第6話 転生者、魔道具を修理する
授業が終わり、アーネスト博士のところに行く。今日は一人で向かうことを父母に宣言していたので、お付きの人はいない。博士の部屋の扉を叩き、”入ります”と声かけて、入った。しかし、人の気配がない。奥の部屋で、博士の声がした。
「アルス君ですか?ちょっと今、昨日から考えていた資料をまとめているので、机に置いてある資料を読んでいてくれませんか?一区切りついたら、そちらに行きます」
なんとなく座って資料を読むが、昨日の僕とのやり取りを加筆して、博士の理論を膨らませた内容だった。目新しいことが見つからず、すぐに退屈した。窓の方を眺めていると博士が失敗作だという水の魔道具が見つかった。
興味本位で近づき、手に取って眺めてみる。しかし、動かない失敗作だと言われてもどこが悪いのか良く分からない。見ると綺麗な模様が描かれていて、時折、読めない不思議な文字が丁寧に描かれている。美しい。惹かれるものがあり、その失敗作の円盤を持って席に戻った。
席に座って、円盤を眺める。見れば見るほど綺麗だ。それに、機能ごとに構造が分かれている様に見える。入力部の中心核、処理部の星、効果範囲と安定を担う外周円、機能ごとに構造が明確に分かれている。機能の処理部がわかりやすい。そして、そこに呪文を記述するだけで道具として成立する。
やはり、この仕組みは素晴らしい。凄い発明だ。
ふと、失敗作だと博士が言ったこの魔道具のどこが壊れているかを調べてみたくなった。
僕は円盤の中心部に人差し指をあててみた。何か吸われる感覚がある。多分、魔力が必要なのだろう。僕は魔道具が要求しているだろう水属性の魔力を意識して流す。すると、中心核が光り、それから、星に繋がる魔力線が光り、その先の外周円が光った。しかし、星が光らない。じーっと観察していると、最初の星に繋がる魔力の線が途中で切れている様な気がする。
”これだ”
声のない叫び声を上げる。プログラムのバグを見つけたような気分だ。ならば、潰さなければならない。
僕は魔道具が置いてあった棚を見た。何やら工具がある。近付いて工具を確認すると、先の尖ったペンのような器具があった。それを手に取り、机に戻る。それから、座って、そのつながっていない線と星を無理やり繋ぐ。
もう一度、中心部に人指し指をあてて魔力を流す。同じように中心核が光り、その先の外周円が光る。やはり、星は光らない。ダメかと思った瞬間、星が淡く光り、円盤の外周円から水が滲んできた。
”やった、上手くいった”
指を離して、魔力を中断する。じわじわとしか水が出てこなかった。これでは効率が悪い。
”何故だ?”
何かが足りない。原因を考える。星が光るまでの時間がかかったことから考えると、やはり、星と中心核とを接続している修復した箇所が不完全なのだろうと判断した。よく考えたら、溝を繋げただけだ。魔力を流すためには何か、特殊なモノで接続しないといけないのだろう。描いてある線には色がある。インクが必要なのだ。そのインクをつけずに、ペン先で溝を作っただけだ。もしかしたら、偶々、ペン先についていた乾いたインクがとれて、それで繋がっているだけかもしれない。そうか、そうかもしれない。
”インクがない”
さっき道具があった辺りを見回すがそれらしきものはない。インクの代わりになるものを考えた。それは魔力を帯びて、魔力を通すモノなのだろう。僕は、ふと気づき、やがて、決心する。
護身用のナイフを取り出し、勇気を出して左手の薬指の先を切る。痛い。血が1滴、2滴と指先から流れ落ちる。それでも手を止めなかった。机に落ちた血だまりにペン先をつけて、僕の血を含ませて、先ほどの修復箇所を何回もなぞった。さらに、星と星を繋ぐ線もなぞる。なぞる。失敗する不安もあり、成功する自信もある。魔力を帯びたインクの代わりに、僕は自分の血をそれに選んだ。
”準備はできた”
僕は中心部に人指し指をあてて魔力を流す。すると、魔力が吸い取る力が強いように感じる。上手くいく予感しかない。中心核が光ると同時に、星が強く光り始め、それから外周円が光り出す。水が溢れでてきた。
”やった。成功だ”
机に水があふれだした。勢いが凄い。みるみる机の上から水が溢れ出て、床に落ちる。
「うわぁー。なんだこれ」
大声がでる。こんなに水が出ると思ってもいなかった。パニックになってしまい、思わず声がでてしまったのだ。僕は魔力供給を止めることも忘れ、魔力供給を止めることも忘れ、叫んでいた。
「助けて!」
その声に反応して、隣の部屋から博士が出てきた。扉を開け、僕が起こした状況を見て言う。
「どうしました。何をしたんです、アルス君」
その声に反応するかのように、魔道具から水が急にでなくなった。
結果的には、あふれ出た水が、まだ乾ききっていない血液インクを押し流したらしい。それで魔道具が止まったようだ。正確には、また、水がじわじわとしか作れなくなり、水が止まった様に思える。僕は濡れた服のまま、博士と対峙することになった。
博士は僕の様子を見て言う。
「水の魔道具を治したのですか?魔法インクはどうしました?あれが無いと修復は難しいのですよ」
「魔法インクと言うモノで魔法陣を描くのですね。無かったので、僕の血液を使いました。魔力を通すものとしてそれしか考えつかなかったので」
「えっ、それは凄い。凄過ぎる。昔の書物に自身の血液で魔法陣を描いたと言う記述があった気がしますが、それは、本当にあった事なのですね。アルス君は伝説を現実にする人なのかもしれません。この事を論文に書いていいでしょうか?」
博士は、また、話しているうちに、別の事を考え始めている様だった。そして、無言になる。
「すいません、床に水がこぼれてしまったので掃除しますが、掃除の道具はあるのでしょうか?」
「いや、良いです。誰かを呼びますから、そのままで構いません。濡れて無いところに移動しましょう」
僕等は机から離れたソファに座る。僕は、博士にこの魔道具の改善点を報告する。
「あのう、この水魔道具ですが、水の流量と水が出る方向の制御が出来れば、もっと使いやすくなると思います。博士は何か、お考えはありますか?」
「えっ、今ので都でも好評ですし、とくに考えてもおりません」
「僕は不便さを感じました。中心核から出る魔力を一旦保持する回路を大、中、少と分けて作り、使う人が選べる様にすれば、流量の制御がかんたんに出来ます。また、外周円の外に水の排出口となる星を描いて、繋げば水の出口もできて、もっと色んな所で使われる様な気がします。如何でしょうか?」
「えっ」
博士が意識を失った様に絶句する。そして、我に戻ると、叫びだした。
「天才だ、ここに魔道具の天才がいる」




