第68話 フジャイラの王、王女の悲しみを知る
「では、皆さん、席につかれましたか?この展望レストランはこれからゆっくり上昇して、それからゆっくりと回り始めます」
僕が説明すると、
「おー」
と、皆、驚きの声を上げた。それから、ざわめきが続いた。
「ゆっくりだが、高くなっているし、回っている」
「どうやって動いているのだろう」
「王都にもこんなレストランは無いのではないか?」
「それにしても大きな不思議な窓だな。遠くまで良く見える」
と、口々に色々な声が出ていた。
僕とカミーラ王妃とマーガレット王女は同じテーブルについていた。カミーラ王妃がマーガレット王女に気遣うように話しかけた。
「気分はどうだ?このレストランは動くので、時に私も気分が悪くなることがあるのだ」
「気分は悪くない。面白い建物だ」
マーガレット王女が言うと、
「陛下にお願いすれば、王都にも作ってもらえるのではないか」
と言ったカミーラ王妃の言葉にマーガレット王女が冷たい反応をした。
「作るのは良いが、私がいない王都に必要はない」
そう言って、マーガレット王女が僕をじっと見た。そして、こう問いかけた。
「私は父に棄てられたのだな。そう思うだろう、アルス」
僕は彼女の問いに真っ直ぐ答えず、僕の事を話した。
「僕は棄てられました。でも、その分、自由になれました。そして、色んな人と巡り合い、この国を創りました。小さな国です。ですが、守るべきものがあります。そして、そのためにやるべきことができました。楽しいです」
「そうか、アルスは年の割に大したものだな。アルスにはその苦境を跳ね返す力があるのだ。今の私には王家の肩書をとったら何もない。寂しいものだ」
マーガレット王女が悲し気に呟いた。その気持ちを察したのか、カミーラ王妃が言った。
「少しばかり年上の私から言わせてもらう。マーガレット、其方はまだ若く、色んな事が出来るはずだ。持っている王家の力も上手く使えていない。それを学んでこの国から出て行けば良い。私は予知する力を持っていて、其方を見て言うが、マギビスタで其方の力が必要になる未来が見える」
マーガレット王女が王妃を見て、少し顔つきを変えた。
「そうなのか、それは良い。気休めかもしれぬが良い事を聞いた」
王妃は続けた。
「私は棄てられたわけではない。生きるために国を捨てたのだ。そして、今、私が生き残ることで我が国は、陛下の力で復興している。面白いものだ。私は半年前迄はただの娘だ。名ばかりの女王。もっと言うと、盗賊の首領だったとの話だ。私も最初は分からなかった。今はどうだ、こうして王女然としている。可笑しいだろう」
王妃はマーガレット王女に微笑みかけた。
「運が良かったのだ」
マーガレット王女は答えた。それに王妃は言葉を返した。
「そうかもしれん、そうでないかもしれん。運命を変えるきっかけは何処にあるかも分からない。私はそれを見つけた。其方も見つけることができると思うが、それを活かせるかは分からない」
王妃はマーガレット王女を覗き込むように見つめて言った。
「陛下の事を考えたと思うが、私の陛下は、渡さんぞ」
そして、再度、王妃はマーガレット王女に微笑みかけ、話をつづけた。
「良い顔になってきた。陛下から聞いた貴方は打ちひしがれた弱い姫ではなかった。強い心を持っていれば、臣下も強くなる。臣下が強くなれば人も集まる。亡き父の遺言だ。そなたにも教えよう。強い心を持て、そして、努力して待つのだ。それが、やがて報われるのだ」
王妃の言葉に勇気づけられたのか、
「分かったわ。ありがとう、なんとか、やっていけそうな気がする。だんだん、お腹が空いてきたわ。ご飯はまだなの?」
マーガレット王女は、いつもの調子で言った。
「では、食事を始めましょう。クロードさん、お願いします。カルロスさん、曲をお願いします」
僕は食事をクロードさんに指示し、再生の魔道具の操作をカルロスさんにお願いした。クロードさんが慣れた手つきで、コーンスープを運んで来て、カルロスさんが王都の楽隊の音楽を再生し始め、歓迎の宴が始まった。
プリンの横にアイスクリームがついているデザートが出されて、この宴も終盤となった。
マーガレット王女の機嫌も良くなり、次第に僕に絡みだした。
「アルス、このレストランはいつも開いているのか?」
「いつもではありません。必要があるときだけです」
「私の席をこのレストランに設けろ。私はここで毎日食事をする。費用などいくらかかっても良い」
彼女はプリンを食べ、次の一匙でアイスを口に運びながら言った。
「良いですよ。費用は必要ありません。カミーラと共に食事をご提供します」
「アルスはどうするのだ?」
「僕は時間が取れれば、お付き合いいたします。これでも王として忙しくしております」
僕が言うと、カミーラ王妃が付け加えた。
「王というより、一人の国民として仕事が多すぎるのだ。少し、そういった仕事を減らせ。でないと、肝心な仕事ができないぞ」
僕は答えた。
「まだ、小さな国です。未開の地をひらいて領土を拡大することが急務です。冬も近いし、その準備も必要です。フェルプス商会へ納品する魔道具も作らなければなりません。やることはまだまだ多いのです」
その僕の言葉に、カミーラ王妃が返した。
「拙速は全てを失う。其方は王だ。ゆったり構えておけ。
其方は指示だけ出せばよい。指示で足りなければ、一度、やって見せろ。それを真似させれば良いのだ。最初は誰も上手く行かない。失敗もするだろう。其方はそれを受け止めながら、失敗した原因を考えて、やり方を変え、人民がやっていけるようにするのが、これからの役目だ」
「しかし...」
と、僕が口を挟むが、カミーラ王妃は続けた。
「偉大な王は人民の前に常にいるものだ。そして、いつも私はその王の隣にいて王を助けるのだ。分かったな」
「はい」
僕が不満そうにそう呟くと、言葉が足りないと思ったのか、王妃はさらに続けた。
「この国は陛下と私で始まった。どちらかが居なくなれば、この国は終わる。これからは私達は後方で国の力を作っていく人を補助することが私達の仕事だ。分かって欲しい。それと、言葉には気を付けて欲しい。其方は王だ。王の言動で足を引っ張り、王の位から振り落とそうという輩は出てくる」
そう話しながら、王妃の目は僕を真っ直ぐ見つめて、僕が答えるのを待っていた。
「分かりました、カミーラ、そうします」
僕が言うと、僕の返答にもう言う事は無いのだろう、王妃が笑顔を見せた。すると、マーガレット王女が言った。
「私はどうなる。私は何をすれば良いのだ」
「そうだな、我々の邪魔をしなければ何をしても良いぞ」
王妃が答えると、マーガレット王女が言った。
「アルスと話してみて思った事がある。思っていたほど子供ではないし、能力も負けていない。
決めた。
父に言われたようにアルスの嫁になることにする。カミーラが何と言おうと関係ない。今、決めたのだ」
「おい、先ほど、私が陛下を渡さんと言ったのを聞いてなかったのか?」
「でも、アルスが私の魅力に気づき、私を好きになったらしょうがないだろう」
マーガレット王女がそう突っぱねると、王妃が僕に椅子を近づけて、僕の腕をとって、彼女の胸もとまで引き付け、こう言った。
「陛下は私から離れられないのだ」
同じようにマーガレット王女も近づき、残りの腕を抱きしめた。
「負けないぞ」
僕の苦難は去っていなかった。
数日後。
マーガレット王女一行も落ち着いて来て、村にようやく静かな日常が戻った頃だった。新たな訪問者が村の入り口に現れた。
「ベルンハルトの領主であるブルームバーグ公爵家のリチャードだ。この村の長を出せ」
「何のご用でしょうか?」
村の入り口に作られた櫓の上から門番担当が対応した。
「何の用?それはしれた事、このベルンハルトの領主に断りなく、こんな所に村があるのだ。この村の長と話をしたい。我が領内である以上、税を支払うべきだ。それが出来なければ、目にもの見せてくれるぞ」
嫌な奴がやって来た。




