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七歳で世界を変えた少年〜前世の知識と禁断の魔法理論で、僻地を最強都市に作り替える〜  作者: 霧里 野蒜


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第44話 転生者、誤解で悩む

 「うっ、うぅ……」

 クロエさんは大粒の涙を零し始めた。

 「えっ、ちょ、ちょっと待ってください。何で泣くんですか?」

 僕が慌てて言うと、クロエさんは涙を拭きもせず、睨むように僕を見た。

 「だって、お前が、妻ではないと言った……」

 「いや、それは、そうですけど」

 「私は、唐揚げを食べた」

 「はい」

 「だから、覚悟を決めた」

 「何の覚悟ですか?」

 「アルスの妻になる覚悟だ」

 「唐揚げ一皿で人生を決めないでください。」

 僕が思わず叫ぶと、クロエさんはさらに泣きそうな顔になった。

 「お前は、私が嫌いなのか……」

 「違います!」

 「じゃあ、好きか?」

 「そ、それは、その……」

 僕は言葉に詰まった。

 クロエさんは美人だ。背も高く、面倒見も良いし、何だかんだ言って優しい。けれど、妻とか恋とか、そういう話になると、僕の頭は完全に混乱してしまう。

 その時だった。

 「ほう、面白いことになっておるな」

 聞き慣れた声が背後から聞こえた。

 振り返ると、カミーラ王女が立っていた。隣にはスコッテイ王女までいる。

 「カ、カミーラさん?」

 「アルス、其方、また面白い女を泣かせたのか」

 「違います!これは誤解です!」

 「誤解ではない!」

 クロエさんが即座に反論した。

 「私はアルスの妻になろうとした!なのに拒否された!」

 「ほう?」

 カミーラ王女の目が細くなった。何故か楽しそうだった。

 「アルス、其方、女を泣かせるとは悪い男だな」

 「だから違うんですって!」

 すると、スコッテイ王女がクロエさんの口元を指差した。

 「クロエさん、口元に唐揚げの欠片がついています」

 「む?」

 クロエさんは慌てて口を拭いた。

 その姿を見た瞬間、カミーラ王女が吹き出した。

 「ははははっ!なんだそれは!唐揚げで妻になろうとして、しかも口元に証拠を付けたままとは!」

 スコッテイ王女も笑いを堪えきれず、肩を震わせていた。

 クロエさんは顔を真っ赤にした。

 「わ、笑うな!」

 「いや、笑うだろう。其方、完全に食べ物に釣られた女ではないか」

 「違う!私は、アルスの料理をもっと食べたいだけだ!」

 「同じだ」

 カミーラ王女が即答した。

 僕は頭を抱えた。

 しかし、次の瞬間、カミーラ王女は不意に真面目な顔になった。

 「クロエ」

 「なんだ」

 「アルスはまだ子供だ。其方も分かっておるだろう?」

 「……分かっている」

 「それに、アルスは誰かを簡単に拒絶する男ではない。だからこそ、困っておるのだ」

 クロエさんは黙った。

 カミーラ王女は続けた。

 「其方はアルスが好きか?」

 「す、好きとかではない!」

 「では?」

 「一緒にいると飽きない。美味しい物をくれるし、変な事ばかりするし、見ていて面白い」

 「つまり、好意はあるのだな」

 「うっ……」

 クロエさんは言葉に詰まった。

 その様子を見て、カミーラ王女は満足そうに頷いた。

 「ならば急ぐ必要はない」

 「急ぐ?」

 「そうだ。アルスは逃げぬ。其方がこの村に来れば、また会える」

 「……」

 「それに、妻にならずとも、唐揚げくらい食わせてもらえるだろう」

 その言葉に、クロエさんがはっと顔を上げた。

 「そうなのか、アルス?」

 「えっ?」

 「妻にならなくても、唐揚げを食べても良いのか?」

 「はい、普通に食べられますよ!」

 「なんだ、そうだったのか」

 クロエさんは急に安心した顔になった。

 「じゃあ、妻になるのは後でも良いな」

 「後でも駄目です!」

 僕が叫ぶと、今度はカミーラ王女とスコッテイ王女が声を上げて笑った。

 その笑い声を聞きながら、僕は思った。

 ――この人達、本当に自由過ぎる。


 その夜は僕は反省した。自分の弱さにだ。

 言いたいことをいったつもりでも誰かを傷つけないまでも、誤解させてしまう。この弱さは時には人を助けたこともあったのかもしれない。ただ、これからはカミーラ王女を助ける為政者としての道を行かねばならない。

 僕は強い為政者として非常な決断もしないと、一人を救って、千人を殺すかもしれない。僕は部屋のベッドで眠っているカミーラ王女に告げた。

 「カミーラ、僕は君を守る強い男になる。そして、村民を守る」

 カミーラ王女は聞いているのか、いないのか、軽いいびきをたてていた。


 翌日、ファビオさんと暁の光が王都への車の魔道具とともに旅立っていった。

 アルドさんからクロエさんのことを平謝りされ、当のクロエさんはブスッとした顔をして僕を見ていた。無言の会話であった。そのクロエさんの肩をアルマさんが抱いている。そのアルマさんも怒ったように僕を見ていた。

 どう考えても理不尽だった。

 その事をカミーラ王女とスコッテイ王女に言うと、僕が悪いと笑っていた。

 ”納得いかない”

 僕はそう思った。


 その諍いは突然起こった。

 食事中だった。

 先に移住したフジャイラの男がトーリが連れて来た新しい住人の女の言葉遣いをからかった。彼女は生まれつき言葉が上手く喋れなかったのである。その様子を見ていた新しい住人側の男が、フジャイラの男を難詰した。口論は殴り合いになった。

 その知らせを聞いて、僕とカミーラ王女が駆けつけた時には、男たちは双方の陣営に肩を羽交い絞めにされ、抑えられていた。切れた唇と頬の腫れが遺恨として残りそうだった。

 王女は毅然として言った。

 「争いの理由は問わない。双方とも厳罰に処す。最近できた独房にて反省すること。反省が十分で無き者は、残念だが、この村を去ることを命ずる。その判断は騎士団長アレオスと村のまとめ役トーリに任す。以上だ」

 連れられていく村民が肩を落として連れられて行き、騒動は治まった。そして、カミーラ王女は、アレオスとトーリを呼び止めた。

 「アレオス、トーリ、来てくれ」

 アレオス、トーリが王女のもとで跪いた。カミーラ王女は二人に言った。

 「今回の件はお前たちの監督不足でもある。しっかりやってくれ、これからもこのようなことはあるだろう。なんとか、ならないか?」

 アレオスは答えた。

 「カミーラ様、この村の安穏さからくる気の緩みもあるとは思います。もしかしたら、先に住んでいるというフジャイラの民の特権意識があるのかもしれません。気の引き締めを行います」

 「分かった」

 カミーラは答え、トーリの回答を待った。トーリは話し出した。

 「事情を確認したが、特に我々の態度は問題ない。いじめられた女を守っただけだ。ただ、先に手を出したのは反省しなければならない。暴力は最後の手段だ。もう少し、対話を学ばせる」

 「分かった」

 カミーラは答え、僕の方を見た。僕の話を待っているのだ。僕は考えを話した。

 「皆、お腹が空いていた時は、生きることだけ考えていました。でも、安心すると人は別のことを考え始めます。そう、村の楽しみがないのです。

 それで、住民を親密にする提案をします。

 一つ目は、和合です。仲良くなれと言っても急には無理です。だから、無理やりでも交流を増やします。

 フジャイラの民から一名とトーリさんの村から一名を選び、結婚式を村であげてもらいます。

 二つ目は、競争です。フジャイラの民から三名とトーリさんの村から三名を選び、綱引き大会を開催します」 

 「ハハハ、アルスはまた甘いことを言う。ここは、叱るべきだ。でも、面白いかもしれんな。やるべきだ」

 カミーラ王女が答えた。

 アレオスは眉をひそめ、トーリは頭を掻いた。

 二人とも、結婚式と綱引きがどう争い解決に繋がるのか理解できていない顔だった。

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