしないで。総合テストの動作チェックしてもらってもいい?」
「はい。わかりました」
井上さんは、側で見てくれる。
……私の時は見てくれるんだ?
「大丈夫?」
「さっきほどじゃないと思うんだよね。……ここをこうして……オッケー」
井上さんと目があって笑った。
「中村さん……気にしてなければいいけどな」
「まあ、大丈夫だろ」
ん? あれ? 井上さんて、私が元気ない時すぐ気づいたのに、中村さんに対してはそっけないの。
「井上さん、中村さんのこと気にならないの?」
「なんで?」
「だって、私には心配してくれてずっと見ててくれたの……に」
喋ってて気づいた。
――あ。
今、全部繋がった。
恥ずかしくなった。多分顔が赤い。
井上さんの顔が、まともに見れない。
……どうしよう。仕事できない。
ずっとモニターの前で固まってた。
「どうしたの?」
顔を覗き込んできた。
目と目が合う。少しの間。
井上さんまで顔が赤くなってる気がした。
私は席を立って、トイレに駆け込んだ。
少し落ち着いてくると、私ってなんて鈍感なんだろうと思った。
たぶん……いや、きっと……井上さんて、結構あからさまな態度してたかもしれない。
私は? 井上さんのこと、好きなの? ……わかんない。
でも、一緒にいると落ち着くし、楽しいし、もっと話していたい感じがする。
――あ。
南さんと服買いに行った時、一緒に服見て欲しかった人は、――井上さんだ。
もう恋なんて、したくないと思ってた。しないと思ってたのに。
なのに。
今は……井上さん……匠が、恋しい。
自席に戻ると、匠はもう席に戻っていた。
それだけで、少し力が抜けた。
なんだかんだでテストでバタバタして、残業になった。
ようやくひと段落ついた頃には、八時を過ぎていた。




