第61話 転生者、難民を受け入れる
王都には不思議な噂があった。いや、王都だけではない、他の街、村にも伝わった不思議な噂で、マギビスタの国に不思議な村ができたという噂であった。
そこでは、村民になれば住居と食事が無料で貰え、仕事まで斡旋してもらえるという。さらに、体が不自由でも病気していても治療をして、健康にしてもらえるのだという。
それを探しに旅立つ者が増えたが、誰も見つけることが出来なかった。やがて、単なる嘘の噂で片付けられるところに、その村から戻った人がいて、その場所が分かったのだ。
その村はアルスブルクと言うらしかった。
その人に連れられた何人かがそこに行きその人達は帰ってこなかった。
噂が急速に広まった。
王都から戻って来たアルスは、自身の家の横に物見も出来る塔を建て、その上の階に回る展望レストランを作った。当然、そこには風の力で上下に動くエレベータの魔道具が設置されていた。
そのレストランでカミーラ王女とスコッテイ王女と僕は食事をしていた。
テーブルには村で作られたワインがあり、クロードさんが手によりをかけた料理が並んでいた。
「アルス、偶には回りながら食事をするか?」
カミーラ王女が僕に言ってきた。
「分かりました。では、ゆっくり回しますね」
僕は中心に作った魔法陣に小さな魔石を置く。すると、魔法陣のある中心は回らないが、その先にあるテーブルがゆっくり動き始めた。
「あっ、動き出した」
その声に僕はスコッテイ王女に話しかけた。
「あれ、スコッテイさんは、初めてでしたか?」
「ここでの食事は何度かありますが、動いているのを見るのは初めてです。窓の外の風景が変わっていくのは面白いですね」
「楽しんでもらえて良かった。カミーラに言われて作った意味がありました」
「アルス、森が邪魔でその先が見えない。もう少し、高くできないのか?これでは、物見にもならないぞ」
カミーラ王女が言い始めた。
「僕もそう言われると思いまして、もう少し、高くできるように細工をしております。では、高くしますよ」
僕は中心の壁にある土の魔法陣に魔力を注入した。すると、さらに視線が高くなり、村の入口の先の森を見下ろすようになり、遠くにベルンハルトの村が見え、また、反対方向に別の村と街が見えた。街はボーグの街かもしれない。やはり、王都は見えなかった。
「私もマギビスタの王都へ行ってみたい」
スコッテイ王女が言った。
「そのうち行けますよ。いつか、ね」
僕が言うと、スコッテイ王女が喜びの声を上げて、僕に抱き着いてきた。
「本当?アルス様、連れて行ってくださいね」
「おい、スコッテイ、おい、おい、アルスから離れろ」
「どうしてですか?お姉さま、アルス様が連れて行って下さると言われたのです。こうやっていないと街ではぐれたらいけないので、今から、練習をしているのです」
「いや、アルスで練習せずとも良いではないか?おい、クロード来なさい」
「はい、何でしょうか?」
「いや、そこに立っておれ。おい、クロードも冒険者メンバーだ。クロードで練習しなさい」
「いやです。クロードの腕のお肉は固そうです。アルス様は柔らかで気持ちが良いから、こちらにします」
スコッテイ王女は僕を抱きしめる力が強くなった。
「エルザといい、スコッテイといい、何故、私のものを盗ろうとするのだ。アルス、其方が悪い。悪いのだ」
「えっ、そんなことを言われても」
僕が言っても、カミーラ王女は叫んだ。
「アルス、其方がはっきりしないからつけ込まれるのだ。スコッテイ、離れろ」
「いやです、お姉様」
「離れろ」
「いやです」
そのやり取りが続いていた。そんな中、クロードさんが言った。
「私はどうすれば?」
「そこに立っておれ」
その剣幕に驚いたクロードさんは、
「分かりました」
と、反射的に答え、そこに立ち尽くすことになった。
村の入口にめずらしく旅人が来たとのことだった。村の門の前で呼びかけがあったらしい。最初は、トーリさんが対応したが、埒が開かず、僕が呼ばれ、話を聞くことになった。
彼はベラスと言い、彼の村であるこの秋の収穫が思うようにいかず、この冬を越せるかどうかも分からなくなった村の住人で、止むにやまれず、代表して、国中で噂になっている村を探していたらしいということが分かった。
ベラスは、ボーグの街の近くの山間のベリーリンドという寒村で暮らしており、街道を歩いている時に森の奥で見かけた光る塔がその村ではないかと目指して来たとのことだ。
トーリさんが疑問を呟いた。
「何ですかね?彼が言う遠くから見えた光る塔と言うのは?」
心当たりのある僕は、正直にトーリさんに謝った。
「トーリさん、すいません。僕達が調子に乗って、展望レストランのある塔を森の木より大分高くしたのです。彼が見たと言っているのはそれだと思います」
「陛下たちでしたか、そうすると彼の話に嘘はないようですね。あれは物見の役目もありますので、いずれそういったことができるのだと思っていましたが、今の段階で対応は時期尚早な気もしますよ、陛下」
「申し訳ない」
僕が素直に謝ると、トーリさんは塔の件は不問にし、彼の処遇を僕に確認した。
「陛下、彼をどうしましょうか?」
「陽も暮れそうなので、とりあえず、今晩は村で食事をしてもらい、話を聞いたうえで、この村が協力できることを伝えて、明日出て行ってもらうことにしましょう。トーリさん、対応お願いします」
と言って、旅人を村の中に入れた。
翌朝、トーリさんと昨日の旅人が家の前に立っていた。クロードさんが気づき、僕に確認をとって、一階のガラス張りの明るい広間のテーブルに招き入れた。
テーブルには、トーリさんと旅人に対して、僕とカミーラ王女が向かい会う形で座った。トーリさんが話し出した。
「陛下、このベラスの村は税を納めるために過分に食料を出してしまい、餓死者が出るくらい食料が足りないようです。何とか助けられないでしょうか?私がいた以前の村もそう言う状況に陥り、皆、ひもじい思いで暮らしていたこともあり、その辛さが分かるのです」
「そうですか?でも、何とかするのは僕たちでなく、その村から税を取っている領主ではないでしょうか?その領主を抑えて、僕たちが何か、事を為すのは違う気がします」
僕が言うと対面している男は話しだした。
「はい、言われる通りだと思います。我々も領主に何度も訴え、慈悲を願ったのです。しかし、それでも受けて入れてもらえなかったのです。
領主と話をしてもらう場をもつために、なけなしで集めたお金のことを言及され、さらに、税を要求されてしまい、村はさらに行き詰ってしまいました。明日にも催促に来そうな勢いです。その場で責められたら、私達は誰かを税の代わりに領主に身売りせざるを得ません」
「うーん」
僕は深く唸った。考えるが、マギビスタの法が良く分からず、考えがまとまらなかった。その時、カミーラ王女が言った。
「アルス、考えることは無い。ここはフジャイラ国だ。そして、其方が王である。王の意志が法律となる。其方が思ったようにやったらよかろう。誰も文句は言わぬ」
その言葉にトーリさんを見た。トーリさんも僕の決断を待っているようだ。
「分かりました。この村から貴方の村に食料の施しをしても、それを見てまた過分な税を要求される可能性もあります。
村のすべての人がここに移り住むことが条件となりますがいいでしょうか?
村がなくなれば、その領主も自分の愚かさに目を覚ますでしょう。
よろしいでしょうか?」
「元よりそのつもりでおります」
「では、移動の魔道具を使い、今日中には村人がこの村に住めるようにしましょう」
「ありがとうございます。皆も喜びます」
「トーリさん、早速、騎士団に言って、人を借りて、移動の魔道具で彼の村に住人をこの村に連れて来るように手配してください」
「了解しました。直ぐに対応します」
「良かった、本当にありがとうございます」
ベラスは深々と頭を下げた。
「念のために交渉することもあるかもしれず、今の領主の名前を教えてもらえますか?」
僕はベラスに聞いた。
「はい、ベルンハルトの新しい領主であるリチャード様という方です」
「リチャード?」
その名前を聞いた瞬間、胸の奥に冷たいものが走った。




