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七歳で世界を変えた少年〜前世の知識と禁断の魔法理論で、僻地を最強都市に作り替える〜  作者: 霧里 野蒜


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第49話 転生者、旅を始める

 僕とカミーラ王女は移動の魔道具を使って、アルスブルクの村から一日で大分離れた所に来ていた。リザードマンの谷の反対側にあたる位置で、赤土の土地が広がっていた。こんなに何もない荒野を見るのも珍しく、木も一本も生えていない。

 僕はすぐに立ち去ろうとしたが、カミーラ王女がそんな僕を止めた。

 「アルス、誰かに呼ばれている気がする。しばらく、ここで待ちたい」

 「カミーラ、そう言ってもとても人が住めるような場所ではないように思えます」

 僕は広がる赤土の荒野に人の可能性を見いだせなかった。

 しかし、今回はカミーラ王女との二人旅でもあり、彼女に言われる通りに、この地に異次元収納の魔道具からテント代わりの家を出し、その周りに聖魔法で結界を張った。熱い日がさしていても、家の中は風の魔道具で冷たい風が吹いて、快適な空間にしてあった。


 「疲れませんか?」

 僕は椅子で寛いでいるカミーラ王女へ話しかけた。

 「少しな。移動の魔道具は快適だが、さすがに一日中揺られれば疲れる」

 カミーラ王女は疲れた顔を見せた。彼女は動きやすいようにスコッテイ王女が綱引き大会で着ていたオーバーオール姿だった。ドレスのような恰好も似合うが、動きやすいように髪を後ろにまとめた気取らない恰好でもやはり、王女だった。どこか、気品が漂っていた。

 僕は炭酸入りの冷えたブドウジュースを出して、コップに注いで勧めた。

 「移動が速すぎて、気分が悪くなりませんでしたか?旅の初日で張り切り過ぎました。僕の以前の知識にある炭酸入りの飲み物です。暑さで汗ばんだ体に潤いを与えます。のど越しがシュワシュワして暑さでけだるい感じが和らぎます。どうぞ」

 カミーラ王女は炭酸の泡立つジュースを眺め、それから、一口飲んだ。白い喉もとがゆっくり動いた。そして、僕の方を見て、にっこり微笑んだ。

 「アルス、ありがとう。美味しい」

 彼女は残りものど越しを楽しむようにゆっくり飲んでいた。

 「はい、少しでも疲れがとれればいいのですが、そうか、こんな時は甘い物ですね。そう言えば、プリンがありました。どうぞ」

 「アルス、そなたは、私をクロエと間違えていないか?」

 「いえ、そんなことは?」

 と言いながら、それが王女の冗談だと分かり笑った。

 「アルスは何でも真面目に受け取り過ぎる」

 王女も笑っていた。そして、続けた。

 「でも、プリンも美味しいぞ。甘い物は誰でも笑顔にさせる。良いものだな。クロエの気持ちも少しだけ分かった気がする」

 王女も楽しんでいる。それだけでも良かった気がする。

 「アルス、少し、眠ろう。今夜何かがある気がする」

 王女は家の隅に置いてあるベッドに僕を無理やり引きずり込んだ。


 王女は目覚めると、二胡を取り上げ、弓で弾き始めた。

 悲しげな音が夜に響いた。

 それは、昔語りを聞かせるような透き通った歌声だった。

 ”豊かな緑があり、豊かな実りがある国では、何年も何十年も何百年も変わらぬ平和があった。そこには、勤勉な民がいて、それを愛する王がいた。それは誰しもがいつまでも続くものだと信じていた....”

 僕はその曲を聞きながら、いつしか涙を流していた。


 その時、

 ”トスッ”、”トスッ”、”トスッ”、”トスッ”、”トスッ”

 と、家の外で音がした。嫌な音だった。

 弓から放たれた矢が刺さった音がした。 

 カミーラ王女は、歌を止めた。そして、言った。

 「来た」

 と。

 僕は土で作った窓の引き戸を引いて、隙間を作って外を覗いた。夜のとばりの中に複数の人が結界の外で立っていた。部屋の灯りが漏れ、こちらが気づいたことが分かったのか、誰かの声が聞こえた。

 「立ち去れ。ここはお前たちが居て良い場所ではない」

 すると、王女はいきなり大きな声を出した。

 「嫌だ」

 「その声は、先ほどまで歌っていた者か?何故、その歌を歌う」

 「あの歌は私の故郷の歌だ。何故お前に理由を問われる必要がある。歌うのは私の自由だ」

 「自由か?それは違うな。ここは我々の土地。お前らの自由にはならない」

 男の声は力強かった。

 「そう言えば昔もあった気がする。聞き覚えのある歌で我々を誘い込み、我々を食する魔物がいた。

 私はもう一度忠告する。今からこの地を去れ。去らなければ、ここがお前たちの死に場所となる」

 一斉に弓を引く気配が強くなった。

 「早まるな。我々は魔物ではない。フジャイラの民だ」

 「フジャイラだと!戯けたことを言う。フジャイラの民は死んだのだ。我々以外はな」

 「そうか、お前たちはフジャイラの民か、この荒野のどこにいたのだ」

 カミーラ王女は一歩も引かず、会話を続ける。

 「なぜ、そんなことを聞く。怪しい奴だ。弓を撃て、容赦するな」

 いきなり、矢を撃って来た。


 ”トスッ”、”トスッ”、”トスッ”、”トスッ”、”トスッ”

 火矢のせいか、小さな家の周りが明るくなった。頃合いと見たのか、カミーラ王女は僕に声をかけた。

 「アルス、外に出るぞ。私を守れ」

 「カミーラ、まだ、矢が飛んできている。外は危険です」

 「大丈夫、お前なら私を守れるだろう。約束したからな。いくぞ。入口を開けろ」

 僕は魔法の準備をして、入口の引き戸を開けた。そして、同時にカミーラの行く手に風魔法を放ち、矢をそらすようにした。

 カミーラ王女は、火矢の灯りの中、家の外に立った。その彼女に向けて、僕の風魔法をのがれた一本の矢が襲った。その矢は幸いにも彼女の頬をかすっただけだった。しかし、矢じりの鋭い刃は、彼女の頬を傷つけ、白い肌に一筋血が流れ出ていた。

 カミーラ王女は痛みを感じないのか、大きな声で叫んだ。

 「フジャイラの民よ。私はフジャイラの王女、カミーラ」

 その声に怯んだのか、矢はその後、飛んでこなかった。


 「王女?笑わせる。王家は魔物の前に既に滅びたのだ。お前は王女を語る魔物だろう」

 男はなおも問うた。

 「いや、私は生きている。騎士団とともに逃げ落ちたのだ。そして、私はそこで小さな集落を作った。小さな村の力を大きくするために、お前たちの力を貸して欲しい」

 カミーラ王女は頭を下げた。

 「上手い話しで今度は奴隷にでもするつもりか?魔物でなければ人攫いか奴隷商か?」

 「私はどちらでもない。私はフジャイラの王女だ。お前たちの力を貸して欲しい」

 カミーラ王女の言葉はカリスマを持っていた。その言葉に男と周りの兵は、動揺したように顔を見合わせ、後ずさりしていった。

 そして、何も言わずに逃げ去って行った。頬から血を流した王女と隣にいる僕はその闇に消え去った男たちの影を見ていた。

 暫くして、僕はカミーラを家に誘い、椅子に座らさせ、ヒールの魔法で矢の傷を治した。鬼気迫るカミーラも美しかったが、やはり、綺麗な肌に勝るものは無かった。

 僕は言った。

 「無茶しましたね、カミーラ。大きな怪我がなくて良かった。しかし、逃がして、残念です」

 「そうか、そう思うか?私は仕方ないと思う。今迄、何の救いを出さなかった王家だ。それが、いきなり現れ、助けてくれと言われても困るだろう。それに、これくらいの傷で怯んでいたら、私の言葉など誰が信じるのだ。

 簡単でないのは分かっていたつもりだが、私のどこかに王家の名を出せば、全て上手く行くという期待があったのかもしれない。

 難しいものだ」

 カミーラ王女が自嘲気味に言った。

 「でも、攻撃せずに逃げたのはカミーラが王女だと分かったということだと思います」

 「そうだな、私もそう思う」

 「明日ですね」

 僕が言った。

 「明日?なんだ?」

 王女が聞いてきた。

 「ここに居れば、明日、誰かが来ると思いますよ。あの者たちの雰囲気ですが、自分たちで解決できなかったので、この場を去ったのです。今夜の報告があの者達を統率する人に伝わるのです。明日です。きっと明日になれば、良いことありますよ、カミーラ」

 「そうだな。一度で上手く行くことの方が少ないのだ。分かったぞ、アルス。未来に希望を持てということだな。そうとなったら、お腹が空いてきた」

 「そう言えば、夜のご飯がまだでした。では、初めての二人だけの夜ですから、豪勢な食事を出して、頂く事にしましょう」

 「アルス、今、何て言った?」

 「豪勢な食事を出して...」

 「いや、その前だ」

 「あー、”初めての二人だけの夜ですから”ですか?」

 「それだ、我々、二人っきりの初めての夜なのだ」

 王女がいきなりモジモジしだした。

 「それがどうかしましたか?」

 「分からんのか?」

 「分かりません」

 「そなたは前世でも女性に縁がなかった残念な男だ」

 カミーラ王女は天を仰いだ。


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