第37話 転生者、村を整える
フジャイラの民の頑張りにより、約束した日の朝に3000枚の灯りの魔道具を渡すことができた。これをファビオさんが異次元収納に入れ、暁の光の護衛を連れて意気揚々と王都へ旅立って行った。また、食糧不足の問題はファビオさんが近隣の街から調達してきてくれたので、一気に解決してしまった。
その中で、僕は大きな決断をした。フジャイラの民以外の民を受け入れることについて、王女の了承を得たのだ。王女も基本的に村の人口が増えることは賛成で、増えれば、その者たちも新たなフジャイラの民として迎え入れることができる。人が増えれば、村の仕事の種類が増え、様々な役割が出てくる。農業だけでなく、工業や商業も発生していく。
しかし、人が増えれば、弊害も出てくる。犯罪である。暴力であり、盗みである。そして、それを束ねる者がマフィアを作る。その前に、豊かな村と評判になれば、盗賊が襲ってくるかもしれないし、盗賊の手下が入り込むかもしれない。
人が増えることへの備えは必要だった。
王女と相談して、今のうちに村を整備することにした。
僕たちが住んでいる家を中心に、騎士団長の家、騎士団員の宿舎はそのままとし、クロードさんの食堂を池の傍へ移し、その食堂を大きく広げ、村の共同食堂と位置付けた。クロードさんの調理補助に、救出した民から数名出してもらう。フジャイラの民には家族もおり、その家族用に家を建て、共同住宅から引っ越してもらい、開いた部屋は今後来る移住者用に開けておく。
また、村の行政の責任者として、ノアさんとオリバーさんを任命し、これからの村の移住者の対応や既存の移住者の困りごとの対応を行い、戸籍の管理を行ってもらう。そのノアさんとオリバーさんに、魔道具工房の作業者、騎士団と協力して農場の作業者、サトウキビからの蜜の抽出工房の作業者、トウモロコシ工房で粉砕したり油をとる作業者、共同浴場の作業者を選定してもらう。さらに共同浴場の横に新しく浴場を建て、以前のものを男性専用、新しいものを女性専用の施設とした。王女から指摘されて作ったのだ。
また、診療所を建て、怪我人や病人は僕が診ることにした。数名いる子供には読み書きを教える学校を建て、王女とスコッテイさんに先生になってもらうことにした。
大まかな取り決めを朝の食事の時に伝え、朝昼夕の食事は、これからは食堂でとるようになると説明した。そして、村民であることを証明するために新しい魔法を覚えてもらうことにした。
新しい魔法をカミーラ王女が説明した。
「私が持つ力で貴方たちに新しい力を与える。
それは”アイディー”の魔法だ。
この魔法を使えば、貴方達の名前と年齢、この村の住民かどうかの情報が目の前に表示される。そして、時間が経つと自然に消える。この魔法で村の住民かどうかを判断することができるのだ。王であるアルスは、この村のために、村民だけが無料で使える食堂や共同浴場以外の施設も増やしていく。
嬉しいことだと思うが、皆の労働に対する給料も支払うことにした。一日の労働の後にノアかオリバーの元に行け。彼らがその労働に対する給料を払う。その給料はアイディーの魔法で確認することができるようになる」
王女は一気に話した。それから、一度、皆の顔を見回し、理解が追い付いているかを確認し、さらに続けた。
「この村で得た金で、今後できる村の店で使うことができるようになるが、手始めとして、本日からこの食堂で黒蜜がけのホットケーキと黒蜜がけのプリンが食べられるようにする」
スコッテイさんが両方の手でそれぞれの皿を持ち、王女にプリンの皿を渡した。王女はプリンを大袈裟に一匙掬い、食べた。
「美味いぞ。皆も頑張って働き食べてくれ」
その言葉に、歓声が上がった。
それから、魔法授与式を開催した。王女が一段高い所にいて、アイディーの魔法を授けるのだった。
カミーラ王女が第一の村民を呼んだ。
「騎士団長アレオス、お前に村民第一号の栄誉を与える。ここに参れ」
「はっ」
騎士団長が神妙な顔をして、カミーラ王女の前にひざまずいた。王女が言葉を紡いだ。騎士団長の体が一瞬、光に包まれた。
「騎士団長アレオス、そなたはアイディーの魔法が使えるようになった。この村のために励め」
「はっ」
騎士団長が立ち上がって、その場を去った。
「次」
と、カミーラ王女の掛け声に、次々とこの新しい村の住人が増えていき、魔法の授与式が続いた。
授与式を終えたフジャイラの男が目を潤ませながら呟いていた。
「俺たちもやっと落ち着いて暮らせるようになった...」
それを見て、隣にいた妻が静かに頷いた。
「カミーラ、お疲れ様」
授与式が終わったカミーラ王女に僕は声をかけた。魔法を大分使ったらしく彼女の綺麗な目の下に隈が見えた。彼女はそれでもやり切った充実感のある力強い声で、
「いや、疲れてはおらぬ。まだ、大丈夫だ」
と答えた。
その言葉に、彼女も少しづつ民から力を得て、強くなっている気がした。疲れてはいるのだろうが、目には力が宿っている。その気持ちを大事にしてあげたい。僕は、どう返答した方が彼女が喜ぶのか言葉を探した。
その間を彼女が僕にきつく言ったと勘違いしたらしく、慌てて訂正してきた。
「アルス、済まぬ。初めての王女らしき仕事に、少々、気が高ぶっておった。許せ」
「王女の言葉で皆、感動していました。素晴らしい儀式でした」
僕が言うと、
「本当に済まぬ。アルスが考えたことばかりなのに私の手柄にしてしまった」
カミーラ王女がさらに済まなそうに言った。
「気にすることはありません。相応しい人が相応しい事をいったのです。僕が説明しても、授与式をやってもあんなに感動的なものにはならなかったと思います」
「そうか、そうなのか?」
「はい、貴方はこの小さな国の本当の王女になられたのです」
その言葉にカミーラ王女は満面の笑みを浮かべた。




