第4話 転生者、魔法を理解する
「資料をみてください。資料にも書いておりますが、まず、魔法ですが」
博士は話始める。
「概論でいう”魔法とは天地の理を意識し、神への感謝を抱きつつ、体内の魔力を意識して、魔力を人体の魔法の管より放出し、火と風と土と水と聖の力に変えるものだ”とあり、概論では魔力を放出した後に呪文を唱えるとされています。
しかし、私の考えでは逆です。
呪文が先にあり、その呪文により、魔力が魔臓から魔導管を通って抽出されます。呪文はイメージです。そのイメージする魔法の効果により、必要な魔力が違います。
例えば、ファイアボールの魔法を使うことを考えます。魔力を出してから呪文を紡いでは遅すぎて、たいていの初心者は失敗します。魔力の塊を放出し、魔弾となり、魔法として発動しません。多分、これがアルス君の失敗の原因だったのでしょう。概論の通りに真似すると必ず失敗するのです。
私には特殊能力があり、魔法を解析することができます。どの手順で魔法が作られるのかが分かるのです。この能力のために私は魔法の成績は常に優秀でした。そして、この目で多くの魔法士の魔法の発動を観察しておりましたが実際は概論とは違いました。
体外に放出された時点で、魔力は既に属性化されており、それから、呪文を紡ぐことで魔法が具現化されていました。私は魔法士に問うて、魔法が発動する時に何を考えていたか聞いたのです。魔法士によって言う事はバラバラでした。しかし、共通点がひとつだけありました。魔法がこうあるべきということをイメージしながら、呪文を唱えていたのです。
それを私は類推し、資料のあるような考えにたどり着きました。火魔法で説明しておりますが、
まず、ファイアボールの魔法をイメージするのです。ファイアボールですから、これくらいの火の玉を作り、それを飛ばして、障害物にぶつかった瞬間、爆発するとかです。ファイアボールの魔法でできることをイメージするのです。
それを強く思い浮かべることにより、必要な量の魔力が抽出され、属性の魔導管を通って、対外に放出されファイアボールの魔法が発動します。
これは、アルス君に後でやってもらいますので、もう少し、私の説明をさせて下さい」
「次に、属性ですが」
博士は話続ける。
「私の理論から言うと、火属性が無い人は火魔法を使えないということになりますが、実際には、私がこの眼鏡で魔法士を調べたところ、本来の属性と違う魔法を使っている人が多々居るのです。例えば、水属性の魔臓管を持っている人が火属性を魔法を使うことができるのです。私はその魔法士の魔法の使い方を観察しました。そして、観察し続けているうちに魔導管の先に水属性の魔力を火魔法に変換する器官が作られていることを見つけたのです。私はこれをエレメントコア(属性変換器)と名付けました。
このエレメントコアを通ることで魔力の属性変換が起き、魔臓管で決められる属性と違う魔法を使うことができるのです。しかし、水と火は属性が違うだけでなく、真逆です。そのため、変換効率が悪く多くの魔力を使用します。そのため、火魔法を使う魔力量が魔法士ごとに違うことにもなります」
さらに、続ける。
「これは、魔法適正検査の弊害だと想定しております。中等部になると魔法訓練が始まりますが、攻撃に有用な火魔法の訓練を中心に行っています。その訓練の中で多分ですが、このエレメントコアが作られます。そして、卒業時の魔法適正検査では、火、風、水、土、闇、聖の順に適性の有無を確認します。火から順に検査するため、エレメントコアによって火魔法が使える者は最初に火属性と判定されてしまい、本来の属性が見過ごされ、本来の魔導管が持つ魔法属性が生かされない状況となっています」
と続けた。
「そこで、私は属性判定の魔道具を作ることにしました。それにより、魔法士は従来の属性魔法士となり、その固有魔法を効率良く使うことができるようになります」
そう言って、僕をその水色の瞳で探るように見つめて来た。僕はその想いに応えられるのか?というより、初対面の人で、それも、子供の僕に何で言うのだろう。こういう意見は学院長や、それに類する立場の人物に伝えるべきだろう。
「アルス君はこの国の公爵家の三男とは言え、権力の中枢にいます。その権力は選ばれし者にしか使うことができません。私は、本日、アルス君の話を聞いて悟りました。これは、私が学院にきた意味だと。私の作る魔道具でこの世界の魔法教育を変更していくための一歩だとです。アルス君、共に頑張りましょう」
僕は博士の言う意味を理解した。
彼が必要なのは僕から父である公爵へつながるコネクションであり、暗に、それを僕経由で使わしてくれと言っているのだ。
よく考えたらそうかもしれない。新任の先生が学院でやれることは授業以外でほぼない。何かを変更しようとしても、今までと違うとして抵抗され、出る杭は打たれる。それに、博士の考えは学院の考え方だけでなく、もしかしたら、この国全体の魔法の在り方、考え方まで変える可能性があるのだ。凄く大きな力に抵抗し、跳ね返すだけの何かがないといけない。彼がそれに悩んでいた時、公爵に繋がる僕と言う存在が現れた。誰にも理解されないまま孤独に研究を続けてきた博士にとっては希望への光に見えたのかもしれない。
そして、僕を利用したいと、今あからさまに言っている。僕は博士の期待に直接は応えず、こう答えた
「博士、貴方の想いは分りました。僕は博士からの教えを父や母、兄たちに報告する義務があります。その報告により、博士のお考えは父、母、兄たちに伝わると思います。何となくですが、博士の魔法という考え方は分るのですが、私はその方法を習得しておらず、報告も出来ない状況です。実際に魔法を使うにはどうすれば良いのですか?」
「そうですよね。私の考えをアルス君が理解でき、私の考える方法で魔法が使え、魔道具が作れたとの報告がご家族にできれば、公爵家のみならず、誰しもが私の考えに賛同できるようになるという訳ですね。了解しました」
博士は考えを切り替え、僕に言う。
「今から、私の言う通りのことをしてください。簡単に魔法が発動します。いいですか?
まず、掌の上に小さな火の玉を燃やし続けるイメージをしてください。燃やし続けるのですよ。燃やし続けるためには燃料が必要です。その燃料は魔力になります。ですから、魔力を常に掌からすこしづつ出しながら、それが燃えるイメージを思い浮かべながら、”ファイア”と唱え、そのイメージを具現化するのです。しかし、私の属性は水属性でこれに成功したことがありませんが、実際は、できるはずなのです。そして、できなくても落ち込まず、何回も、何回も、繰り返して...」
博士の言葉を聞きながら、僕は、ローソクの炎が掌に灯るイメージを描き、魔力を細く絞るよう意識して、"ファイア"と呟いた。
すると、掌に炎が出現する。昨日のような何かがごっそり抜ける感じもなく、体のどこかの筋肉が広がる痛みもない。お腹の辺りがムズムズする感覚はあるが、不思議なほどなめらかだった。
それから、炎の大きさを大きくしたり小さくしたりするイメージをすると、その炎はイメージに素直に従い、膨らんでは縮んだ。さらに、温度を高温、中温、低温を意識すると、青い炎から白色、黄色、赤色と変化する。
”なるほど、博士の理論は正しい、多分、このやり方だと効率が良いのだろう、疲れない”
僕は納得し、炎を消すイメージをして、掌から炎を消した。そして、博士を見る。すると、博士は大きく目を見開いていた。そして、思いついたように言う。
「アルス君、今、君は何をしました?」
「先生の言う通り、ファイアの呪文を唱えました」
「いや、それは分かります。火が点くのは分るのですよ。そういう理論ですから、その先です」
「はい、炎を大きくしたり、小さくしたりできるか確認しました」
「それだけじゃないですよね」
「あー、炎の色を変えてみました」
「アルス君、アルス君、全くの初心者はファイアで炎を作れません。失敗するのです。私も失敗し続けています。なのに、君は苦労もせずファイアで炎を作りました。実は、維持するだけでも凄い魔力制御が必要なのです。それを君は炎を大きくも小さくもでき、炎の色も変えた。一体どうしたのですか?」
「あー、それですか?簡単ですよ。大きく、小さくは魔力を流す量の大きさを変えました。水道の水を絞るように、魔力の通り道を広げたり狭めたりするイメージをしました。炎の色は、温度を意識して、魔力の濃さを変えるように圧縮したり、弱めたりするイメージをしました。濃い方が温度高い青色になりましたので、思った通りの結果が得られたと思います」
僕が言うと、博士の唇がわなわなと震えていた。
「天才です。天才がここに居た」
博士が興奮し、絶叫した。




