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七歳で世界を変えた少年〜前世の知識と禁断の魔法理論で、僻地を最強都市に作り替える〜  作者: 霧里 野蒜


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第73話 フジャイラの王、冬を迎える

 冬は確実に寒さを連れて来て、ちらつく雪が人々の気持ちを身構えさせた。

 来年の入学試験は瞬く間に周知され、街のざわめきは数日続いた。しかし、いつの頃からか、ざわめきがなくなり、その分、僕を見る人の目の輝きがかわったことで、皆のなかで拡散された情報が浸透したことを感じさせられた。


 僕は新しくできたヒールポーションを前にして、ファビオさんと打ち合わせをしていた。それを眺めながらファビオさんが言った。

 「綺麗な青ですね。高そうに見えます」

 木の栓をした透明なビンに入っている青い液体が冬の雲の間から見える陽にてらされ、キラキラしていた。

 「飲んでみますか?」

 僕がそう言うと、ファビオさんが嫌そうな顔をしたので、

 「甘いですよ」

 と、加えると、ファビオさんが反応した。

 「えっ、薬なのに?」

 「はい、薬だけど甘いです。というより、飲みやすいように甘くしました」

 ファビオさんが、おそるおそるポーションを手に取り、木の栓についている紐を引いて、一口飲み込んだ。

 「苦くない、それに、変な後味も残らない。これは飲めるかもしれません」

 それから、一息に飲み干し、スッキリした顔をして、言った。

 「これは薬でしょうか?美味しい飲み物みたいです。効果の程はどうですか?」

 ファビオさんの問いに僕は答えた。

 「薬師のガレタさんの評価では良ポーションということでした」

 「そうですか?」

 ファビオさんがそう言い、一瞬考え込み、それでも思い直したように話し出した。

 「そのくらいの品質が販売しやすいかもしれません。今までは、薬としてポーションは販売されていました。そのため、薬ギルドに登録し、登録料とともにポーションの販売代金の二割をギルドに納める必要があります。私にも薬ギルドの友達がいますので、薬としての販売もできますが、陛下は、そう言った販売をお望みでしょうか?」

 僕に聞いてきた。

 「いや、作って気に入ってもらえたら、ファビオさんが販売してくれると思っていたので、何も考えはありません」

 僕は正直に答えた。

 「分かりました。これは、薬でなく飲み物として販売したいと思っています。そうすれば、薬ギルドに登録料や販売利益を取られずに済むので、その分安くできます」

 「なるほど、健康飲料と言う訳ですね」

 「健康飲料?それはどういうことですか?」

 「薬は病気になった時に飲みますが、健康飲料は、ちょっと疲れた時とか、毎日飲んでいると元気な状態が続くという飲み物です」

 「陛下、いいアイデアです」

 「さらに飲みやすくするために匂い付けを果実で行ないましょうか?」

 僕が言うと、ファビオさんがすぐに反応した。

 「陛下、ますます良いです」

 僕は次のポーションを開け、ブドウジュースを取り出すとポーションにブドウジュースを一滴垂らした。それをファビオさんに飲んでもらった。

 「陛下、これは格段に美味しくなりました。しかし、なんか、違います」

 ファビオさんが再び考え込んでしまった。

 そこへいつの間にか、クロエさんが顔を出した。

 「アルス、何をしている?」

 「新しい商品をファビオさんに販売してもらおうと相談にしに来ました」

 「ふーん、じゃ、私が評価してやろう」

 と言ってブドウジュースを手に取って飲もうとしたので、慌てて止める。

 「違いますよ、ブドウジュースではありません。こちらのポーションです」

 「ポーション?苦い奴か。まぁ、いいや、評価してやる。苦くないように、ブドウジュースに、ポーションを入れれば飲みやすくなるなぁ」

 と言って、ブドウジュースにポーションを加えて、一気に飲み干した。

 「あれ?苦くない。美味しいぞ。それになんか、体がポカポカしてきた。それに、指先にあった弓だこが無くなっている。体が色々おかしいぞ」

 「クロエさん、当然です。ポーションの効果が出ているのです」

 「ふーん、そんなものか、ジュースにそんな効果があるとはな、不思議な飲み物がこの村にはある物だ。もっと飲ませろ」

 クロエさんが言い出した。それに反応するように別のところから、声がかかった。

 「陛下、それだ。それですよ」

 興奮してファビオさんが立ちあがった。


 ファビオさんと村の生産品としてポーション改め、ブドウジュースにポーションを微量に混ぜた炭酸入りと無しの健康飲料として販売することになった。これにより、一つのポーションから二十本の健康飲料ができるようになった。それでも疲労回復には十分効果があった。

 ファビオさんはまずエルザさんの店で試験販売をし、その反響を持って、次の販売計画を練るということだった。しかし、思わぬとこから売って欲しいと連絡があったとのことで、すぐに増産することになった。

 クロエさんがいつものように試作品を持って歩き、いつの間にか冒険者ギルドに広めてしまい、冒険者ギルドからファビオさんに注文が来たのだと言う。

 「今回は、クロエに助けられましたよ。それで、エルザの店の食事券を取られてしまいましたが、冒険者ギルドが健康飲料として定期に購入してくれることになり、いくつでも欲しい状況です。ですので、陛下、どれくらい作れます?」


 雪が本格的に降り始めた。僕はこの国の冬を初めて経験していた。広がる街の道には融雪用の水魔法の魔道具を設置した。そのため、道が歩けなくなることは無かった。人は雪にも負けず、動き回っていた。

 僕は隣の塔と自宅を繋ぎ、塔の展望レストランから街並みを眺めていた。いつの間にか、カミーラ王妃が横に立っていた。

 「冬だな」

 カミーラ王妃が声をかけて来た。

 「あっ、カミーラ。どうしたのです?」

 「学校は今日は雪で休みだ」

 「そうなんですね。良かった。では、ゆっくりできますね」

 「そうだな、アルスともゆっくり話すこともなかった。いつものカルロスはどうした?」

 「今の時間は、春のテストに向かって勉強中です」

 「おや、カルロスも試験を受けるのか?」

 「はい、少しでも僕の役に立ちたいとの気持ちがあるようです」

 「ふん、そうか。健気だな」

 「そうですね。合格して欲しいものです」

 僕はそう言いながら、舞い落ちる雪を展望レストランの大きな窓越しに見ていた。その先にあるはずの遠くの山々も見えなくなっていた。

 「借金はどうした?払えそうか?無理していないか?」

 カミーラ王妃が唐突に聞いてきた。お金の心配をしていると気をつかったのだろう。

 「借金?あー、マギビスタに納める税金のことですか?問題ありません」

 「かなり、無謀な金額だ。マーガレットから言ってもらえば、少しは安くしてもらえるだろう」

 「そうですね。そう言う方法もあると思いますが、この街は順調に外貨を稼いでいます。魔道具は灯りの魔道具、暖房の魔道具、音楽再生の魔道具と順調に生産しております。食品事業はエルザさんのレストラン事業のマギビスタ国内展開により、生産が追いつけなくなっています。加えて、ポーションが飲料事業として立ち上がりました。また、リバーシというゲームボードの生産も追いついておりません。

 フェルプス商会が頑張って販売しておりますので、彼らがいる限り、この国の税金を支払うのは特に問題ないと思っています。逆に、現状を知った王国から、税金を増やされないかが心配になるくらいです」

 「おう、そうか、安心したが、アルスは何を悩んでいるのだ」

 「悩んでいるように見えますか?」

 「見える。いつもの様な元気さがない」

 「そうですか?そう見えますか?実は、前世の知識を思い出していたのです」

 「嫌な思い出か?」

 「そうかもしれません。前世の僕が生まれた所は雪国でした。雪が降り積もると家から出られず、こうやって曇る窓ガラスを手で拭きながら外を見るしかないのです。ただ、雪で遠くまでは見れないのですが...」

 「ふん、前世の子供の頃の事を思い出して、感傷的になったという訳か」

 「そうなんだと思います。ただ、」

 「ただ、なんだ?」

 「先が見えなくなりました」

 「雪で外は見えないだろう」

 「果たして、そうでしょうか?」

 「何が言いたいのだ」

 「この国の先が見えないのです。僕の知識と考えを国民に押し付けた先に何があるのか?分からないのです」

 カミーラ王妃はすぐに答えようとして考えなおす素振りをした。そして、間をおいて答えた。

 「其方はこの国の王だ。国民に対しての責任もある。王の自覚が出て来たと評価しても良い。だが、其方はその前に私の伴侶でもある。其方が恐れているのは、其方の政策で国民に誹りを受けることかもしれない。不幸な人をつくることかもしれない。でもそれは其方だけの責任ではない。その評価は私にもあり、それを私は喜んで受けよう。その為に私は其方の横にいる。分かってくれるか?」

 「カミーラ」

 僕が彼女の方を見ると、彼女は優しい笑顔を見せて言った。

 「死ぬときは一緒だぞ。分かったな。アルス」


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