第60話 転生者、王都を楽しむ
僕等はエルザさんの店で食事して帰って来た。
本日はファビオさんの厚意で彼の屋敷に泊めてもらうことになった。皆で、ファビオさんの家でゆっくりお茶をしていた。ファビオさんは黙ったきりであった。
「エルザさんのお店は凄かったですね。それ以上に、いきなり陛下が食事を温める魔道具を出すものですから、エルザさんが興奮して抱き着くし、ファビオさんが固まるし、王女は気が気でなかったのではないでしょうか?」
カルロスさんが言った。
「そうですね、村と同じ物を出しているにもかかわらず、器を替えて出されるだけで、さすが、王都の高級料理店の風格がでますね。それに、温めて出されると特別感が出ますし、村でも取り入れてみますか?」
クロードさんが提案した。
「いや、そこまでやる必要はないのではないでしょうか?いざとなれば、エルザさんの店を誘致しましょう」
僕がそう言うと、エルザさんの名前に反応したのか?カミーラ王女が対抗するように返した。
「エルザの力など借りる必要はない。その時は私に任せろ。エルザ以上のものを作ってやる。そうだ、早速、作ってみよう、アルス、良いだろう?」
「そうですね。カミーラが言うなら作ってみましょうか?」
「でも、誰が使うんですか?」
カルロスさんが聞いてきた。
「今、考えたんですけど、村人にご褒美を上げる施設として作ったらどうかと思いました。どうでしょうか?」
僕が答えると、クロードさんが反応した。
「なるほど、村人も喜ぶでしょうが、坊ちゃん、いっそのこと、王女と坊ちゃんの食事する場所として、権威付けするのはどうですか?そうすれば、そこに食事に招待されることが村人の目標になりますよ」
「ほう、それはいいな」
カミーラ王女が反応した。そして、王女が夢見がちに言った。
「村一番の高さのある塔を作り、その先端を食堂にして、食堂そのものがゆっくり回転し、村全体を食事のあいだ眺められるというのはどうだ?面白そうだろう?」
僕は良い考えだと思った。
「カミーラ、良い考えです。では、戻ったら、早速作りましょう。僕等の家の横にでも作りましょうか?ゆくゆくは物見にもできますし、全面ガラス張りでどうでしょうか?」
僕が意気揚々と言うと、
「でも、そんなに高い塔だったら階段での移動が大変ですよね」
カルロスさんが言った。
「そうですね。そうだ、エレベータをつけましょう。そうすれば階段の移動の負担が無くなります」
僕の答えにファビオさんが反応した。
「そのエレベータとは何でしょうか?」
「人を箱に乗せて上下へ運ぶ乗り物です。風の魔力を上手く使えばすぐに実現できると思いますよ。今回の村の建物で上手く行ったら、商会の建物に取り付けてみましょうか?」
僕がファビオさんに言うと、ファビオさんが答えた。
「是非と言うか、見てみたいと思います。
アルス様、その前に、エルザの店に置いてきた温めをする魔道具ですが、あれを作ってもらうことできますか?」
「えっ、できますけど、まだ、あれは完成品でなく、実際は、まだ、もっと大きいものなのです。今から迎える寒い季節に部屋全体を暖めるものなのですよ。それを箱に組み込んだだけのものです。大したものではありませんよ」
ファビオさんは目を丸くし、言葉を失った。
カミーラ王女が笑いながら、僕に話しかけた。
「アルス、私も調子に乗ったが、其方も言い過ぎだ。ファビオが理解できていない。ファビオだけでなく、カルロスもクロードも想像できない。
少しは相手にも分かるように話せ」
そして、ファビオさんに言った。
「ファビオ、私達は明日帰る。そなたが村に帰れば、見本の温める魔道具を作っておくので売れるかどうかやってみろ。それに高い塔につくエレベータも実際使ってみろ。それから売れるか考えてみたらどうだ?」
さらに王女は続けた。
「もし、必要だったら、フェルプスも一緒に連れてきたらどうだ?だけど、エルザはだめだぞ」
「エルザさんは、いつも食品の仕入れで村に来てますよ」
クロードさんが余計なことを言った。
「そうだった。エルザには注意しないとな。アルス、エルザが来る日は魔道具の研究をして、一歩も外に出るな。良いな」
カミーラ王女は思い出したように、僕に向けてブルーの瞳を光らせた。よほど、エルザさんが僕に抱き着いてきたことを快く思っていないようだった。
「アルス、分かったのか?」
彼女のきつい問いかけに無実の僕は頷いた。
一夜明け、朝食の後のファビオさんの家にはフェルプスさんからの手配の人が待っていて、僕等は三つ楽隊と二つの演劇の舞台を周った。録音の魔道具で楽隊の音楽と演劇を収録した。まだ映像を記録する仕組みは思いついておらず、今回は音のみとなった。試みとして、左、右、真ん中の3か所で録音し、村で聞き比べて編集することにして、その場で披露することはしなかった。それに、今後は、著作権の問題も出てくるだろう。このあたりはできた後、フェルプスさんに確認するのが良いかと思われた。
お礼を言い、ファビオさんには村に来た時、確認してもらうことにした。
これで、今回の王都へ来た目的が済んだ。
僕等はお別れの挨拶にフェルプス商会にきたが、フェルプスさんは不在でエルザさんが待っていた。
「アルス様、大したおもてなしもできず、お別れになり、申し訳ありませんでした」
挨拶で下げた頭を上げ、満面の笑顔で話しかけて来た。
「次はゆっくり来てください。王都もご一緒にご案内できると思います」
「いや、今回は別の目的があったのでお気遣いなく。そうですね。またお会いできるのを楽しみにしています」
と、僕が言うと、カミーラ王女がすかさずきつい声で答えた。
「アルス、何が楽しみなのだ?」
「いえ、特には?お礼の挨拶への儀礼で話しました。そこはあまり考えていません」
「アルス、其方は王なのだ。そう言った気遣いは必要ない。受け取るだけで良い」
カミーラ王女から注意された。頷いて、慌てて話を変えた。
「そう言えば、エルザさん。新しいデザートをクロードさんと作ったのです。シュークリームと言うお菓子なのですが、一度、お店で試してもらえませんか?改善点があれば教えて欲しいのですが...」
「えっ、良いですよ。でも、どんなものか、分かりますか?」
「それは、私は食べたことがあるが、美味しい物だ」
カミーラ王女が自慢げに言葉を添えた。
「それはですね、これです」
僕は異次元収納からシュークリームを一つ出して、エルザさんに渡した。続いてカミーラ王女たちにも配っていくと、もう一つ手があった。
「クロエさん!」
「アルス、シュークリームをくれ」
「どうして、ここに居るのですか?」
「私はファビオの護衛だ。あらゆる攻撃からファビオを守る必要がある。私はアルスの攻撃からファビオを守るためにいたのだ」
「僕は攻撃しませんよ」
「しているではないか?そのシュークリームは既にファビオの口を攻略している。私はそれを守るために対抗策を研究せねばならない。だから、くれ」
「はははっ、クロエは面白いことを言う。アルス、出してやれ」
カミーラ王女の言葉にシュークリームをクロエさんに渡した。
「アルス様、甘いねっとりとしたクリームとサクサクの生地の組み合わせが絶妙で、王都ではないお菓子です。是非、これをエルザランドで出して、評価を差し上げたいのですが、試作品をあと何個かお持ちですか?」
「はい、その為に作ってきました。お渡しします、必ず、評価をお願いします」
と、言って異次元収納の魔道具を渡した。
その先にまたクロエさんの手があった。僕がクロエさんを見ると、クロエさんは言った。
「エルザを守る分があった。不足している、もうひとつ必要だ」
クロエさんはあくまでも真面目な護衛の顔をしていた。




