第43話 転生者、魔道具を改善する
翌日は、クロードさんにお願いして王都で試食してもらう料理を作ってもらう事にした。できたそばから異次元収納に入れていってもらった。
人が増えた食堂も、百人が一斉に食事できるよう拡張した。
新しい移民たちは進んで、ノアとオリバーの元に向かい、職を得て、忙しい日常が始まった。その中から料理人と配膳する人、皿を洗う人を雇い入れた。人が増えればそれに伴い仕事も増えた。
朝から賑やかな食事だった。
誰かが食事の心配をしないのは夢の様だと言っていた。誰かは、お風呂に入るなんて、貴族の生活だと言った。誰かはトイレの話をし続けた。
賑やかな日常が始まった。
僕は移動の魔道具を改造していた。
移動の魔道具の仕組みはこうだ。
人を乗せるだけの木の箱を用意して、風の魔法陣で宙に上がり、風魔法で空中に見えない坂道を作り、その上を滑るように移動する。風の道の終端では風魔法が発動し、この木の箱を受け止めるようにして止まる仕組みだ。
この仕組みの中で、風魔法を使う部分がある。ここは風魔法が使えないと使用できない部分を魔法陣に置き換えることにした。高さは3メートル程度しか上がらないように制限し、坂道の角度を調整できるようにし、その坂道で地面にぶつかるところに木の箱を受け止める魔法が自動で発動するように変更した。これで魔道具の制御だけで動かせる。
何度かテストを繰り返し、改善を続けた。
一つ目は、風の坂道を作る魔法陣に水魔法を加えて、坂道が視覚的に見えるようにしたことだ。それにより、方向制御が楽になった。
二つ目は、坂道の角度がそのまま速度に繋がるので、これを抑えるために坂道角度は30度より大きくできないようにした。
三つ目は、風の坂道に流れる速度を与えたのだ。これにより、角度を小さくしても時速50km程度の速度が出せるようになった。馬車の五倍近い速度で移動できる計算になる。
四つ目は、木の箱に、馬車の車輪をつけたのだ。街に入るのには城門から入る必要がある。空中移動ではそれが難しいので、車輪を付けて、城門から引いて入れるように考えた。
この村から王都へは馬車で約7日かかるので、この村から約600Km、50kmで行けば1日で着く計算になる。しかし、夜通し走ることは車のヘッドライトのような指向性の強い光がないと走りづらい。そのため、途中1日は野宿の可能性もあるため、ある程度屈強な体が必要だと考えて、騎士団から2名選別し、御者とした。彼らに一通り、この魔道具の使い方を教え、今は自習をしていた。
移動の魔道具には目途がついたので、魔道具工房に来た。納品用の灯りの魔道具を取りに来たのだ。新しい人が増えていた。
できた分を異次元収納に入れていくと、一万個以上あった。どうするか、迷ったが、全部入れた。灯りの魔道具の数は異次元収納の盤面に表示されるので特に問題ないだろうと勝手に判断した。売れないと判断したら、それ以上は、販売しなければ良いのだ。
次にサトウキビ工房を見に来た。
風の小さなブレードを作る魔道具を作った。簡易ブレンダーである。これで、さとうきびを粉砕する。
粉砕したサトウキビを底に近い側面に液体を出す口のついた大きな窯を中に入れる。これは土魔法で作った。窯一杯になったサトウキビを上から人が足ふみして絞り出す仕組みにした。
集まった茶色の液体を火の魔道具で温め水分を飛ばし、粘度が出てきたら温めるのを止める。
この工程で黒蜜を作っている。村人が忙しく動いていた。
ここも順調に見えた。
だが、この工房は閉鎖することになる。
村人の不正が発生したのだ。黒蜜を盗んでいく従業員が出た。家族に食べさせたいとの事情もあり、厳罰に処すことも考えたが、平謝りされ、給料の一括返還だけで済ました。村人としての追放を主張するカミーラ王女には甘い領主と言われた。ゆくゆくは、厳密な法を作らなければならないと痛感したが、僕はそれで良いと判断した。
そして、この工房は僕以外出入りを禁止し、僕だけが作業員となる。これは、後の話である。
僕はまだ、学びが足りない事を痛感した。
揚げを中心とした新メニューは、新しい住人が安定した給料を得るまで提供しない事に決めた。差別が奢りや恨みを作る様な気がしたからだ。そして、それはカミーラ王女も認めてくれていた。
そんななか、クロエさんは容赦しない。また、歩いていると捕まった。
「おい、アルス。昨日食べた唐揚げを食べたいが、クロードが出さない。何とかしろ」
「何とかしろ、言われても、まだ、新しい料理は安定して提供できる準備が出来ていません。それで、クロードさんは出せないと言っているのではないでしょうか?」
「明日からまたファビオの警護でいなくなる。どうしてくれる」
「帰って来られた頃には普通に食べられると思いますよ」
「でも、今でもカミーラは食べられる」
彼女は引き下がらなかった。
「カミーラさんは僕の妻ですから、特別です。それに、試食は実験ですから、危険も伴います。信頼関係が無いと難しいです」
「では、妻になる」
「えっ」
「それで唐揚げを食べる」
「妻って、僕のですか?それも唐揚げの為に?」
困って、誰かいないか、見回したが、こう言う時に限って誰もいなかった。僕は言った。
「僕はまだ七歳です。だから、無理です」
「でもカミーラは妻になった。だから大丈夫」
「いや、そう言う事で無くて、何て言えばいいのか、そう言うのには、手順があって、仲良くなって、色んな事を話せる様になって、手を繋いで、それから」
「それから、なんだ?」
「それから、…」
僕は話しに詰まった。僕はまともに答える事が馬鹿馬鹿しくなり、この場を解決する為にファビオさんに持っていってもらう中から一皿、唐揚げをクロエさんに渡した。その皿にクロエさんは目を輝かせた。
「あるではないか?」
クロエさんはいきなり食べ始めた。
「それはファビオさんに王都に持って行ってもらう試食分で、……」
クロエさんは聞いていなかった。一心不乱という表現がピッタリだった。やがて、唐揚げは無くなった。そして、僕を見上げて、口を開いた。唐揚げのかけらが口元についていた。
「アルス、それで、私は妻として何をすれば良いのだ?」
「えっ、どうして、そう言う事になるんですか?」
「私は唐揚げを食べた。だから、妻になった」
「誰の?」
「アルス」
「僕の?そんな事はありません。クロエさんはクロエさんで、僕の妻ではありません」
僕がはっきりと言い切ると、クロエさんは目を丸くした。
そして、次の瞬間、突然、子供のように泣き出した。




