第72話 フジャイラの王、夢を作る
「今回行う競争とは?」
僕は話の間をおいて、議員を見回した。固唾を飲むような顔が並んでいた。僕は話し出した。
「今年の春に新設する大学への入学試験を行い幹部候補生を選出します。その幹部候補生は二年の勉強後、この国を運営に携わってもらうことになります。皆様、区長の上に立つ人物になると考えてください」
議員がきょとんとした顔をしているのを確認すると、僕は続けた。
「年齢、性別には関わらず、入学試験を行います。奮ってご参加下さい」
まだ、分かっていない議員の一人が手を上げ、質問を求めた。僕が頷くと質問を始めた。
「試験と競争がどう繋がるのか意味が分かりません」
「それはですね...」
と、僕が説明しようとすると、カミーラ王妃が苛立ったように話し始めた。
「この国には優秀な人間が必要だ。我々はそれを選びたい。しかし、優秀であることを我々に示すためには試験が必要だ。そのために、全町民の競争をお願いする」
「と、すると?」
「分からんのか、つまり身分は関係ないということだ。貴族でも使用人でも、能力だけで競う。その競争をして欲しいと陛下は望んでいるのだ。どうだ、面白いだろう?」
議員の目の色が変わった。
冬が近づくにつれ、大きな魔法ガラスで作られた薬草園を整備した。暖房の魔道具で冬でも温かく、また、ガラス窓は陽の光を取り込むことができ、薬草は青々としていた。この薬草園の担当はガレオンから来たガレタという女性薬師が面倒みていた。
最高品質のポーションを精製するには、揮発する魔力の臭いや、薬液のわずかな苦味の変調を五感で捉えなければならない。
ガレタは長年の調合作業で毒素と魔力中毒に侵され、味覚と嗅覚を失っていた。そのため薬草栽培に専念していたが、僕が治療したことで再びポーションを作れるようになった。
しかし、一日に作れるのは十本ほど。それでは産業にはならない。彼女のポーション作成技術を大量生産に向くように、工程を分解する必要があった。
ガレタは眉間に皺を寄せながら言った。
「陛下はそう言われますが、それは昔からの熟練の技であり、説明は難しい。材料は、薬草、精製水と決まっておりますが、これらを混ぜて温めながら、最適な濃縮度を味覚と嗅覚で判断しなければなりません。薬草の品質状態で毎回、この時間と温度が決まるのです。これが、上手くできなければ優良ヒールポーションになりません。
まだあります。
この最適濃度の液に、魔石粉末を入れ、魔力を封じ込める作業もあり、作る量に応じて魔力も膨大となります」
「なるほど、一人で十本も作れるガレタさんは優秀な薬師なのですね」
僕が言うと、少しだけガレタは表情を緩めた。
「確かに、どちらも難しいですね。では、今、日に十本なので二十本作れるようにしましょう」
「どうやって?」
彼女は物分かりの悪い人を見るように半ば呆れたように言った。
僕は魔法ガラスで作った大きな容器を異次元収納から取り出した。
「これで薬草、精製水を混ぜます。色も分かるのですが、お話を聞くと色より濃度が分かる方が良いといわれましたので、最適な濃度になると色が変わるような魔法陣を描きますので、まず、これで一緒にヒールポーションを作ってみましょう。まずは従来どおり作ってください。その工程を魔道具に覚えさせます」
僕に促され、ガレタさんは魔法ガラスの器で材料をいれ、温めながら撹拌し、ポーションを作り始めた。そして、匂いと味を確かめながら最適な濃度を確認して、僕に言った。
「この濃さです」
「これですね。わかりました」
僕は答え、その濃度を魔法陣に記憶した。さらに、できた溶液を濾して別の容器に移し替えた。それから、魔石粉末を入れ、魔力を込めながら、魔力が通る棒で魔力を定着させるために撹拌していった。
「だめです。私ではこの量をヒールポーションにする魔力がありません」
「魔力には自信があるので、代わります」
僕が言うと、ガレタさんは言った。
「今の薄い緑が鮮やかな青色になるまで、ゆっくり魔力を棒に込めて回してください」
僕は頷き、魔力を込めながらゆっくり回すと、ガレタさんに魔力操作でもう少しで変化するところだったのだろう、数回、掻き混ぜると液体が一瞬光り、鮮やかな青色になった。それを見届け、僕は撹拌を止めた。
「できたようです」
と、僕がガレタさんに声をかけると、
「どれどれ」
と、ガレタさんが確認すると、ヒールポーションができていて、優良だということだった。僕も味を確認してみた。
「うっ、苦い」
僕が思わず顔をしかめると、ガレタさんが笑いながら、
「薬は苦いものだ。苦いから薬なのだ」
と言ってきた。
「でも、飲んだら気分が悪くなるのは良くないですよね」
「いや、昔からそういう物だ」
「そう言う物ですか、改善したいですね」
「あー、陛下は若いからそのうち作れるのではないか?」
ガレタさんが諦めた口をきいた。
「頑張ります」
僕はそう答え、さらに続けた。
「今回の作業をある程度、大きな容器でできることが分かった気がします。明日も来ますので、一緒に確認してもらっても良いですか?」
「はい、いつでもどうぞ」
と、ガレタさんから無理やり承諾を引き出し、僕は帰宅し、僕の家の研究室でその日は遅くまで、試作を繰り返した。
翌日、僕はカルロスさんと連れ立って、ガレタさんを訪ねた。
「ガレタさん、こんにちは。今日はカルロスさんを連れてきました。彼が、今日、作業します。材料を貸して頂き、見ててもらって、評価してもらって良いですか?」
事前にカルロスさんには手順を話していた。
カルロスさんは刻んだ薬草を異次元収納から僕が出した容器に入れ、精製水を入れ、撹拌し始めた。それでも、変化がなく、容器の中の液体の色は透明だった。
「陛下、温めなくていいのですか?」
ガレタさんの問いに答えた。
「カルロスさんが撹拌している棒が熱を出します。ですので、容器に近い所をかき回して、全体に熱が回るようにして、液体の温度を上げるように改善しました」
やがて、容器全体の温度が上がってきたのか、薄っすらと緑色が溶けだして来た。
「もうすぐかもしれません。容器に何らかの変化があるかもしれません」
すると、容器が赤くなった。そして、黄色になって、青くなると、カルロスさんが撹拌を止めた。撹拌による液流が落ち着くと、容器の青色がスーッと消え、本来の液体の薄い緑が容器越しに見えた。
「陛下、言われる通りにやりました」
カルロスさんが少し荒くなった息の中で、僕に声をかけて来た。僕はガレタさんに声をかけた。
「確認してもらえませんか?」
僕の声に彼女は容器の液体を一匙取り出し、匂いを嗅ぎ、味を確認した。声を出した。
「まぁ、合格だ。私が体調を崩した日に作る程度の品質だ」
彼女の声を聞いて、カルロスさんに出来たその液を濾しながら別の容器に移し替えてもらった。
「おい、その液を使うのか?優良ポーションはできないぞ」
ガレタさんの声に、僕は答えた。
「はい、この仕組みでは優良ポーションは作りません。良ポーションを作るつもりです」
移し替えされた容器に、カルロスさんは魔石粉末と黒い液体を入れた。そして、別の棒を使って撹拌し始めた。今度はゆっくりだ。どれくらいたったのだろうか?あまり時間はたっていないように思えたが、薄っすらと容器が光り始め、それから、何回か撹拌すると、液体が一瞬強く光った。その光を見て、カルロスさんは撹拌を止めた。
「陛下、光りました。上手くできましたか?」
「カルロスさん、ありがとうございます。十分です」
僕はガレタさんに確認をお願いした。彼女は液体を一匙掬い、匂いを確認した後、舐めた。
「えっ、甘い」
ガレタは目を丸くした。
もう一口舐める。
「美味い」
信じられないという顔で、もう一匙すくう。
「これは、本当に薬なのか?」
ガレタさんは驚いた目で僕を見つめた。




