第78話 フジャイラの王、領地を増やす
僕はフェルプス商会の会長室で、フェルプスさんと考えていた次の事業の話をし始めた。
「私はフェルプスさんには銀行を作ることをお勧めします」
フェルプスさんは銀行と言う言葉に反応した。
「銀行ですか?既に、銀行というのはフジャイラ国のファビオの店の隣にあるのではないですか?」
「はい、そうです。しかし、あそこではフジャイラで使うPTとマギビスタで使うGの交換にあたる両替えしか行っていません。銀行の本来の目的は違います。人々からお金を預かり、安全に保管します。そして、その資金を必要とする人へ貸し出したり、事業へ投資したりして利益を得る商売です」
「しかし、それがなぜ私なのですか?」
フェルプスさんが言った。
「それはこの国で有数のお金が集まる商会だからです。その資金を利用しない手段はありません」
「なるほど、そうなんですね」
フェルプスさんは納得できていなかった。
そう言った時に、王宮への呼び出しがあった。
僕が連れられて行った先には、マギビスタの王とブルームバーグ公爵である父がいた。
早速、気さくにマギビスタ王は笑顔で声をかけて来た。
「フジャイラ王よ、久しいな」
「はい、こんな時にしか、お目にかかれないのを残念に思います」
「まあ、良い。マーガレットはどうじゃ、大人しくしているか?」
「はい、狭いですが、フジャイラを楽しんでおられるようです」
「そうか、何よりじゃ」
と言って、笑い顔を引き締めて、話し出した。
「ブルームバーグ公爵から話は聞いた。やり方は色々あるとは思うが、公爵がお前に渡すつもりでもあったベルンハルト領をフジャイラ国の一部にするということにしたいと思っている。そちの考えはどうだ」
「はい、願ってもない申し出でございます」
僕は即答した。
「そうか?良かった。しかし、条件がある。ブルームバーグ家の間であれば、ただの相続であり、何ら問題もない。ただ、お前はフジャイラと言う国を持つ王だ。国家間の問題となる。だから、マギビスタ国から魔物を退治した褒美として、割譲するということにしたいのだ。その意味が分かるか?」
「つまり、正式な売買という形にするのですね。おいくらでしょうか?」
そこで、マギビスタ王はブルームバーグ公爵を見た。
「チャールズ」
ここで父であるブルームバーグ公爵をマギビスタ王は名前で呼んだ。
「ベルンハルトの年間の納税額はいくらだ」
「はい、年間1万Gだったと思います」
「そうか、分かった。では、フジャイラ王よ、その100年分の100万Gで割譲しよう」
そう言いながら、マギビスタ王は僕に顔を向けた。
「分かりました。いつまでに支払えばよいでしょうか?」
僕が答えると、試すような顔でマギビスタ王は僕を見て言った。
「いつまでなら払える?」
「明日中にはご用意いたします」
僕が答えると、王が笑いながら言った。
「無理しおって」
「無理ではありません。必ずご用意できます」
「おう、そうか。無理はしておらぬのか?フジャイラ国は裕福な国なのだなぁ。
では、明日までに用意して、王宮に50万G、ブルームバーグ公爵家へ50万Gを支払え。その時、割譲の書類を用意しよう」
マギビスタ王は鷹揚に話を終えた。
僕はマギビスタ王に詰め寄った。
「陛下、割譲の文言と金額が入った書類を、今、書いていただけないでしょうか?フジャイラの民の汗が混じったお金を集め、ベルンハルトを購入する以上、マギビスタ王の心変わりが無き事を示すものが欲しいのです。お願いします」
「おい、アルス。何を言うのだ。王の言葉は絶対だ」
父が僕を諫めた。
「しかし、僕は国の民の未来を言葉だけで決めることはできません。陛下、文書をお願いします」
「アルス、それ以上は王への不敬だ」
僕に投げかけられる父の言葉はきつくなった。
「...ほう、」
その時、マギビスタ王は小さく笑った。
「チャールズ、もうよい。契約の文書を今書こう。少し、待っておれ」
王は人を呼び、話をした。呼ばれた人は急ぎ部屋を出て行った。それを見て、王は父に話しかけた。
「チャールズ、そなたもそれで良いな」
「はい、十分でございます」
父は平身低頭した。
しばらくして、契約書が届けられ、マギビスタ王が確認し、そして、僕に確認を促された。内容を確認し、問題ないことがわかった。サインの欄だけが空白で、僕がお金を持ってくればそこで契約がなされることになる。
僕は言った。
「陛下、ありがとうございます。フェルプス商会におりますので、お呼び頂ければ、お金を持って、参内いたします」
「そうか、その様にしよう。もう、下がっても良いぞ」
マギビスタ王の言葉に、僕はその場を引き下がった。
残った二人は会話を続けていた。
「気を使うことはない。面を上げてくれ、チャールズ」
父は顔を上げ、王に顔を向けた。
「チャールズ、お前も息子で苦労するな」
「はい、出来過ぎた息子はハラハラさせ、愚かな息子はイライラさせます。残った息子は平凡です。もしかしたら、平凡という事が、一番良い事なのかもしれません」
と、父が言うと、マギビスタ王が答えた。
「きっと、そうなのだ。私の娘たちもそうだ。普通であるという事は難しいものだ。ところで、チャールズ、時間はあるか?」
「ありますが...」
「何はともあれ、お祝いをしよう」
「何のお祝いでしょうか?」
「お前の息子、フジャイラの王のお祝いだ。やってなかったよな。しっかりした王になるぞ、将来が楽しみだ」
「そうでしょうか?」
「だから、私の自慢の娘を預けたのだ。よろしく頼む」
マギビスタ王は意味ありげな笑いをチャールズに向けた。
僕は急ぎフェルプス商会に戻ると、フェルプス会長に面会を求めた。面会が許されると、会長室の扉を開き、フェルプスさんの元に駆け込んだ。
「フェルプスさん」
僕の勢いにきょとんとしながら、フェルプス会長が答えた。
「どうしたのです、そんなに慌てて」
僕は勢い込んで言った。
「フェルプスさん、100万G貸して下さい」
「ほー、アルス様が我が銀行最初のお客ですね。お貸出ししましょう。最初のお客様でも利子は容赦しませんよ」
こんな時でも、商売だけは忘れない人だった。




