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I'm not a hero.  作者: 星野紗奈
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苦しい話

どうも、しゃーなこと星野紗奈です。

今回は「苦しい話」です。どこに苦しみを感じられるかは、それぞれ違うのではないかと思われます。そんな話を楽しんでいければと思います( *´艸`)


※この話の中では一部流血表現があります。場面的にはそんなに長くありませんし、リアルに表現できるほどの技術は持ち合わせていないので大丈夫かと思われますが……。苦手な方は一応STOPしてくださいね!※


上の注意を読んだうえでウェルカムだよ!という方はこのまま進んでください。

それでは、どうぞ↓

 私はいたって普通の高校生で。普通の生活を送っていて。普通に青春を謳歌していた。


 ――――――はずだったのに。いったい、どこで道を踏み外してしまったのだろうか。何を間違えてしまったのだろうか。私がしてしまったことはもう取り返しがつかなくて。ごめんね、なんて簡単に言えるわけがなかった。



「みゆ、おはよう」

「かなこ!おはよう」

 かなこと仲が良くなったのは、中学一年生の時だった。父の仕事の関係でこちらに引っ越してきて、まもなく私は中学校に入学した。だから、知り合いなんているはずもなく、うまくやっていけるか心配だった。そんなとき、一番初めに声をかけてくれたのが、かなこだった。

 私もかなこも、性格に変な癖はなかったから、すぐに友達になれた。なぜこんなことを言うのかというと、小学校には性格に癖のある子が大変多かったため、仲良くなるために苦労したからだ。中学二年生になると、私たちは親友になった。その次の年には心友になった。

 何も頼る存在がいない中、かなこだけは私のそばにいてくれた。それが素直にうれしかった。かなこのことは、心の底から、本当に信頼していた。彼女になら心の内をさらけだせた、と言っても過言ではないくらいに。

 私たちは、別々の高校で通うことになった。かといって、私たちの絆が簡単に切れることはなかった。しかし、そこから悪夢が始まった。


 高校に入学して早くも半年がたった。もう、夏だ。今日も、太陽がじりじりと照りつけている。夏休みに入ってから一週間たった日、かなこと会うことができた。ちょうど近所で祭りをやっているということで、一緒に出掛けることにしたのだ。メールでのやりとりは何度かしていたものの、それと実際に会うのとは全くの別物だ。かなこに久しぶりに会えると思うと、心が躍った。

 時計を見ると、ちょうど午後六時を指していた。待ち合わせ場所は、昔と変わらない公園の噴水。待っている間はなんだか落ち着かなくて、目が公園の入り口と時計とを何度も行ったり来たりしていた。これじゃあまるで、デートの待ち合わせで彼氏を待っている彼女みたいだ。

「みゆ!ごめん、待った?」

「かなこ!ううん、全然待ってないよ」

「ほんとに?」

「ほんとだよ。ねっ、早く行こう?」

「わかったわかった」

 かなこの手を引いて、祭り会場へと向かった。ああ、私の夏がようやく始まった。


 しばらく、祭りの人混みの中を歩き、屋台を見て回った。しかし、この混雑の中では落ち着いて話すことができそうにないので、適当に夕飯を買って少し離れた場所にあるベンチに移動することにした。私は焼きそば、かなこはたこ焼きを買って、ベンチに座った。

「あー、やっぱりたこ焼きもおいしそう」

「みゆは全然変わってないね。いいよ、一個食べる?」

「いいの!?やっぱりかなこは優しいなー」

 一緒にご飯を食べていてこんなに楽しいのはかなこしかいない、と私は改めて思った。話に花を咲かせながら食べた焼きそばとたこ焼きは、普通のものよりもずっとおいしかった。

焼きそばとたこ焼きは、あっという間に食べ終えてしまった。時間がたつのが早いと感じたのは、焼きそばとたこ焼きがおいしかったからなのか、それともかなこといたからなのか。まあ、この際そんなことはどうでもいい。

「ふうー、おいしかった。ごちそうさま」

 私はベンチの背にもたれかかって、おなかをさすりながら言った。そのまま顔をあげて空を見上げてみると、星がとても綺麗だった。今まで気がつかなかったのが不思議なくらい。祭りのにぎやかな灯りに負けない、美しい空だった。

「ねえ、かなこ!見て、星がすごくきれいだよ!」

 子供みたいにはしゃぎながら私は言った。しかし、かなこはうつむいたままだ。心配になって、かなこ?ともう一度声をかける。かなこの肩がぴくりと動いた。私の呼びかけに気づいてもなお、かなこは顔をあげなかった。何か、悩んで迷っているようだ。私は彼女が自分から言ってくれるのを待っていると、しばらくして顔をあげた。

 その顔には、一筋の涙が流れていた。私はぎょっとした。気づかないうちに何か気に障ることをしてしまっただろうか。彼女のトラウマを思い出させてしまったのだろうか。考えても、考えてもわからない。私が戸惑っているのに気が付いたのか、かなこは小さな声で言った。

「みゆになら、言ってもいいかな」

 なんのことか、さっぱりわからなかった。でも、漫画でよくある流れだったら、と考えてしまう。いやいや、私一人で先走ってしまうのは良くない。私は黙って彼女の言葉を待つことにした。静かに息をのむ。生ぬるい風が頬をなでた。

「私ね、いじめられてるの。」

 その言葉をすぐには理解できなかった。驚きと戸惑いで、私は気の利いた言葉をかけられなかった。それに、その先の現実なんて知りたくなかった。

 私の考えを察したのか、かなこは高校に入学してから今までのことを静かに話し始めた。

「私ね、初めは楽しかったの。勉強も面白かったし、部活もがんばった。友達たくさんできたんだよ。それに、好きな人もできた。そうしたらね、あいかちゃんっていういわゆるクラスの女王みたいな子がね、私に言ったの。『なんであんたばっかり幸せなんだ』ってね」

 かなこは無理してまで笑っていた。彼女の目から流れた涙が、地面に丸いしみを作っていく。きっと、つらかったんだ。それを私に話してくれるのだから、私もその現実としっかり向き合うべきだ、と思いちゃんと目を見て聞く。

「それで、目をつけられちゃって。5月の中頃からだったかな、いじめられてた」

「そう、だったんだ……」

 私はそう言ってまた目線を地面に戻す。涙のしみが、ひとつふたつと増えていく。逃げちゃだめだ、とは思うが、どうしたらいいのかわからない。「つらかったね」とか「苦しかったね」とか、私だったらそんな言葉かけてほしくない。同情されるのは、嫌いだ。かといって「話してくれてありがとう」も「気づいてあげられなくてごめんね」もどこか違う。だけど「私が助けるから」なんて無責任なことは言えない。何が正解なのか、わからない。頭の中を同じような言葉がぐるぐると回るだけで、結局何も言えなかった。

 しばらく、私達の間に沈黙が流れた。それが長かったのか短かったのかはよくわからなかった。ただ、遠くから祭りのにぎやかな声だけが聞こえていた。

「ごめんね、こんなこと話しちゃって」

 かなこは、また笑った。

「い、いや、こちらこそ聞いてることしかできなくてごめん」

 このままだと彼女が壊れてしまいそうで、見ていられなかった。

「あのさ、私で良ければ、受け止めるよ。だから、おいで?」

 私は腕を広げて言った。どこかの漫画の彼氏みたいではないか、と思ったが、これ以上のことは今の私にはできそうになかった。

 かなこは素直に私の胸に飛び込んできた。よしよし、とでも言うように、頭を優しくなでてみる。かすかにすすり泣く声が聞こえたが、すぐに祭りの音に紛れて消えてしまった。


 それから私は、かなことよく会うようになった。せめて夏休みくらいは楽しい思い出を作ろう、ということになったのだった。

「あー、あの時、みゆに話聞いてもらえてほんとに助かった。ありがとね」

「いやいや、できることなら何か手伝いたいけど」

「それはいいの。みゆを私のことに巻き込みたくないから」

「……そっか」

 時々、私たちの間に踏み込んではいけないラインが見えた。それは大きな地割れでもなく、氾濫している川でもなく、道路のアスファルトに子供がチョークで描いた一本の線のようなものだった。

「夏休みに遊べるのは、これで最後かー」

「ねえ、また来月も会おうよ。週末とかさ」

「いいの?楽しみだなあ」

「かなこが行きたいところへ行こう」

「うん。あ、でもみゆがやりたいこともちゃんとやろうね」

「もちろん。私、我慢なんてできないから」

「ふふっ、みゆらしいね」

 少しの間、二人で笑いあった。ちょっぴり昔に戻れたみたいで、楽しかった。

「ほんとに、ありがとう」

「それ何回も聞いたよ」

「何回言っても足りないの。それに、『ありがとう』ってなかなか言えないし」

「そうだね。じゃあ私も、ありがとう」

「えへへ、ありがとう」

「ん、ありがと。」

「ありがとー」

「……この会話、終わらない気がするんだけど?」

「ふふっ、別にいいんじゃない?」

 そんな風にふざけながら、人混みの中を二人で歩いた。後から考えてみれば、これは何かの前兆だったのかもしれない。

 交差点の赤信号で、私たちの歩みは止まった。流れている水をせき止めているみたいに、周りにもぞろぞろと人がたまっていく。

「みゆはいつまでも、私のヒーローだよ」

 そう言いながら振り返ったかなこの笑顔が、目に焼き付いて離れなかった。後ろの真っ赤な夕日はまるで絵に描いたように美しすぎて、周りの人はやけに無表情で、なんだか気味が悪かった。

「急にどうしたの?」

「なんとなく、だよ」

「なんとなく、か」

 耳を澄ませて、あたりの音を聞いてみる。車のエンジン音、人の足音、集中すればすずめのような鳥の鳴き声まで聞き取ることができた。

「あ、ヒーローじゃなくて、ヒロインか」

「あー、そうだね。私はれっきとした女の子ですから」

「でも、ヒーローのほうがかっこいいな」

「まあ、確かに。でもそれだと、私のことを遠回しにかわいくないって言ってるみたい」

「そういうわけじゃないよ、多分」

「多分って」

 私たちはくすくすと笑った。もう高校生なのに、なんだか子供みたい。そんなあたたかい時間が流れていた。その時だった。

 ドン、と背中を押された。意図的な行為ではないと思うから、押されたというよりかは、当たってしまったというほうが近いかもしれない。そのせいで私の体が前に傾いた。前には、道路。つまり、たくさんの車が行き来している交差点に、私は飛び込もうとしていたのだった。


 結果から言うと、私は飛び込まずに済んだ。一番大切なものを犠牲にして。

「みゆ!」

 かなこは私の名前を叫びながら、手を伸ばした。だめだとわかっているのに、私は無意識にその手をつかんでしまった。きっとそれが間違いだったのだろう。

 かなこは私を人混みへ投げた。でもかなこは、戻れなかった。かなこが車にひかれていくのを、黙ってみていることしかできなかった。かなこの赤色が、妙に映える。私は恐怖で腰が抜けてしまい、しばらく立てなかった。とても情けないと思った。何もできない自分がみじめだとも思った。どうしようもないくらい、吐き気がした。

 その時の夕日は、やけに赤くて、うざったいくらいにまぶしかった。


 夏休みが開けて、以前と変わらない学校生活に引き戻された。しかし、あの事故のことは、昨日のことのように鮮明に思い出すことができる。私の夏は、あの日に終わってしまったのだ。かなこの死は、私にとって苦しみ以外の何物でもなかったが、それを理由に学校を休むわけにもいかない。どんなにつらかろうが悲しかろうが、私情を他人と生活する場所に持ち出すのは、はっきり言って迷惑だ。


 学校が再開してから一週間もたたないうちに、それは起きた。ある日、たまたま部活が休みだった日のことだ。いつもと同じように帰ろうとしていた。だが、できなかった。校門を出て、左に曲がろうとしたところで、腕をつかまれたのだ。

「ちょっと、いいかしら?」

 その人物には、思い当たる節があった。私は顔をあげた。

「名前を、教えてください」

「名前?まあいいわ。私はあいか。あなたはみゆさんでしょう?」

 私は黙ってうなずいた。いったい、どこで私のことを調べたんだか。彼女とは何も話したくなかった。しかし、それは避けては通れない道だった。

「あなた、大変だったわね。だって、かなこちゃんの自殺に巻き込まれたんでしょう?」

「え?」

 ほら、と言いながら、新聞記事を見せてきた。その記事には確かにそう書かれていた。いや、正確には「事故か自殺」とあいまいに書かれていた。その現場を近くで見ていた人なら、これは事故だとわかっていたはずだ。それなのに、だれだこんな記事を書いたのは、と少し腹が立った。

「かわいそうねえ、親友が目の前で自殺しちゃうなんて」

 彼女のすべてに腹が立った。にんまりと笑う表情、片足に重心をかける立ち方、慰める気がないだろうという言い回し、あざ笑うような声のトーン。もちろん、同情する態度にも。その態度は、まあ、本心ではないと思うが。全部が全部かなこを馬鹿にしているようで、許せなかった。

「まあ、何かあったらここに連絡ちょーだいな。相談にのってあげますから」

 そう言って、無理やりメモを私のカバンにねじ込んできた。こんなもの、いらない。家に帰ったら、いや帰り道にでも、すぐに捨ててやる。

 彼女は高笑いしながら、満足げに帰っていった。もう、名前さえ呼ぶ気になれなかった。



 かなこの墓の前にしゃがんで、彼女の名前をじっと見つめてみる。

 私がもっとしっかりしていれば。もっと強ければ。もっと早く気が付いていれば。もっと勇気があれば。出てくる言葉は後悔ばかりで、どうしようもなかった。嗚咽が込み上げた。

 かなこは最期の日、「私はヒーローだ」と言っていた。しかし、私はヒーローにもヒロインにもなれていなかった。そんな強いものではなかったのだ。一番大切な人を守れなかったのだから。私は、ヒーロー失格だ。

 ただ、泣くことしかできなかった。行き場のない感情は涙にするという方法しか思いつかなかった。私は、正真正銘の馬鹿だ。

「かなこ、私は今からでもヒーローになれるかな」

 独り言を言ってみる。無論、返事は返ってこない。

「私ね、かなこのためにできることは全部したいの。」

 私の心残りは、かなこのことだけだった。私の大事な心友。

「いくらかなこでも、止められないよ」

 その存在が消えた今、私に生きる理由など何もない。

「私、我慢なんてできないからさ」

 一人で、笑ってみた。大切なものは、もう、取り戻せない。

「こんなことしかできなくて、ごめんね」

 それが分かり、私は立ち上がった。最後に一言「ごめんね」と謝ることができて良かった、と私は思う。それは、かなこのためになっていない、ただの自己満足かもしれないが。

「また報告しに来るね」

 かなこの墓に手を振ってみる。何も返ってこないのを理解し、背を向けた。涙をぬぐって、家へ足を進める。私は、最高のエンディングを見つけてみせる。真っ赤な夕日はすっかり沈み、またあの日のように星が輝いていた。

なんとも言えない終わり方になってしまいましたが……。

この後の展開は自由に想像していただけるとうれしいです!

最後までお読みいただき、ありがとうございました(*'▽')


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