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七歳で世界を変えた少年〜前世の知識と禁断の魔法理論で、僻地を最強都市に作り替える〜  作者: 霧里 野蒜


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第50話 転生者、交渉する

 僕等はテント代わりの家で一夜を過ごした。前世の知識はあれから王女の”初めての夜”という言葉に大いに反応したが、幼児のアルスにはそれを受け止める力がなかった。

 いつものように朝を迎え、僕が朝食を異次元収納からとり出して、朝食が始まった。


 食事も終わり、僕は家の中で、氷を作る魔道具の開発を行い、カミーラ王女はスコッテイ王女と念話を始めた。家のなかでまったりした時間が流れて行った。

 僕等は待った。


 やがてその時は来た。

 「中の者に問う。我々は来た。お前たちの話を聞こう」

 外から大きな声がした。僕は開発していた魔道具から顔を上げて王女を見た。念話中の王女は振り向いて僕を見た。お互いに頷いた。そして、外の者に向けて王女は言い放った。

 「分かった。今から外へ出る。お待ちくだされ」

 僕に小声で告げた。

 「アルス、これからが勝負だ」

 彼女の口がきゅっと引き締まった。彼女は動き出し、僕は寄り添うように動き、入口の引き戸を開けた。日の光が溢れ、日を背にした集団がそこにいた。


 日の光に慣れた目の前には、白髪の老人を中心に武装した集団がいた。

 その老人と対峙するようにカミーラ王女が立った。彼女は旅装ではなく、王女としての正装に身を包んでいた。日の光の中で、彼女の黒い髪が煌めき、白い肌に青い瞳と赤い唇の顔が神々しさを増していた。彼女はカリスマの力を使い、話し出した。

 「私は、フジャイラの王女、カミーラだ」

 「それは、聞いている。何をしに来た?」

 そう、老人は返した。王女は昨日と同じ話をした。

 「私は小さな村を作った。その村を大きくするために、お前たちの力を貸して欲しい」

 「なるほど」

 そう言って、老人は考え込んだ。何かを探っているようだった。そして、思いついたように話し始めた。

 「失礼に当たらぬよう、名を名乗ろう。私はフジャイラで辺境伯をしていたガレオンと言う。そなたは小さくて知らなかったであろうが、フジャイラでは割と有名だったと自負する」

 「私が王女であると分かったのか?」

 「分かった。いや、分かりました。か?」

 と、言い直すと、

 「王女には失礼な言い方であった。無礼を許してくだされ」

 謝った。続けた。

 「我々はこの地でひっそりと生きている。このまま静かに生かしてもらえまいか?」

 「何もないこの赤土の荒野でか?」

 「貴方にとっては何も無いように見えても、ここには我々の平穏がある。魔物も襲ってこないし、一番怖い人も寄ってこない」

 「人が恐い?」

 「そうだ。一番怖いのは人だ。それも権力をかざす者たちだ。我々の細々と蓄えた物を一度に奪っていく。その理不尽を我々に強要する理由はどこにあるのか?我々には我々の人生があり、子孫には未来がある。それは奪う事は許されない」

 「どういう意味だ」

 「失礼を承知で言えば、王の権力など国がなくなれば無意味だ。その意味のない力を使って、我々の自由を奪い取る事はできないということだ」

 老人は冷たく言い放った。


 少しだけ風が吹いて、赤土が王女と老人の間で舞い上がった。

 「なるほど、ガレオン様の言う事は分かりました。仰ることは理解できます。しかし、一つだけ見落としていることがあります。

 貴方たち老人がこの地で静かに生きるのは良いでしょう。でも、子孫をこの地に縛り付け、その未来を閉ざしているのは、この地に留まり続ける大人たちではありませんか?」

 いきなり話しかけられた老人は思わず、僕の方を向いた。

 「失礼なやつだ。そもそも、王女との会話に従者のくせにでしゃばるではない。礼儀を知れ!」

 老人は怒りの目を光らせた。

 「確かに、礼を欠いておりました。紹介が遅れました。僕は今のフジャイラの王アルスと言います。以後、お見知り置き願います」

 僕は深々と頭を下げた。

 「バカな、子供が戯けたことを申す。子供の嘘で許されるものと許されないものがあるのだ。お前は死に値するかもしれないのだぞ。フジャイラの王子はお前ではない」

 「はい、僕は王子ではありませんが、カミーラ王女の夫になります。そして、彼女から王であることを許されております。嘘偽りはありません」

 「アルスは私の夫で間違いない」

 カミーラ王女が同意の言葉を発した。

 ガレオン伯の怒りは蔑みに変わっていった。

 「落ちぶれた王女が子供に縋りつく。哀れなものだ。王女よ、その子供の何が欲しかったのだ?その子供がもつ金か?それとも、子供の親の地位か?情けない。ふん」

 と、言葉が吐き捨てられた。

 何か言おうとするカミーラ王女を抑えて、僕は言った。

 「それがどうしたのです。王女も生きていかねばなりません。プライドだけでご飯が食べられるわけでもなく、国が滅びた今、貴方が言われるように過去の地位は意味を持ちません。

 僕はカミーラを愛しています。

 カミーラはフジャイラの再興を願っています。だから僕はここに来ました。愛する人の夢を、一緒に叶えたいからです。可笑しなことはありません。

 僕はこれから作る新しいフジャイラ国で貴方の子孫に豊かな未来を約束することができます。それは、この荒野にどこかにある街以上の物です」

 「嘘をつけ。子供のくせによくしゃべる奴め」

 「いや、言わせてください。

 僕には未来の知識があります。そして、この世界を変えるだけの魔力もあります。

 この家が一夜で現れた理由を考えたことがありますか?

 馬も使わず、我々がここまで来た理由を考えたことがありますか?

 そして、あなた方を阻んでいる結界を誰が張っているのか分かりますか?

 これは僕の力で作ったのです」

 そう言って、次に異次元収納の魔道具を取り出し、そこから机を出し、パン、ぶどうジュース、フライドチキン、ポテトフライ、こんがり焼いたコーンピザ、トマトソースで味付けしたスパゲッテイを取り出し、次々と並べた。

 「これも僕が考案しました。

 見たことのない食べ物です。美味しいですよ。

 僕はこういった食べ物を誰もが食べられる国を創りたいと王女と話しておりますが、それを手伝ってくれる人がいないのです。

 是非、その為にその力を貸してください」

 食べ物の良い匂いが周囲に広がっていった。同時に老人を囲む兵士に動揺がひろがった。

 「結界を解除しますので、一度、食べてみてください。

 毒は入っておりません。

 カミーラ、率先して食べてみて、食べても大丈夫だということを分からせて下さい」

 僕は王女が食べ始めると同時に、結界を解除した。

 

 最初に近づいてきたのは、小柄な若い兵士だった。彼が机の上のパンを手に取り、一口齧った。

 「ふわふわのパンだ」

 彼が叫ぶと、猛烈な勢いで口の中に押し込んだ。

 「おいひー」

 彼は、次にフライドチキンを手に取りかぶりつくと、

 「なんだ、これは。美味いぞ、なんだ」

 と言い、黒蜜がけのパンケーキを口にすると、

 「甘い、あまーい。美味い、こんなの食べたこと無い。あー、妹にも食べさせたい」

 と、言葉にした。

 その声に、周りにいた兵士たちが押し寄せ、机にある食べ物を取り囲んだ。そして、一斉に食べ始めた。その騒々しさに喧嘩がおこりそうだった。僕は言葉を継いだ。

 「まだ、出しますので、慌てないで下さい」

 僕が食べ物を出していくと、出した傍からなくなっていった。

 王女が立ち尽くしている老人に席を勧め、炭酸入りのぶどうジュースを渡した。

 老人は炭酸入りのぶどうジュースを一口飲んだ。

 口の中で弾ける泡に目を見開き、ゆっくりと僕を見た。

 「王女ではない」

 ガレオン伯はそう呟いた。

 「本当に恐ろしいのは、お前の方だった」

 そして震える声で尋ねた。

 「お前は何者だ?」

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