第62話 転生者、対決する
ベリーリンドの村から移り住む人は二百人にも及んだ。それでも、騎士団の頑張りで移動が比較的スムーズに終わった。
村の広場に新しい住民が集められ、村民の迎え入れ儀式を行った。トーリさんの呼びかけで、既存の住民たちも広場の周囲に集まり、その様子を見守っていた。
カミーラ王女が一声を放った。
「私がカミーラ、アルスブルクの王女だ。ここは村であるが、いずれ街になり、国となる。そして、横にいるのが王、アルスだ。そして、もう一人、私の妹スコッテイ、その横が世話役のトーリだ。
今から、村民になるためのアイディーの魔法の授与を行う。アイディーと唱えるとこの村の住人の証明となり、住居と食事が与えられる。命の危険はないが、それを拒む者がいれば申し出よ。速やかに元の場所に帰すことにする。また、病人、怪我人は王の前へ並べ。王が直々に治療する」
そして、僕は、ベリーリンドの村の人にクリーンの魔法をかけた。
その瞬間、彼らは思わぬ変化に戸惑いながらも歓声を上げた。
「この感じはなんだ」
「服が綺麗になった」
「顔の汚れも手の汚れも消えた」
その混乱を打ち消すように、カミーラ王女が叫んだ。
「時間が無いぞ、早く並べ」
集団が動き出した。
カミーラ王女とスコッテイ王女の前にその他の人は並んだ。これだけの人数は壮観だった。カミーラ王女がアイディーの魔法を授与し、スコッテイ王女が魔法の動作の確認を行った。その流れでトーリさんの元に人が並んで行った。
僕の前には病人と怪我人がいた。最初の患者は風邪をこじらせ、肺を患った老人だった。立っているのもやっとの感じで、地面に休ませた。胸に掌を当て、
「ヒール」
と唱え、肺の病原菌を根治し、ポーションを飲ませた。
次に現れた女性は、獣に襲われた際の傷で片目を失っていた。片目が完全につぶれ、もう一方も完全に開かない状態だった。
僕の高さまで屈んでもらい、掌を目にかざした。
「ヒール」
彼女が一瞬光り、目が修復されると同時に顔にあった傷も消えた。
「治りましたよ」
と、僕が彼女に告げると、両目を開けた。驚いたように顔を触り、自分の顔が元に戻っていることが分かると泣き出した。その声の大きさにカミーラ王女の列に並んだ人達の視線が集まった。地面に寝ていた男も立ち上がった。
ベリーリンドの村人は起こった奇跡に驚きの声を上げた。それだけでなく、広場の周囲にいた村人も驚きの声を上げた。
驚きはやがて感謝へと変わり、広場には歓声が広がった。
「アルスブルク、万歳」
カミーラ王女とスコッテイ王女もその様子をにこやかに受け入れた。そして、ベリーリンドの村人は、アルスブルクの村人となり、最大のコミュニティを作った。
僕は主な者を僕の家の一階に集め、今後の対応を話し合う事にした。
「ベリーリンドの皆さんがアルスブルクの仲間となってくれたことを嬉しく思います。
本来はお祝いをしなければなりませんが、ベルンハルト領の民がこの村に移住したことの説明をリチャード兄へしなければなりません。
しかし、説明するにしても、この村自体がマギビスタ国では知られていないため、まともな交渉にならないと思っています。
対応を間違えると、本来なら領地間の問題で済むはずが、国法を無視して作った村としてマギビスタ国との戦いになるやもしれない状況です。
それを解決するためには、ベルンハルトへ説明しに行く前に、王都で父ブルームバーグ公爵の力を借りて、この村をマギビスタ国から独立した村とする交渉をしてこようと考えております」
僕がそう言うと、トーリさんが問うた。
「陛下、陛下に危険はないのですか?」
「あるかもしれません。でも、今、この村はマギビスタ国やその他の国に認めもらう時期にきたのだと思います。私がこの国の王です。そのための努力は惜しまないつもりです」
「アルス、私も行くぞ」
カミーラ王女が言った。
「はい、お願いします。それと、クロードさんとカルロスさんの冒険者パーティの白銀の翼で行こうと思っています。ですので、無理を言いますが、トーリさん、スコッテイ王女、アレオス騎士団長で、僕等が返って来るまでこの村を守っていて欲しいのです」
「どれくらいになりそうですか?」
スコッテイ王女が聞いた。
「まだ、分かりません。早いかもしれませんし、遅いかもしれません。もしかして、我々は王都で冬を越すかもしれません。
この村には暖房の魔道具を部屋につけていますので、寒い冬にはお使いください。できるだけ早く帰るつもりです。それまではフェルプス商会以外はこの村にいれないで下さい」
「そうですか?アルス様、私を王都へ連れて行って下さるとお約束しましたよね」
「ええ、約束しました。でも、今回はその時ではありません」
「でも、お姉様は王都へ連れていかれるのですね、不公平です」
「はい、カミーラは僕の妻です。それにフジャイラの王女です。王の傍にいる必要があります」
僕がそう言うと、カミーラ王女が胸を反らした。
「でも、お姉様ばかりずるいです」
スコッテイ王女は拗ねた。
「スコッテイ様にはいない間、僕とカミーラの代理としてこの村での問題を処理してもらう重大な役目をお願いしたいのです」
「重大な役?」
「そうです。カミーラがいない場合は、貴方が唯一のフジャイラ王の血筋となります。貴方は僕達がいなくなってもフジャイラの国を存続させる使命があります。それだけ貴重な人なのです。お願いします」
「分かったわ」
スコッテイ王女は渋々頷いた。僕はアレオス騎士団長に言った。
「騎士団長、村の守りをお願いします。但し、どんなことがあっても、決して、城壁の外に出ないでください」
「了解した」
アレオス騎士団長が答えた。
「最後にトーリさん、新しい住人が起こす多少の問題は目を瞑ってください。慣れも必要かと思います。よろしくお願いします」
「分かりました」
トーリさんが返答をし、僕は言った。
「僕等はすぐに王都に移動します」
僕たちは王都へ向かい、まずフェルプス商会を訪ねた。そこで、クロードさん経由でブルームバーグ家へ打ち合わせの連絡をとった。
セバスさんからの連絡で、翌日の昼に、エルザランドで打ち合わせをすることになった。
エルザランドにある個室で僕とカミーラ王女は、ブルームバーグ家の父と兄との会合を持った。セバスさんがいつものように控えていた。
エルザさんの給仕で、食事が終わり、その後、デザートとお茶の時間となった。
エルザさんが引き上げ、話が始まった。
「アルス、急になんだ?お前は父上にこの家と縁を切ると言ったはずではないか?今更、ブルームバーグ家に戻るという都合の良い話は聞けないぞ」
ジョージ兄が機先を制して話し出した。
「ブルームバーグ家は、今、全て順調だ。もし、生活が苦しいのであれば、少しくらいはお金を都合してやっても良い。しかし、それでこれ以降は関わらないで欲しい」
ジョージ兄は勝ち誇ったような口調で言った。僕は、それを無視して父に話しかけた。
「父上、マギビスタ王とお話できる機会をご用意いただけないでしょうか?」
「おい、アルス。失礼だろ、直接、父上に話しかけるなんて、それも王と面会をのぞむなど、身の程しらずもいい加減にしろ」
ジョージ兄は息まいた。それを制すように父であるチャールズ ブルームバーグ公爵が話し出した。
「ジョージ、少し、静かにしていなさい」
「しかし、父上、アルスの物言いは失礼でしょう。次期公爵である私への敬意がありません」
父はそれを無視するようにアルスに問うた。
「アルス、王と話したいとはどういう理由だ。話せ」
「はい、僕はベルンハルトの近くの未開の森の奥に小さな村を作りました。その村をマギビスタ国王に認めてもらえないかとご相談申し上げたいのです」
「村を作ったとな。はて、どの辺りかな。セバス、地図は持っているか?」
「はい、持っております」
セバスさんはいとも簡単に地図を取り出した。テーブルの上に広げた。
「アルス、どの辺りじゃ、指をさせ」
「はい、この辺りの未開の森の中です」
「確かにそこは未開の森だ。マギビスタの国法では未開の地は開拓した者の土地となるのだ。しかし、開拓した土地を国で安堵する代わりに、確かに国王への届けが必要で、納税の義務が発生する。手続きだけをすれば済むと思うが、まだ、何かあるのか?」
「はい、リチャード兄が治めるベルンハルト領のベリーリンド村の住人が我が村へ逃げて来たので、受け入れてしまいました。いずれ住民を取った取らないの争いになると思い、その前にマギビスタ国に我が村を認めてもらおうと思っています」
「なぜ、ベリーリンドの村人は逃げ出したのだ」
「それは、ベルンハルト領から納税以上の物を要求され、困窮し、冬を越せないと判断したからです」
「また、あいつか?懲りない奴だ」
「理由はもう一つあります。父上はフジャイラ国という国をご存じですか?」
「フジャイラ?あー、聞いたことがある。四、五年前に魔物に滅ぼされたと聞いたことがある。それがどうした?」
「僕の横にいる彼女が、フジャイラ国のカミーラ王女になります」
「えっ」
父は目を見開き、改めてカミーラ王女の姿を見つめた。僕は続けた。
「そして、僕の妻になります」
「な、なんだと」
父が驚きの声を上げた。




