第59話 転生者、再び王都へ
あれから、ファビオさんとエルザさんが何回か、王都へ行き来をして、僕等は王都へ行くことになった。この間に暁の光のクロエさんが僕のところに現れなかったのは不思議だ。
ファビオさんからその都度、入ってきたブルームバーグ家の情報では、魔道具工房は一時期の不振が嘘のように回復し、問題なく売れ出した様である。以前のものより、魔石の持ちがよくなって、評判も良くなり、今は、魔道具工房は長男であるジョージが取り仕切っており、マギビスタ王女を娶る話もまた復活したようだ。多分、ブルームバーグ家を取り巻く状況も好転したのだと思う。縁を切ったはずの家族だったが、家が落ち着きを取り戻したと聞くと、不思議と胸のつかえも少し軽くなった。
今回はファビオさんから指名で白銀の翼への護衛依頼をだしてもらった。満を持して僕達は冒険者として王都に入った。ブルームバーグ家のしがらみを無くした僕から見た王都はやけに新鮮に見えた。
ファビオさんと一緒にフェルプス商会に入った。
フェルプス商会は大勢の客で賑わい、飛び交う従業員の声が活気を生み出していた。その喧騒の中を通り、二階の商会長室へ通された。
フェルプスさんからお礼を言われた。
「アルス様、王女様、遠路はるばるお疲れでしょう。本日はゆっくりしてください。明日は忙しいですよ。寸暇を惜しんで三つ楽隊と二つの演劇の舞台を周るようにしております。
自分で言うのもおかしいのですが、我が商会は、今、王都でも話題の商会です。アルス様から調達した魔道具と食品を、我々が販売することで王都の生活を変えています。それにより、色んな人も集まってきております。喜ぶ者もいれば、困る者もおります。そういった有象無象の商品でなく人を選別するのが私の仕事となってしまいました。
これも自画自賛になりますが、王都では小さな商会ですが、今では王都でも十本の指に入るくらいの商会になったと自負しております。ひとえにこれは、アルス様との出会いから始まるもので、カミーラ王女を含めて良い人達に巡り合えたと思っております。本当に感謝いたします。これ以降も、変わらずファビオをお引き立て頂くようお願いします」
フェルプスさんは深々と頭を下げた。僕は言った。
「フェルプスさん、私達の村もファビオさんに売って頂かないと立ち行きません。私達も食料が底をつきそうになった時助けて頂いたこともあり、そこは持ちつ持たれつの関係なので、それほど、感謝していただくことでもありません」
「アルス様だからそう言われるのですよ。いつまでも、好意に甘えて行く訳にはいきませんが、いつか、恩返しできるように精進いたしますので、長い付き合いをお願いします」
フェルプスさんの言葉に、僕は笑って答えた。
「長い付き合いにしたいですね」
僕とフェルプスさんの長い挨拶が終わったと思ったのか、カミーラ王女が声をかける。
「フェルプス、エルザの店はどこだ?案内してくれ」
カミーラ王女はエルザさんの店が気になるようだ。
「エルザの店ですか?娘のエルザの食堂も好調ですよ。この商会の周りに店舗をかまえていますので、すぐご案内できるのですが、あいにく、これから私は人と会う約束がありまして、ファビオに案内させます」
フェルプスさんはファビオさんを呼んだ。
ファビオさんと僕等はエルザさんの店を探して王都を歩いていた。エルザさんの店はすぐに分かった。行列ができているのだ。それだけでも繁盛しているのが分かった。
「おかげ様で、エルザもこの周辺に5つの食堂をもつオーナーとなっております。王都の有名店の料理人も研究に通うくらいです。それだけ反響があります」
「へー、エルザの店一号店ですか?これが今、五号店まであると?」
カルロスさんが言うと、クロードさんも感想を述べた。
「坊ちゃんの料理を楽しんでもらえる人が王都だと規模がちがいますね」
「そうです。それだけ種々雑多の人がいます。エルザの店は家族向けでしたが、次の新しい店は違います。場所も王都に中心街に近く、すこしだけ、高級な感じにしました。もうすぐです」
王都の街並みをきょろきょろしながら歩いていると、王女から声がかかった。
「アルスはこの街の出身なんだろう?何が珍しいのだ」
「はい、出身ではありますが、屋敷から外へは学校へ行くくらいで、街の中を見る事もありませんでした。今思えば残念ですが、当時はそれが当たり前でした。やはり、見ると面白いものが一杯ありますね。カミーラもそうでしょう、王女なんですから」
「私は違った。街は知っている。度々、抜け出して見に行った」
彼女は得意げに胸を張った。その動きに合わせて、ドレス越しの豊かな胸元が揺れた。僕等は冒険者の恰好でなく、街中を歩き回るのに不自然とならない様にお金持ちの恰好をしていた。カミーラ王女はドレスを着ていたが、その恰好で走り始める彼女が想像できた。
「そうなんですね」
と、言いながら、彼女の突飛な行動に振り回されるお付きの人の大変さを思い浮かべていた。
エルザさんの新しい高級店は街並みの中で異彩を放っていた。いや、本当に浮いて見えた。王都の石造りの建物が並ぶ中、その店だけがまるで別世界の建築物だった。
二階建てで、一階は馬車を止めておく場所、二階が食堂となっていた。その食堂は魔法で作った大きなガラスの窓のある店だった。
店からは周囲が見下ろせる仕組みらしい。
権威を示すお金持ちや貴族が使うには最高の場所に見えた。
カミーラ王女が反応した。
「凄いな、アルスの魔法ガラスの威力は?」
陽の光でガラスが反射している。
「予約していますので、入って、食事をしましょう」
ファビオさんはすたすたと二階への階段を昇り、僕等もその後に続いた。
来ることが分かっていたのか?エルザさんが入口に待っていた。
「アルス様、本当に来てくださったのですね。嬉しいです」
彼女が抱き着きそうになるのを、カミーラ王女が僕の前に出て止めた。
「エルザ、この前もいったろう、アルスは私のものだ」
「あら、良いじゃありませんか?おもてなしのご挨拶なのですよ。お店に来られる方には誰にもしているのですよ」
エルザさんも負けてはいなかった。前を塞ぐカミーラ王女の横から手を出し、僕の手を握ると、
「こちらにどうぞ」
と、僕を引っ張っていく。
「それも誰にもしているもてなしなのか?」
カミーラ王女が後ろで聞いてきた。
「そうです、当たり前じゃないですか?」
その状態で僕を店の端の街並みが見える席に案内してくれた。
「お兄様と私が考えたお店です。この店は”エルザランド”と名付けました。王都でも少し特別な店を目指したのです。
完全予約制のお店にしまして、エルザの店より高級感を出しております。この形式のお店とエルザの店の両方を王都だけでなく作って行こうと思っております。
お父様にも初めて褒められました。一重にアルス様のおかげです」
と言って、また、僕に感極まって抱き着こうとするのを横にいるカミーラ王女が制止しながら、言った。
「油断も隙もない、アルス、エルザには気をつけなさい」
僕は王都の街並みを見ながら感心した。
「凄く眺めがいいですね」
「はい、そうなのですが、お客様によっては外から見られるのを恥ずかしがられるお客様もいて、カーテンをつけようかと思っているのですよ。折角、見晴らしが良いのに残念なんですよ」
エルザさんが少し悲し気に言った。
「あー、そうですか?ちょっと待ってください」
僕は立ち上がり、窓に近づくと魔法陣を描いた。
「この魔法陣を動かすと、ガラスが曇り、少しだけこちらからは見えにくくなりますが、外からはほぼ見えませんし、陽の光もそう気になりません。いかがでしょうか」
「素敵です」
エルザさんが勢いよく僕に抱きついた。
しかも、そのまま僕の肩越しにカミーラ王女へ勝ち誇ったような笑みを向けているようだった。
「アルス、そなたはどうして毎回エルザに隙を与えるのだ。私は悲しいぞ」
カミーラ王女はそう言いながらも、明らかに不機嫌そうだった。




