第48話 転生者、旅をする決意をする
僕がスコッテイ王女に作った帆布で作ったオーバーオールは作業着として評判になった。
僕は風のブレードを使って型紙を作り、帆布から大量に生地を切り出した。さらに風魔法で縫製を補助することで、短時間でオーバーオールを作れるようになった。
胸のボタンにはクリーンの魔法陣を刻み、魔力を流すだけで服も体も綺麗になる。
村人にも喜ばれた。そして、ファビオさんにも喜ばれた。次の商品を考えていたのである。勿論、従業員のカズンとマリーさんも着用している。
それで、ファビオさんにお願いされ、僕は縫製工房を作った。量産するには作業人がいなかった。この工房にも人の手配を行政担当のノアさんとオリバーさんにお願いした。
綱引き大会が終わると、村の中も一体感が増し、フジャイラの民も新移住民もわだかまりもなく、互いに仲良くなった気がした。やはり、イベントとしてはやって良かったと思うし、賭けをすることで、少しは娯楽の真似事ができたのかもしれない。
しかし、まだ娯楽が少ないのだ。
そのため、僕は劇場を作り、そこで芝居が開催できないかと考えていた。それと、そこで、カミーラ王女の音楽会を開くのも良いかと思っていた。
でも、何をするにしても人が足りない。
僕はカミーラ王女と相談していた。村が発展するには人が足りないので、村民を増やすという事したいと話した。
「アルス、フジャイラの民を集めたい」
カミーラ王女は言った。そして、続けた。
「アルスの人が足りないと言う言葉で思いついた。フジャイラの民を集めたい」
彼女は同じ言葉を繰り返した。
「その散り散りになったフジャイラの民はどこにいるのか、宛はあるのですか?」
僕が聞くと、彼女は即答した。
「無い」
「無いのに、思っているだけですか?」
「そうだ」
カミーラ王女は笑った。
「可笑しいか?」
「可笑しいです」
僕が真剣に言うと、カミーラ王女は言った。
「アルス、私はあなたと人探しの旅に出たい。どうだ?」
「僕は良いのですが、危険では?」
「アルス、そなたは私を守れぬのか?」
「守れるのと守りたいは違います」
「そうか、そなたの想いはそれだけか?」
「えっ、そんなことを言われても...」
「そなたは自身の力をどう思っている」
「いや、人並みではないかと、いや子供ですので、人並みの半分くらいですか?」
「はははっ」
カミーラ王女の笑い声は大きくなった。
「バカなことを言うではない、人並みの半分程度で、リザードマンとは戦わぬだろう」
「力がなくても戦うことはできます」
「そうだ、戦うことはできる。力足りぬ者が戦えばどうなる?」
「それは死ぬのではないでしょうか?」
「では、そなたは死んだか?」
「いえ、生きています。でも、死にそうにはなりました」
「そうだ。生きている。そなたは力なき者ではない」
「いえ、あれは奇跡が、と言うより、王女の予言があって、騎士団長に救われたのです」
「そうとも言える。しかし、そなたは奇跡を起こす力があるのだ。それだけの知恵と実行する魔力を持っている」
「そうだとも言えますが...」
「その知恵と魔力を私の為だけに使えと言っているのだ、分かるか?」
「それは分かりますが...」
「まだ、不安か?」
「はい」
「はっきり言おう。そなたは、まだ子供だから力は強くない。しかし、その知恵と魔力はこの世界で比する者はない唯一のものだ。自信を持て。そして、その力を私の為に使ってくれ」
カミーラ王女はさらに続けた。
「私はそなたと旅がしたい」
カミーラ王女の赤い唇は強い言葉を放った。
「私は運命に抗う事を止めた。何故だか、分かるか?」
「...」
「アルス、そなたがいるからだ」
「...」
「アルス、一緒にきてくれ」
カミーラ王女の青い目は僕を包み込むように輝いた。僕は彼女に魅入られたように呟いた。
「分かりました」
僕は決心した。たとえ命を懸けることになっても彼女を守ると。
「それでこそ、アルスだ」
カミーラ王女は僕を抱きしめて来た。甘い匂いが強く僕に押し付けられた。
僕とカミーラ王女は旅の準備を始めた。
と言っても食料はある程度作り置きがあり、水は魔道具で作ることができる。テントの代わりの簡易的な家を異次元収納に入れ、不在の間の村の運営をお願いすることにした。
騎士団長に相談した時は、護衛の為について行くと言われたが、断った。今回は、普通の旅とは違い撤退手段を確保していたからだ。それに、大所帯となると、機動力を失い、広範囲に人探しができない。最後は、カミーラ王女が説得して、二人だけの旅となった。
僕等が不在の間、村の運営を行ってもらうために、カミーラ王女の代理としてスコッテイ王女を任命した。スコッテイ王女が不在の間、この村の最終的な判断を行う。そして、彼女はカミーラ王女と念話を行うことができる。僕等の状況、村の状況を共有することも簡単である。
そして、騎士団長とトーリさんに今迄通り、スコッテイ王女のサポートをしてもらうことになった。また、魔道具工房の運営は、ノアさんとオリバーさんにお願いした。
明日の朝には出発することとなる。
暁の光のアルドさんが挨拶に来た。
「アルス様、大丈夫でしょうか?お二人を助けるようファビオ様から言われました」
「アルドさん、申し出ありがとうございます。しかし、今回は僕の力でどこまで王女を守れるかを確認するつもりで、王女も分かったうえでの旅となります。また、危なくなったら、移動の魔道具ですぐ逃げ帰るつもりですので、ご心配なく」
僕が笑って言うと、アルドさんが心配気に言った。
「いや、アルス様の力を心配するのではないのです。その人を疑わない気持ちを利用する輩もいるのです。そう言った輩は言葉が通用しません。時には、その人たちを殺めなければ、自分たちが生き残ることができないこともあります。人を殺めるのは魔物の違い、ためらいが生まれ、それが致命傷となることもあります。これは経験したものしか分かりません。やはり、戦いに慣れた護衛は必要だと思います」
アルドさんの切実さが混ざった言葉だった。僕は、その言葉に決心が揺らぐ気がした。
「アルド、アルスを惑わすな。アルスはどんな時でも私と逃げる手段を既に考えているのだ。問題ない」
カミーラ王女が会話に割り込んできた。そして、続けた。
「それに、今回の旅は、アルスと私の新婚旅行だ。余計な者は不要だ」
王女は笑みをアルドさんに向けた。
「そうですか?それであればもう何も言う事はありません。お気をつけて下さい」
アルドさんが言った。その言葉が終わると、アルドさんの後ろの隠れていたクロエさんが出て来て言った。
「いかないでくれ。行くなら私も連れていけ」
「えっ、どうしたんですか?クロエさん。唐揚げ食べ放題券は渡しましたよね」
「あれはもう使った。もう無い」
「そうですか?でも、アルドさんに言った通りで、誰も連れていけないのですよ」
「連れていけ」
執拗な物言いに、カミーラ王女が呆れて言った。
「アルス、完全に懐かれてしまったな。そなたの責任だ。クロエに新しいお菓子出してやれ」
僕はその言葉にかき氷の黒蜜掛けをだして、クロエさんに渡した。クロエさんは受け取るとかきこむように食べ始めた。
「クロエさん、このかき氷はそんなに早く食べると、頭が痛く...」
と言っている傍から、クロエさんのスプーンが止まり、頭を抱えていた。




