第67話 フジャイラの王、最初の難問
カミーラ王妃を残し、僕とカルロスさんがスコッテイ王女と供に王宮に来て、スコッテイ王女の引っ越しの手伝いを行った。フェルプス商会からファビオさんにも来てもらった。
スコッテイ王女の身の回りの世話をする人はフェルプス商会で雇ってもらい、また、必要な物品もフェルプス商会に調達するようお願いした。
これからは、スコッテイ王女はフジャイラの大使の役割も兼ねるため、様々な人とのお付き合いをするのに困らないだけのものを用意する必要があり、かなりの物入りとなった。しかし、現在のフジャイラ国の財政ではスコッテイ王女の世話人を五名雇うので精一杯だった。また、調達した調度は華美でなく、落ち着いた色合いで、質素なものであった。
スコッテイ王女が住むのに指定された部屋は、王宮の北側の寂しいところで、寒々としていた。スコッテイ王女は一緒に部屋に入り、すぐに僕に言った。
「お兄様、トイレとお風呂だけは何とかならないでしょうか?アルスブルクの生活の快適さを捨てられなくなりました」
と言われ、僕は部屋の外に、お風呂とトイレの排水を浄化し、隣接する雑木林に排水する簡易浄化システム槽を作った。トイレとお風呂をそれに繋げた。
それができたのを見て、スコッテイ王女は言った。
「お兄様、この部屋は広くて良いのですが、暗く、これからの冬には暖房が必要です。そう言うところでは生活できません」
僕は灯りの魔道具を至る所につけ、暖房の魔道具を設置した。それで、薄暗い感があったので、当初あった小さな窓を大きく開く引き戸の魔力で曇りガラスになる窓に交換して、解放感のある部屋にした。
「お兄様、ありがとうございます」
スコッテイ王女は嬉しそうに部屋を見回した。
「これなら安心して暮らせそうです。ですが、もう一つだけお願いがあります。お兄様、王都の生活に慣れる迄、食事は村の食事を食べられるようにしてもらえませんか?」
僕はフェルプス商会のエルザさんに食事を届けてもらうように手配しておくことにした。念の為に、異次元収納の魔道具を渡し、その中に村で作った食事とデザートを入れておいた。
「お兄様、王都で着るドレスが欲しいのですが」
ファビオさんに言って、フェルプス商会でドレスを用意してもらった。それに、動きやすく、いつもきれいに見えるように風魔法と浄化の聖魔法を組み込んだ。
「お兄様、」
「はい、今度は何でしょうか?」
「まだ、この王宮に親しい人がいません。それで、お付き合いの為にお茶会をしたいのですが...」
「はい、それは良い考えですよね」
僕が答えると、スコッテイ王女は言った。
「お菓子はあり、お茶もあります。でも無いものがあります」
「何でしょうか?」
「音楽です。兄様達の結婚式の時に使った音楽を流す魔道具を頂けませんか?」
「それも必要ですね。えーっと、どこだったかなぁ。あー、見つけた。はい、これです」
と言って、楽隊分の魔道具を3つとカミーラ王妃の二胡演奏を記憶した魔道具を渡した。
「お兄様、私が時間を持て余した時は、お姉さまと念話するくらいしかやることがありません。他に何かありませんか?」
スコッテイ王女は言った。僕は、線で区切られた四角い盤と小さな円盤を取り出した。
「リバーシというゲームですが、カルロスさんがルールを知っていますので、少し、遊んでみてもらって良いですか?本当は読書とかが良いのかもしれませんが、本で面白いものを知りません。その代わりになるかどうか、分かりませんが...」
と、僕が言っている間に、スコッテイ王女はカルロスさんの手を引いて、すぐ横のテーブルでゲームに興じ始めた。取り残された僕は、スコッテイ王女の部屋に秘密の脱出口を作ることにした。
あるか、ないか分からないマギビスタの王宮での反乱を想定した脱出通路をつくっておく必要があると思ったのだ。土魔法で床に穴を開け、階段を作り、その通路を延ばして行き、エルザの店の一階駐車場に脱出口を設けた。それぞれの入口を土魔法で塞ぎ、魔力と特殊な呪文でしか開かないようにした。動作を確認し、スコッテイ王女の部屋の入口も同様に土魔法の魔法陣で塞いだ。
地下通路を完成させた頃には額に汗が浮かんでいた。
「さすがにこれだけ魔法を使うと疲れるな」
独り言が漏れた。
その入り口を絨毯で隠して、終わったとスコッテイ王女たちを見ると、戻って来たファビオさんも一緒になってゲームに興じていた。
僕が彼らに近づくと、それが分かったスコッテイ王女が笑顔で言った。
「お兄様、このゲームは面白いです。お付きの人にも覚えてもらって、楽しませてもらいます。勿論、もらえるんでしょう?」
「あー、問題ないですよ。僕とカルロスさんで偶に遊ぶくらいなので」
そう僕が答えると、カルロスさんがやけに真剣な顔で言い出した。
「陛下、僕がやっと陛下に勝てるようになったから、このゲームをスコッテイ様に上げるのではないですよね」
「いや、まだ、予備はありますから、大丈夫ですよ。それに、まだ、カルロスさんは僕に勝ったことはないですよね」
「それは、そうですけど、もう少しで勝てると思います。現に、スコッテイ王女には連戦連勝です」
「それはそうでしょう、彼女はゲームを覚えたてですから」
「そんなことはありません。彼女はそれなりに強いのですから」
カルロスさんは懸命に反論した。そんな中、ファビオさんが言い出した。
「アルス様、このゲームですが、我が商会で販売させていただけないでしょうか?」
「えっ」
「分かりやすくて、戦略性もあり、相手の陣を奪い返して、逆転する快感もある良いゲームだと思います。是非、最初から、数千の単位で納品お願いします。材料はこちらで用意します。本日、村へお戻りですよね」
「まだ、決めておりませんが...」
「私が3日後に、灯りの魔道具の納品を受け取りに村に行きます。その時、百、いや、千個、これが欲しいのです。よろしいですか?」
「あっ、はい」
と、僕がファビオさんの言葉に圧されて言うと、ファビオさんはスコッテイ王女に、
「アルス陛下は急用のために村に戻られます。スコッテイ様のお世話はこれからフェルプス商会で承ります。何なりとお申し付けください」
そして、僕の方を向いて、
「アルス様、スコッテイ様のお世話はフェルプス商会に任せて、お帰り下さい。そして、このゲームをファビオの為に千個作成してください。三日後です、私が村に行く迄、今日村に着いたとしても、二日しかありません。二日で千台お願いします。時間がありません。早くお戻りください」
僕はいつの間にか、ファビオさんに背中を押されていた。
「えっ、えっ、スコッテイ王女、お体に気を付けて!また、様子伺いに来ます。何かありましたら、カミーラに念話で連絡をお願いします。カルロスさん、行きますよ」
ファビオさんに無理やり王宮の外に出され、村に帰ることになった。移動の魔道具に乗り込み、旅だった。見送りのファビオさんは必至な顔で何度も叫んでいた。
「お気をつけて、ゲームは千台、千台でお願いします」
僕がスコッテイ王女のマギビスタ王都への引っ越し作業が終わり、ファビオさんへのゲームを千台納品すると、入れ替わりにマーガレット王女がやって来た。十数名の大所帯であった。
僕とカミーラ王妃は村の入口で出迎え、簡単な挨拶をした後、僕等の家の横の棟の傍に作った三階建ての家に入ってもらった。部屋の作りは僕の家と同じで、一階を広間と食堂、二階を居住区画、三階を風呂場とテラスとしていた。
ひととおり部屋の説明を行うと、一緒に来た人達は、持ってきた荷物を開梱し始めた。僕たちが引き上げようとするとマーガレット王女から声がかかった。
「おい、アルス」
「アルス?」
僕が反応すると、傍にいたカルロスさんがすかさず言った。
「マーガレット王女様、陛下に対して呼び捨てとはあまりにも無礼な振る舞いではございませんか?」
「ふん、そうか、アルスはアルスであろう?私より幼く、また、マギビスタの支配下にある国で何故、マギビスタ王女である私がへりくだる必要があるのだ?」
マーガレット王女は言った。カルロスさんが返した。
「ただ、ここはマギビスタではなく、フジャイラです。この国を治めている陛下には礼が必要だと思いますが」
一瞬、哀れな人を見る様にカルロスさんを見つめたマーガレット王女は、
「ふん、そう言うものか?では、アルス様、私はお腹が空いた。何か無いのか?」
と、言った。一緒にいたカミーラ王妃が頃合いだと思って提案した。
「それでは、皆様のお手を止めて頂き、この屋敷の横のレストランで簡単な歓迎の宴をいかがでしょうか?」
「おう、そうだな。さすが、カミーラ王妃だ。できた妻だ。アルス様より気が利く。皆の者、手を止めろ。食事に行くぞ」
マギビスタ一行を連れて、横の塔のレストランへ移動した。初めてエレベーターに乗り込んだマーガレット王女は、扉が開いたときに見える景色に感嘆の声を上げた。
「おう、遠くまで見える。王都はどちらじゃ」
彼女は急ぎガラス窓に近づいて、ぽつりと言った。
「見えぬな。遠くまで来たものじゃ」
再開しました




