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本当の王子様  作者: みつき


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第10話 自然でいられる

 翌日。


 モバイルクライアントとサーバーの連携テストが始まった。


 画面を見ながら、操作を繰り返す。


 リクエスト送信。レスポンス確認。ログチェック。


 いつもなら頭に入ってくる処理の流れが、今日はうまく追えない。


 さっきから、同じところで手が止まる。


「白石さん」


 横から声がした。


 顔を上げると、井上さんがモニターを覗き込んでいた。


「ここ、リクエスト二重で飛んでる。さっきから」


「あ……ほんとだ」


 全然気づかなかった。


 修正して、もう一度テストを回す。


 今度は通った。


「……ありがとう」


「うん」


 それだけ言って、井上さんは離れようとした。


 ……けど、少しだけ立ち止まる。


「元気ないね」


 さらっと言われて、言葉が詰まった。


 そんなに顔に出てる?


「……わかっちゃった?」


 誤魔化すように笑った。


「まあ」


 少しだけ笑う。


 なんで、この人にはわかるんだろう。


 少し迷ってから、口を開いた。


「……彼氏に振られたの」


 一瞬だけ、井上さんの表情が止まった。


 でもすぐに、いつもの顔に戻る。


「そっか」


 それだけ言うと、自席に戻って行った。


 変に慰めるでもなく、深く聞くでもない。


 でも、それが妙に楽だった。 


 テストを進めていると、業務連絡が入った。レンタル彼女のだ。


 名前を見て、少し驚く。悠さん……井上さんだ。


 もう……会社の人とはあっちで会わないって言ったのに。


 こっちからは理由がないから断れない。


 井上さんに直接ラインした。


『なんで、またあっちに予約入れたの?』 

 

『元気がないから。君が』


『ほんとにこれで最後ね』


『わかった』


 すると、俊からラインが入った。一瞬悩んだが、開いてしまう。


 スマホを握ったまま、席を立つ。

 トイレの個室に入って、やっと画面を開いた。

 

『傷つけてしまってごめん。もう何を言ってもダメだろうけど、紗奈を好きなことは嘘じゃなかった。もうやり直しをお願いする資格はないのは、わかってる。短い期間だったけど、ありがとう』


『こちらこそ、ありがとう。さよなら』


 スマホを胸に当てて目を瞑る。頬を涙が伝った。

 

 ◇


 木曜の夕方、打ち合わせ。


 連携テストは明日で終わり、来週から総合テストに入れそうだ。


 プロマネの岩城さんが口を開く。


「みんなよくやった。短期間で、しかも新しいことも多かった中で、ここまで持ってこれたのは、ここにいる全員のおかげだ。ありがとう」


 デザインチーム、開発チームのみんなが、嬉しそうな表情をしていた。


「金一封、出ないかな」


 開発チームの本橋さんがボソッと言うと、全員が笑った。


「場合によってはあるかもしれないぞ?」


 岩城さんがそう言うと、みんなどよめいた。


「まだ総合テストと受入テストが残ってる。気を抜かず、最後まで頼む」


 今日は、悠さん……井上さんとのデートの日だ。


『いつものパスタ店でいい?』


 井上さんからラインが入った。

 

了解スタンプ


 ◇


 お店に入ると、井上さんが先に来ていた。


「「お疲れさま」」


 井上さんが私の顔色を窺っているみたいにチラチラこっちを見る。


「今日は違うの頼もうかな」


 メニューをこっちに向けてくれた。


 おしぼりで手を拭く。店員がお水を置いた。


「ねえ、なんでまた予約したの?」


「ん……ずっと元気なさそうだったから」


「そう……」


 私のこと、見ててくれたんだ。


「ありがと!」


 微笑んだ。彼も微笑む。


「えと……今日はオムハヤシ頼もうかな」


「じゃあ、僕はハンバーグセットにしようかな」


 井上さんが、店員を呼んでくれた。


「オムハヤシとハンバーグセット下さい」


「かしこまりました。少々お待ちください」


 井上さんといると、なんか自然でいられるんだよね。

 地が出ちゃうというか……。

 

 自分からあの話を切り出した。

 

「姉の友達と最近付き合い始めてたの」


「そうなんだ」


「どうやら姉のことが好きで、引きずってたらしいんだけど、姉の家に行った時に初めて知り合って、告白されたの。結構強引で……」 


「好きだったんでしょ? 白石さん、その人のこと」


「……わかんない」


 私はおしぼりをいじっていた。

  

「じゃあ……わからないまま、付き合ってたんだ?」


「そうなるね」


 彼がおしぼりを強く握っているのに気づいた。


「……それ、辛いと思う」


「うん、辛かったのかも……」


 しばらく沈黙。


 オムハヤシと、ハンバーグセットが来た。


「ごめん、暗い話しちゃって」


「気にしないで。……食べよう」


「うん」


 白い皿の上に、ふわりと丸いオムハヤシ。とろりとした卵の上から、濃い色のソースがゆっくりとかかっている。湯気と一緒に、ほんのり甘くてコクのある香りが立ち上った。


 いい匂い。


「美味しそう」


 スプーンで卵を少し崩すと、中から温かいライスが顔を出す。ソースと一緒にすくって口に運ぶ。


 デミグラスの深い味と、やわらかい卵がほどける。


「……美味しい」


 自然と笑っていた。


 井上さんはハンバーグにナイフを入れている。肉汁がじわっと溢れて、鉄板の上で音を立てた。


「そっちも美味しそう」


「一口、食べる?」


「いいの?」


 小さく切り分けて、皿に置いた。


「……うん、美味しい」


 思わず笑うと、井上さんも少しだけ笑った。 

  

「こっちのも食べる?」


「うん」


 井上さんのご飯の皿に乗せる。


「このデミグラスソースがうまいね」


「うんうん」


「……ちょっと食べすぎちゃった」


 私が言うと、井上さんが笑う。


「ごちそうさま。……一つ、訂正してもいい?」


 前に言い過ぎたことを撤回したかった。


「ん?」


「会社の人とはレンタル彼女で会いたくないって言ったこと」 


「……うん」


「言い過ぎたよね……ごめん」


「じゃあ、また予約していいの?」


「いいけど……わざわざあっちじゃなくてもいいよ?」

 

「ほんとに?」


「うん。というか、まだ決まらないの? 彼女作るかどうかって」


「んー……、そうだね。まだだね」


「そっか。じゃ、こんど食べに行く時は、別のところにしよ?」


「わかった。場所考えとくよ」


 なんか急にニコニコしだした、井上さん。

 ……なんで?

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