第53話 転生者、任命する
ガレオンから来た住人たちには職人が多かった。その技能を持っていたがゆえに、体が不自由になった時点で、棄民のような生活を送っていたと思われる。その中でもカルロスは象徴的な存在だった。領主の孫でありながら、病によって本来の力を発揮できずにいたのだから。
そんな彼らにノアさんとオリバーさんから、空いている居住棟で生活し、食堂では自由に食がとれ、仕事の報酬で村で買い物や食堂の新メニューをたのしめることを説明してもらった。
そして、共同浴場の説明をして、その場は解散となり、ガレオンからの住人は明日の朝から村人として行動することになった。
カルロスさんには残ってもらい、ノアさんとオリバーさんには、クロードさん、騎士団長、トーリさんを食堂に呼んでもらった。
まず、カルロスさんを紹介し、僕は話し始めた。
「ガレオンからの住人が入村してこの村の人口も二百人を越えます。最初の頃に比べれば、大きくなりました。しかし、まだ、二百人です。
しかし、村としては一歩前進した気がします。そして、これからは、一人一人が前に歩けるように、村のサポート役として、役割を分担しましょう。
アレオス団長、この村の治安と警備を行う警察署長とします。
トーリさん、この村の対外的な交渉役として、村長とします。
ノアさん、この村の行政全般を行う総務課長とします。
オリバーさん、この村の産業振興を行う産業課長とします。
クロードさん、この村の健康をたもつ食料衛生担当課長とします。
カミーラとスコッテイ王女にこの村の教育を受け持ってもらい、僕が医療全般を担当します。
そして、今日来たカルロスさんは当面は僕の傍にいて、サポート役となって下さい、それから、仕事を分担してもらいます。
今はいないファビオさんには、商業課長として、この村の交易全般を担当してもらいます。
これは、明日の朝食の前に皆に周知しますので、よろしくお願いします」
クロードさんは驚いた顔をした。
「私が課長ですか?」
「はい。村人の健康を守る大切な役目です」
僕が言うと、カミーラ王女が話し出した。
「アルス、急じゃな。もう少し、ゆっくりでも良いのではないか?」
「カミーラ、貴方と僕はまだまだ、フジャイラの民を探し、連れて来る仕事が残っています。その間に村は大きく、豊かになっていかなければなりません。今のうち、役割を決めておかないと僕たちが居ないと村が停滞することになります。これは大事なことです」
「そうか、でも、担当が失敗したらどうするのだ?」
皆がその言葉に僕の方を向いた。
「失敗を恐れて何もしなければ、村は前に進めません。
うまくいけば皆で喜べばいい。
うまくいかなければ皆で直せばいい。
僕はそう思っています」
「そうなのか?」
「はい、僕が恐れるのは停滞です。時間が経てば全てが成長し、同時に、古くなります。それに合わせて更新する必要があるのです。それが分かるのはその現場にいる人達で、それを管理している人達です。なので、その担当が変更していかねばなりません。それが、担当を分ける意味です。
だから、皆さん、役職がついたからと言って畏まる必要はありません。今迄通りやってください」
僕は皆の顔を見回した。自信なさげな顔が並んでいた。色々と考えているのであろう。カミーラ王女が話し出した。
「アルスが良いのなら、それで良いのだろうが、王とか王女とかがいない村が勝手に大きくなるのは可笑しい気もするが」
「継続が必要です。継続するためには人が必要です。その人には知識が必要です。その知識をこの村から発信できるようにしたいと思っています」
「何をするのだ?」
「はい、学校を作りたいと思います。新しい魔法学校です」
「ほう、今でも作れるではないか?」
「はい、作れますが、僕たちがいないことが前提ですので、教える人がいません」
「そうか、難しいな」
「そうです、難しいです。人が足りません」
「それで、人探しの旅か?」
「はい」
「では、早速、行くとするか?」
「はい、でも、帰って来たばかりです。それに、エルザさんの食堂事業の立ち上げがあります。それが終わってからにしましょう」
「なんだ、そこはゆっくりか?」
「はい、ガレオンからの住人には気になる人もいましたので、少し、お時間をください」
僕はそうカミーラ王女に話し、皆に解散の挨拶をして、旅の疲れを癒すために彼女と二人で家路についた。家に戻ると襲ってきた睡魔に負けて、いつの間にか朝になっていた。
翌日、食堂で皆さんにガレオンからの住人が村人になることを説明し、昨日決めた村の役割の人事を発表した。
ガレオンからの住人を見ていくと、鍛冶屋がいた。大工がいた。裁縫職人がいた。薬屋がいた。
僕はその人達が働けるように工房を用意し、道具を用意した。
薬屋だけは勝手が違い、その人のために薬草栽培の農園の土地と温室を用意した。
カルロスさんには、将来的に僕の補佐をしてもらうように考えているが、僕が工房をつくる魔法にいちいち感心し、その度に、驚きの声を上げた。
カルロスさんは僕が作った工房を何度も見上げていた。
「いつか私も、王のように人を助けられるでしょうか」
小さく呟くその姿を見て、僕は少しだけ笑った。
「なれますよ。だから、まずは勉強です」
カルロスさんは真剣な顔で頷いた。
さらに、食堂の横にエルザさんのための調理工場を作った。食堂の料理も提供でき、かつ、王都で経営するはずの食堂のためのセントラルキッチンとなる予定だ。
村の収益源は現在一つ。
灯りの魔道具だ。
生産も販売も順調で、僕が不在でも回るようになっていた。
だが、一つだけでは不安が残る。
収益の柱は最低でも三本欲しい。
二本目がエルザさんの食堂事業。
そして三本目は薬草事業だ。
しかし、薬草事業は、今回作ったばかりだ。薬草農園と温室栽培での薬草の栽培が軌道に乗らないと厳しい。これはもっと人員が増えないと無理だろう。もう少し、時間が必要だ。
カズンさんとマリーさんにカルロスさんを紹介しにファビオさんの店に行った。すると、カズンさんから、今日にもファビオさんが帰って来ると話していると、移動の魔道具が村の入り口に現れた。ファビオさんが帰って来た。暁の光に混じって、エルザさんがいた。
「アルス様、帰っておられたのですか?首尾はいかがでしたか?」
「ガレオンという街から五十名程入村してもらいました。その代表者がこちらにいるカルロスさんです」
「カルロスさんですか、私はこの村で商会を営んでるファビオと申します。以後、よろしくお願いします」
「そうですか、こちらこそよろしくお願いします。陛下の傍で学ばせてもらっています」
「あー、アルス様の考えることは突飛すぎて分からないことが多すぎないですか?」
「まだ、初日ですけど、王の凄さしか分かりません。とても、私が通用するとは思えません」
「ははは、謙遜なさらずとも。妹のエルザを紹介します。エルザ、こちらへ」
エルザさんが笑顔で駆け寄って来た。
「アルス様、お久しぶりです」
久しぶりに見る彼女は、王都暮らしのせいか少し大人びて見えた。
「エルザさん、こんにちは。こちらは、カルロスさんです、昨日から入村されました」
エルザさんにカルロスさんが緊張するのが分かった。
「カルロス様、始めまして、ファビオの妹、エルザと申します」
「こんにちは、エルザさん」
カルロスさんはそれから会話が続かなかった。そこで、その場を和ませるように、僕はファビオさんに尋ねた。
「王都の様子はいかがでしたか?」
「王都は相変わらずですね。ですが、我々の灯りの魔道具は売れに売れております。持って行った一万個は無くなり、本来はすぐにでもこちらから持って帰りたいのですが、今回はエルザの王都での食堂事業のこともあり、一度、エルザを交えて、お話をする機会が欲しいのです。
アルス様、今からでも打ち合わせできますか?」
「良いですよ。大丈夫です。
ところで、ファビオさん、卵と牛乳は購入してもらえましたか?」
「はい、購入してきました」
「良かった」
「また、何か作られるのですよね」
「ええ、多分、美味しくて驚かれると思いますよ」
「ふーん、楽しみですね」
「そうですか?期待に副えるよう作ってみます。試食してみてください」
僕が笑いながら答えると、いつの間にか現れたクロエさんが言った。
「アルス、私もお前が帰るのを待っていた。お前がいないと誰も美味しいものをくれないのだ」
そう言って、僕の前に掌を広げた。
「まだ、作ってないので、何もありませんよ」
「アルス、何かあるだろう、いつからそんなにケチになったのだ」
「いや、そんなことを言われても、無いものは無いのです」




