断れなかった話
どうも、しゃーなこと星野紗奈です( *´艸`)
今回は「断れなかった話」ですが、そんなにかわいそうな話じゃありませんので安心してください(笑)ただ、タイトルが思いつかなかっただけなんです……
夏休み中にいろいろ書いたり読んだりしたのですが、そこまで上達していない可能性が高いです。それなのにいつもより長いため、何言ってるんだこいつはとなるかもしれません。それでも大丈夫!と言う方はお進みください。
それではどうぞ↓
ステージの真ん中が、スポットライトに照らされている。僕があのまぶしい場所に入れば、僕らの物語が始まる。ここまで来て、今更やめるなんてできるものか。作ってやろう、新しい物語を。新しい自分を。
僕はステージに向かって歩き出した。
「なあコウ、頼むよ」
ホームルームが終わったばかりの教室。手を合わせて頭を下げてきたのは、男子の推薦で文化祭実行委員になってしまったシュウジだった。
「いやだよ」
僕は拒否した。こうやって断ったのはいったい何回目だろうか。毎回懲りずによく来るものだ。その根性だけは褒めてやる。
夏休み明けにある文化祭で、僕たちのクラスは劇をやることになった。それが決まったところまでは良かったのだが、具体的なシナリオが決まらない。シナリオについて担任は、オリジナルのものにして適当にがんばってくれ、なんて言う。そんな、無茶苦茶な。
「なんで僕なんだよ。だいたい、他にもできそうなやついるだろ?」
「それがさ、誰も引き受けてくれなくって」
シュウジはへらへらと笑っている。僕のところにはこんなにしつこく来るけど、他の人にはそこまで頼み込んでいるのは見たことがない。それを問いただしたが、適当にはぐらかされてしまった。
「頼むよ、一生のお願いだ」
「本当かよ」
「本当だよ。もうコウしか頼れないんだよ。お願いだ」
そう言ってまた頭をさげるシュウジ。断るのも面倒になり、無視して荷物をまとめていた。すると、教室のど真ん中で土下座をしようとしたものだから、あわてて止めた。
「馬鹿!やめろよ、無駄に注目されるだろ?」
「だって、コウがやってくれないし。こうするしか……」
「あー、もう。わかったよ。やればいいんだろ、やれば」
「本当か!?サンキュー」
シュウジの言葉が空中を漂うティッシュペーパーのように軽く思えたのは僕だけだろうか。
「出来が悪くても知らないからな」
「コウなら大丈夫だろ。じゃあ、今週の金曜日の放課後までによろしくな」
そう言って、ウインクを飛ばし、教室を出て行った。シュウジは今週の金曜日の放課後までと言ったが、今日は木曜日だと果たしてわかっているのか。時間がまだまだたっぷりあるように言っているが、一日で書けと頼んでいるのだ。完全に、はめられた。
それからすぐに家に帰り、プロットを作り、台本を書いた。シュウジだけならいいが、他のクラスメートにまで迷惑をかけるのは良くない。そう思い、夜明けまで台本作りに取り組んだのだった。
翌日寝坊したのは、言うまでもない。
「すげーよ、文句なし!」
シュウジは台本をペラペラとめくりながら言った。一日で書けと言ってきたのはシュウジなのに、本当に書いてくるなんて思わなかったなんて言う。こっちは遅刻ギリギリだったというのに。まあ、シュウジがクラスのために動いてくれているのはよくわかっている。全く、憎めないやつだ。
「本当にありがとう、助かったよ」
シュウジに続いてそう言ってくれたのは、マナだった。素直にありがとうと言われると、なんだかこそばゆい。
「ごめんね、急にこんなこと頼んじゃって。大変だったでしょ?」
「いや、まあ……」
ここでストレートに言ったら、確実に嫌な奴という印象になってしまう。それで陰口を言われたり面倒ごとに巻き込まれたりするのはごめんだ。だから、はははと笑って、特に何も言わなかった。
「じゃあいよいよ、来週から役決めて練習だな」
「そうだね。早く練習始めないと、文化祭に間に合わないもの」
「じゃあ、お二人さんは引き続き実行委員がんばって。俺は帰るから」
「おう」
僕はカバンを手に取り教室を出た。マナは最後にもう一度ありがとうと言ってくれた。シュウジとは真逆の、いいやつだ。
「と言うわけで、今から役決めするぞー」
シュウジが教卓に手をついてしゃべっている。その後ろでは、マナが黒板に役を書き並べている。
「やりたいやつを挙手して言うこと。手をあげなかったやつはくじ引きで決めるからな。ちゃんと立候補しろよー」
「シュウジ君、立候補だけっていうのもなんだから、推薦もありにするのはどうかな」
マナがそう言うと、シュウジはそうだなとうなづき、クラスメートにそれを伝えた。
「追加でー。推薦もありってことで。じゃあ、主役から決めていくぞ」
僕が書いた物語は、ざっくりいうとヒーローものだ。とある国の姫が悪の組織にさらわれ、ヒーローが悪の組織を追い詰めて、戦う。そして、姫を無事取り戻す。どこにでもあるような、いたって普通の話だ。ところが、ターニングポイントなるものをいれると、物語がぐっと面白くなるらしい。以前読んだ本に、そう書いてあった。これを実践したのだが、そのターニングポイントを作るためにどれだけ苦労したことか。他にも役の数を考えたり、合間に入れる小ネタに頭を悩ませたり、予想以上に大変だった。難しくもおもしろいこの作業に没頭し、気が付けば日が昇り始めていた。その日は、なんだかブラック企業の社員になったようだった。
僕はしばらくそんなことを考えていたが、一向にヒーロー役が決まらないらしい。他の役、姫とかから決めればいいのに、と言いかけて思った。きっと、ヒーロー役によって姫をやるやつが変わってくるのだろうな、と。よくある話だ、好きな人が王子様だから私は姫になりたい、みたいな。そんなことを考えている女子に、お前の頭の中はお花畑か、と言ってやりたい。
「シュウジー、質問」
ある男子が手を挙げた。いや、挙げたと言うよりかは振ったと言ったほうが近いかもしれない。
「おー、なんだ」
「ヒーローってさ、主役なわけじゃん?だったら、この台本書いた功労者がやるべきだとじゃね?」
その発言に対してクラスから、確かにという意味を含んだあー、という声が挙がった。もうそいつでよくない?という声もあれば、主役はちゃんと決めるべきだよという声もある。
他人事の様に聞いていたが、ふと気が付いた。このままでは僕が主役のヒーローをやることになってしまうではないか。気が付いた時にはもう、時すでに遅し。
「じゃあ、コウ。やってくれるよな?」
僕の机に両手をついてそう聞いてきたのは、言わずもがなシュウジだった。結局、クラスの雰囲気が壊れることを恐れて断れなかった僕はヒーロー役をやることになってしまった。
夏休み中は、ほぼ毎日練習漬けだった。運動部に入っている人は夏の大会に向けて部活動に出ていたそうだが、あいにく僕は帰宅部だ。つまらなくても入っておくべきだったかな、と少し後悔している。
「コウくん、お疲れ」
「ああ、ありがと」
マナが声をかけてスポーツドリンクを渡してくれた。窓を開けていても教室は蒸し暑い。こんな場所でずっと劇の練習をしていたら、ミネラルとか塩分とか、そんなようなものがきっと不足してしまうだろう。マナは気が利くなあと思いながら、お礼を言ってそれを受け取った。
「半分くらい押し付ける感じになっちゃって、ごめんね」
「え、いや、別にいいよ。僕がやらないと始まらなかっただろうし」
そして最後に、シュウジに言われたら断れないからな、と付け足し笑って見せた。すると、マナもつられて笑顔になったようだった。
「ふふっ、やっぱりコウくんは優しいんだね。私、コウくんのそういうところ、好きだよ」
突然マナの口から出た『好き』の言葉は、僕の心をこれでもかというほど強く揺さぶった。まさに、開いた口がふさがらない、という状態である。頬を伝った汗が地面に落ちた時、ようやく意識がはっきりした。
「あ、ごめんね。なんか変なこと言っちゃった」
マナはそう言ってそっぽを向いた。真っ赤に染まった耳がちらりと見えた気がする。それが何だかすごくかわいらしく見えて、心臓が高鳴った。
「あ、ううん、別に。」
二人は、気まずくなって黙った。心地よい騒音が耳を満たしていても、心臓の音は僕の心の一切を支配した。
すると、クラスメートが練習の再開を告げた。
「僕ヒーローにはなれないかもしれないけど、自分なりに頑張ってみるよ」
僕は立ち上がり、足早に彼らのもとへ向かった。
ステージの真ん中が、スポットライトに照らされている。僕があのまぶしい場所に入れば、僕らの物語が始まる。
とはいっても、まだ幕が上がっていないから、この景色は観客には見えていない。すなわち、準備中ということである。正確にいえば、劇が始まるのは舞台の幕が上がってからだ。そんなくだらないことを劇直前に考えている僕は、きっと馬鹿だ。
「本当に、ありがとう」
薄暗い舞台裏で、マナは僕にそう言った。
「いやいや、僕も楽しかったし。ああ、楽しいのはこれからか」
「ふふっ、そうだね……あ、あのね、一つ言いたいことがあるの」
急に顔を赤らめてじっと見てくるものだから、もしかしたら、と考えてしまう。このようなシチュエーションは全世界の男の願望であろう。
「それは、今じゃなきゃダメかな」
「う、ううん!全然大丈夫」
「ははっ、じゃあ劇が終わってからのお楽しみってことで」
僕は下手くそなウインクをした。そうしたら、彼女はまた笑った。それはお菓子なウインクを馬鹿にした笑いなのか、それとも安堵の笑いなのか。きっと後者であることを願おう。
「やっぱり、コウくんのそういうところ好きだなあ」
そんな言葉が聞こえたような、聞こえなかったような。顔に集まる熱も、おさまらないこの胸の高鳴りも、劇に対する緊張だ、きっとそうだ。って、僕は乙女か。そんな自問自答をして必死に心を落ち着かせようとする。
「ヒーロー、すっごく似合ってるよ。がんばってね」
「おう」
マナにそういわれると、本当にそうなんじゃないかと思えた。僕でもヒーローという言葉が似合う男になれたのではないか、と。冷静に見れば、衣装はお世辞にも格好いいとは言えないし、僕自身もそんなに目立つキャラクターではないということは一目瞭然なのだが。
きっと、いや100パーセントの確率で、本物のヒーローにはなれないけど、彼女のヒーローにだったらなれるかもしれない。そんな希望の芽が土の上に顔を出した。
「コウ!そろそろ出番だぞー」
シュウジが小声の大声で僕を呼んでいる。マナにまた後でな、と声をかけ、シュウジのほうへ歩いていった。最初は面倒で仕方がなかったこの役も、今はそんなに悪くない。
ここまで来て、今更やめるなんてできるものか。作ってやろう、新しい物語を。新しい自分を。
「さてと、やってやりますか」
僕はステージに向かって歩き出した。
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