第46話 転生者、困る
「どうしてですか?魔道具の生産が停止したのは?」
「それがよく分からないのですが、噂によると王女を巡ってどうも兄弟で何かもめ事があったようなのです」
ファビオさんが真顔になり話し出した。
「王女を巡って?」
「はい、王宮からブルームバーグ家へ、王女を嫁がせる話が持ち上がっているそうです」
「あー、僕が家を出される時もそんな話があった気がします」
「それで兄弟仲が急に悪くなったとの話です」
「それが魔道具の生産とどうつながるのでしょうか?」
「主導権争いのようです。お兄様がこう言えば、弟様からああ言うといった風で工房がどうしたら良いか分からなくなっているようです」
「それで生産中止ですか?そうですか?良い魔道具なのに残念ですね」
僕は言いながら、何となく王都から呼び戻される様な嫌な予感がしていた。
「本当に残念です。ただ、アルス様の魔道具はフェルプス商会にお任せ下されば、決して後悔させませんので、ご安心ください。
また、暁の光にも私から明日の話は言っておきますが、アルス様もお会いになったら、話をしてやってください。
今度、王都に行ったときにエルザを連れてきますので、食堂事業はその時からの開始ということで良いでしょうか?」
「分かりましたが、それにしても、人が足りなくなりますね」
「はい、王都で人材募集したところ、お酒造りの人材は集まりました。今、父が人選しておりますので、次回にはそちらの人員はこちらに連れて来られると思います。アルス様、もし、よろしければ、移住の家族の募集を王都で行いましょうか?」
「そうですね、カミーラとも相談して早々にお願いするか、判断します。今回の結婚式とか綱引き大会も人が増えたことにより発生した問題なので、村民を急激に増やすのは避けねばなりません」
「それに関しては、私の無理なお願いを聞いて、新村民として迎え入れていただいた結果なので私にも責任があります。申し訳ありませんでした」
「いや、いずれ村民は増えると思いますし、僕のやる仕事を手伝ってもらい、僕の負担が少なくなりましたので、助かっております。今回の件は良い経験です」
「そう言って頂くと少しは気が楽になります。
では、こちらに持ってきた荷物もあり、本格的に小売りも行うつもりで、従業員も連れてきました。そちらも気になりますので帰ります」
「新しい従業員がいるのですね。カミーラと一緒に店を覗きに行きますので、その時に村民登録をしましょう。いいですか?」
「それも助かります。お待ちしておりますので」
と、言ってファビオさんは魔道具開発工房から出て行った。しばらく、ファビオさんの後ろ姿を見送っていた。
僕はそう言ったものの、胸の奥に嫌な予感が残った。
王都から呼び戻される。
そんな未来が、ぼんやりと頭をよぎった。
僕とカミーラ王女でファビオさんの店を訪れた。
新しい従業員の村民登録をするためだ。ファビオさんから紹介された。
「アルス様、ここにおりますカズンとマリーの二人が従業員になります。お見知りおき下さい」
「今日は、僕が領主のアルスです。そして、こちらが妻のカミーラです。この村の住民はアイディーの魔法が使えないと生活できません。店の様子を見るついでにカミーラからアイディーの魔法を授与するためにやってきました」
僕が二人に話しかけた。その言葉をカミーラが受け継いだ。
「そこに並んでくれ。では、行くぞ」
カミーラ王女が唱え、アイディーの魔法が無事授与された。
「アイディーと唱えてください。あっ、そうです。二人とも上手く発動しましたね。これで、食堂でご飯が食べられて、共同浴場でお風呂に入れるようになります。詳しい使い方はファビオさんに聞いて下さい」
僕が言うと、二人ともこくりと頷いた。カズンさんは二十歳前後、マリーさんは十八歳くらいに見えた。二人とも真面目そうである。
カミーラ王女とともに店に並ぶものを見ていった。
最初はお酒類、そして、食器、スプーン、フォークセット、大きなものでは机や椅子など、所狭しと展示されていた。
ファビオさんに僕は話しかけた。
「豊富な品揃えですね。以前、お話していたように1000PTを1Gの交換比率で販売していただくようお願いします。この村ではあくまでもPTでしか物を購入できませんので、この国の貨幣の単位でなく、PT表記でお願いします。
お店で溜まったPTは僕がファビオさんに預けている魔道具の販売収益から買い取らせて下さい。そして、これは僕が将来的に考えている銀行という仕組みで独立した店として、商会の横に専用の人が作業することになります。それまで、申し訳ありませんが、ファビオさんに管理お願いします」
「そうですか?その銀行というお店の仕組みを後で教えていただけないでしょうか?できれば、仕組みを理解して、私の商会でやらせていただけないかと思っています」
「なるほど、簡単に言うと、PTとGの両替えも行いますが、お店としては本来の目的は違います。PTやGというお金を集めて、大きな投資をすることです。投資することで得られた成果から一定の利益を受け続けます。そして、その利益を受けつつ、別の投資を行い、お店自体が大きくなっていく仕組みとなります。
簡単に言えば、お金を預かり、そのお金を使って新しい事業に投資する店です。利益が出れば、その一部を受け取り、さらに別の事業に投資する。お金そのものを働かせる仕組みですね」
僕はそう言ったが、ファビオさんはピンと来ていないようであった。カミーラ王女が言った。
「ファビオ、分からなければ、時間を改めて聞けば良いではないか?それより、私に、ワインを見せてくれるか?何本か買いたい。何せ、私が授与することができるPTは、私は使いたい放題だからな」
”カミーラ、そのPTの価値を支えるもとは僕の魔道具販売の利益ですよ。無駄使いしないでください”と言いそうになるが、止めた。
彼女が嬉しそうな顔をしていたからだ。
「カミーラ王女様、それであれば差し上げますよ」
「いや、ならぬ。私がそう言った事をすれば誰かが真似する。私は範を示す必要があるのだ。この中で一番高いワインはどれだ。それをくれ」
彼女は鷹揚に言い、面白そうに商品を眺め、
「それと、ハムとチーズをもらおう。私は自分で物を買うことが無かった。なんと楽しいのか」
ニコニコしながら次々と購入していった。嬉しそうに商品を選ぶ姿は、いつもの王女らしさとは違って見えた。
「アルス様、ここにいらしたのですか?」
声をかけて来たのは暁の光のアルドさんだった。
「はい、ファビオさんのお店を第一号のお客となっていました」
「そうですか、会えて良かった。お願いがありまして、探しておりました」
「何でしょうか?」
「あの、私達も明日の綱引き大会に参加させて頂きたいのです。聞けば豪華な商品が頂けるとか、是非、参加させて下さい」
アルドさんがお願いしてきた。横にいたカミーラ王女がすぐさま答えた。
「おう、良いではないか。フジャイラと新住民の二つチームの戦いだと遺恨を残さないとも限らぬ。参加が多い方が面白い。いっそのことファビオの店も出て、開店を知らせるのはどうだ?」
ファビオさんが僕を見つめ、僕が頷くと、彼は言った。
「そうですね。従業員を覚えて頂く機会でもあり、大会が盛り上がるなら、私達も参加します」
「おう、面白くなったな。私が盛り上がるような賭けの倍率を考えるので、皆も勝者を当てる村主催の賭けに参加しろ」
いつの間にかクロエさんが現れていた。カミーラ王女の言葉に言い出した。
「美味い物は出るのか?」
「言ってなかったな、アルスがそれを出してくれる。この世界で誰も食べていない甘いお菓子だ」
と、いうカミーラ王女の言葉に、
「じゃ、出る」
クロエさんが叫んだ。
「良かったな、アルス。大会は盛り上がるぞ」
カミーラ王女は笑顔で言った。
”カミーラさん、無茶ぶりですよ”
僕は困った顔で彼女の顔を見やった。先ほど眩しく見えた横顔が、今は悪戯を思いついた子供のように見えた。
”絶対に面白がっている”
僕は確信した。




