第79話 フジャイラの王、ベルンハルトを統治する
領土割譲の話は白銀の翼の仲間を喜ばせ、フジャイラの国に意気揚々と帰って来た。
僕は主だった者たちを集め、打ち合わせを行った。本来は議会を開かなければならないのかもしれないが、その事前の打ち合わせをしたかったのだ。
僕は話し出した。
「皆さんに話しておくことがあります。この度、フジャイラはベルンハルトおよびその近隣の村をフジャイラの領土とすることになりました。領土の拡大は、フジャイラ国の未来の繁栄につながると思っております」
「おう、それは凄い」
トーリさんから声が上がり、拍手が起こった。
「しかし、ベルンハルトが我が国となると、ベルンハルトの民の生活とアルスブルクの街の生活が余りにも違いすぎて、村を棄て、村民が一気にこの街に移り住むことにならないでしょうか?そうなると、荒れ地だけを手に入れたことになります」
と、道中色々考えていたのだろうカルロスさんが発言した。
「僕もそういう懸念はありました。しかし、フジャイラの民やメーリッシュの民の住む場所も必要なので、領土の拡大は我が国の未来につながります。そのために、ベルンハルトでは、今迄の生活を変えず、食糧支援を進めて、自立できるようにしていくことにします」
僕はそう言って、他に意見があるかどうか、確認した。皆を見回すが、意見もなさそうだったので、続けた。
「それで、これから街道の整備を行い、ベルンハルトがこのアルスブルクと直接つながるようにします。その後、ベルンハルトと周辺の村の街道を作り、ベルンハルトが周辺の村を管理する体制とします。ここまでよろしいでしょうか?」
皆が頷くのを確認して、僕は続けた。
「それで、これからの重要な位置を占めるベルンハルトですが、カルロスさん、貴方を領主代行とします。そして、村長をベローさん、治安の維持を行う警備隊長にルドルフ隊長を考えています」
すると、カルロスさんが言い出した。
「陛下、私は、これから、春の試験を受けようというまだ若輩者です。上に立つには荷が重すぎます」
僕はカルロスさんに言った。
「カルロスさん、今回の春の試験は、知識だけではありません。実務試験も含みます」
カルロスさんが首を傾げる。
「ベルンハルトを任せます」
カルロスさんは僕の言葉に目を見開いた。言葉が出せないカルロスさんにさらに言った。
「突然の話ですが、カミーラとも相談して決めました。試験期間は少々長くなりますが、頑張ってください」
無言のカルロスさんを無視して、ルドルフ隊長に話しかけた。
「ルドルフさん、急な申し出ですが、必要な人員の手配をお願いします。僕たちは先行してベルンハルトに入りますので、追いかけてきてもらうと助かります。ルドルフ隊長もこれが春の試験となります」
ルドルフ隊長は、
「分かりました」
と、快く引き受けてくれた。それを確認して、トーリさんに、話しかけた。
「トーリさん、食糧の手配の状況はどうなっていますか?」
「いま、ベルンハルトにノアさんとオリバーさんがいて、差配しているはずです」
「であれば、当分大丈夫ですね。もう一つお願いがありまして、街道を作る人を集めて、ベルンハルトまでの街道を整備したいのです。こちらもお願いします」
「分かりました」
トーリさんが答えた。その答えを確認して、次にアレオス騎士団長にお願いをした。
「団長、帰って来たばかりで申し訳ないのですが、街道の整備が終わるまで、アルスブルクから移動の魔道具の定期便を運航したいのです。人員の配置をお願いします」
「分かりました」
と、団長も快く引き受けてくれた。すると、カミーラ王妃が僕を見つめて言った。
「私は何をするのだ?」
「特にありませんので、カミーラは休んでいて下さい」
「どうしてだ?」
「マギビスタ王都から帰ってきたばかりです、お疲れでしょう」
「疲れておらんが」
「いや、お疲れでしょう。お休みください」
「アルス、何か、私がベルンハルトに行ってはいけない理由でもあるのか?」
「いえ...」
僕が口ごもると、カミーラ王妃は言った。
「私は王妃だ。王が行くなら私も行く」
カミーラ王妃のこの態度がベルンハルトでどう受け入れられるかを考えると、先が思いやられた。
ベルンハルトの村は荒涼とした風景の中に少しずつ家々が建ち始めていた。働いていたノアさんとオリバーさんに労いの声をかけた。
「お疲れ様です。ベルンハルトの状況はいかがですか?」
「見てもらってもお分かりかと思いますが、大分、落ち着いて来ています」
ノアさんが答えると、僕は言った。
「伝えたい事があるので、オリバーさんを呼んでもらえますか?」
しばらく待っていたが、なかなか帰って来なかった。痺れを切らして、カルロスさんが、呼びに行くと、トラブルの主を一緒に連れて来た。そこには、以前のベルンハルトの村長がいた。
ベロー新村長が声をかけた。
「村長?どちらにいたのですか?」
「あー、村の災害を伝える為に王都へ行っていたのだ。ブルームバーグ公爵家に直談判するために王都に行っていたのだが、いい返事が聞けずにいたのだ。それが、どうだ、リザードマンは倒され、村で炊き出しが行われているということを聞いて、急ぎ戻って来たのだ」
「そうですか、村長、こちらが今度のこのベルンハルトを治めるフジャイラ国王のアルス様です」
と、ベロー村長に紹介された。
「フジャイラ国王のアルスです」
僕は挨拶をした。
「フジャイラ国が治める?どういう訳でしょうか?この地はブルームバーグ公爵家の土地で、リチャード様が領主のはずです。リチャード様から私がこの村を任せて頂いたはずですが...」
前村長は口をとがらせ主張し始めた。僕は説明した。
「リザードマンを倒した功に報いることで、マギビスタ国からこの土地を譲ってもらったのです。それで、貴方が不在でしたので、僕の権限でベローさんをこの村の村長にすることにしました」
「土地を譲られた?嘘でしょう。そんなことがある訳がない。それに、ベローが村長?あり得ない。村長は私以外考えられない」
「どうしてそんな事が言えるのですか?これがその時の契約書になります。100万G支払い、マギビスタ王と僕の署名もあります」
僕が契約書を見せると、前村長はそれを見て小刻みに震え始めた。そして、言った。
「それは本物か?ブルームバーグ公爵は一言もそのことを言ってなかった。嘘をついて、私とこの村を取り上げるつもりだろう」
彼は目を見開いて、僕を睨みつけた。それで、気づいたように言い放った。
「アルス?と言う名でようやく思い出した。お前はブルームバーグ家の出来損ないの末の息子でないか?おっ、横にいる女は、よく見ると盗賊団の首領か?なんだ、お前らは盗賊をまだ続けているのか?それも私を騙すための偽造した書類だろ」
彼は容赦なく無礼な言葉を投げつけた。僕はそれに冷静に答えた。
「そう思うのは貴方の自由ですが、この契約書は本物です。そして、我々は今はフジャイラと言う国の王と王妃で、このベルンハルトは我々の土地です。貴方にそのような失礼な言葉を言われる理由はありません」
なおも彼は言い続ける。
「嘘がいつまでも続くと思うな。これからマギビスタ王都に行き、ブルームバーグ公爵家のリチャード様にお前らの所業を訴えてやる」
「訴えてもらっても構いませんが、リチャード兄は家にはいませんよ」
「えっ、どういうことだ」
「リチャード兄は別の所領に移されたはずです」
「また、勝手な嘘ばかり言う。その時は、ブルームバーグ公爵直々に訴えるまでよ」
「どうぞ、お好きにしてください。それでも、貴方の居場所はこの村にはありません」
僕はきっぱり言った。
「でも、私はこの村の住人だ。住む権利がある」
前村長が言いはると、ベロー村長が言った。
「リザードマンが現れた時に、私は指示を仰ぐために村長を探しました。しかし、村長の家に行っても誰もいなかった。貴方は村を見捨てたのだ。それなのに貴方はこの村の住人だと言う。
おかしな話です。
この村の住人にはリザードマンに親や子を殺された者もいます。村民を見捨てて、自分の家族だけを守るのは村長にあるまじき行動です。貴方は村の住人でもなく、この村の住人から罰せられても文句が言えない立場です。違いますか?」
前村長は一瞬無言になるが、やっと、思いついたように言い出した。
「リチャード様に一緒に来てくれと言われたのだ。仕方なかったのだ」
「あちらで、こちらを見ているのは、村長のご家族ですよね。家族とともに家財道具とか目ぼしい物を運ばれているようですが」
「それはそうだろう、村を出ても生活できないと困るではないか?」
「家族と家財を持って村を出ているのに、我々が襲われているのに、それをいい事に一言も告げずに出て行く。狡くて卑怯な手段です。
王都に助けを呼びに行ったと言われましたが、一族を連れては助けを呼びに行けないでしょう。多分、この村の近くで、この村の様子を伺い、リザードマンがいなくなったら戻って来ることを考えられたのでしょうが、私は、そういう貴方と貴方の一族をこの村に受け入れることを新村長として拒否します」
ベロー村長の強い言葉に前村長はたじろいだ。僕は追い打ちをかけた。
「いや、村長、居てもらいましょう。もし、この人が王都にも行かず、会ってもいないブルームバーグ公爵家の名を騙ったとすれば、マギビスタ国でも犯罪になります。僕が父に確認してきますので、それまで、居てもらうことにしましょう」
僕は静かに言った。すると、前村長は言った。
「分かった。私達は今からここを出て行く。もう、探さないでくれ」
そうして、トラブルは自然に去って行った。




