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七歳で世界を変えた少年〜前世の知識と禁断の魔法理論で、僻地を最強都市に作り替える〜  作者: 霧里 野蒜


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第36話 転生者、愛を語る

 僕は商会の横に土魔法でいつもの土壁の四角い箱の魔道具工房を作った。それに大き目の机を作り、椅子を作った。魔素を魔力へ変換する灯りの魔道具が、暗い工房を昼のように照らしていた。その灯りの中で、僕は、緻密な灯りの魔道具の魔法陣を転写板に描いていった。

 今回の灯りの魔法陣は最新の魔素の取り込み機能はテストが不十分なため入れていない。そして、それに関しては販売するファビオさんには了承済みである。彼は、最初は安定した物を販売しないと、最初の評判が商品の評価を決めてしまうと話し、従来品で問題ないと話した。

 それに、魔石の販売も各商会では馬鹿にならない利益を生むらしい。そして、冒険者も売れなかった魔石までもがお金になると知って、良い循環ができているとのことだ。

 僕が転写板の魔法陣の試し刷りをして確認した。わずかな魔力の流れの乱れが気になり、何回か、転写板の魔法陣を弄りながら、テストを繰り返していた。

 そんな時、声がかかった。

 「手伝いにきたんですが」

 二人の人が灯りの魔道具に照らされ、昼間のように明るい魔道具工房に驚き、中に入れず入口に立っていた。

 「あっ、すいません。気が付きませんでした。お疲れのところ、申し訳ありませんが、こちらへどうぞ」

 僕は、室内へ導いた。おそるおそる二人は中へ入り、僕に挨拶をした。

 「私はノア、こっちがオリバーです」

 ノアが言うと、

 「貴方が昨日の小さな勇者ですか?」

 オリバーはそう言った。

 「勇者?そう見えましたか、いや、昨日一番頑張ったのは騎士団長で、僕ではありません。僕はあくまで...」

 「いや、ご謙遜なさらずに、昨日のご活躍は私達も分かっております。これだけは言わせて下さい。助けて頂きありがとうございました」

 オリバーは深々と頭を下げた。

 僕は二人に話しかけた。

 「では早速ですが、手伝ってもらえますか?」

 それから、僕は二人に石盤に転写板で魔道具を転写する作業、その魔道具をテストする方法を教えた。二人は物覚えがよく、すぐに作業に慣れ、魔道具を作り始めた。その様子を見ながら、明後日までに3000枚は何とかなるかもしれないと思い始めていた。

 

 夕方になり、彼らが作業を終わり、帰ると僕一人になった。今迄、作った分を併せて500枚、これから、明日までに2500枚を作る必要がある。

 ”間に合う”

 ”いや、無理だ”

 ”だが、やるしかない”

 心配したクロードさんが先ほど持ってきた夕食をたべながら、残っている材料の山を見ていると、そんな気持ちが交錯した。あー、こんな気持ちどこかで感じたと考えていたら、前世で納期に追われたプロジェクトがいつもそうだったことを思い出した。あの時は皆を驚かせたい、自分の実力を試したい、とか、無理にモチベーションを上げていた気がする。

 食事を終えて、見てても減らない材料の山を見ていたら、なぜか、涙が出てきた。しかし、王の力をフジャイラの民に示すにはやり遂げるしかないということを心にして、一人で黙々と魔道具作成を行っていった。


 どの位時間が経ったのかは分からないが、入口から声がかかった。

 「アルス、魔道具はいくつ作れた?間に合いそうか?」

 入口を見ると、カミーラ王女がいた。

 「そろそろ、私が必要だと思って、来てやったぞ」

 彼女は笑いながら入って来た。その声を聞いた瞬間、僕の胸の奥に張りつめていたものが少しだけ緩んだ。

 「いえ、まだ、半分以上は残っています」

 ちょっとだけ嘘をついた。

 「そう、見た感じ、材料はあんまり減っていないな。それに、アルスには悲壮感が漂っている。できないことをできると言っている感じか」

 「いえ、やれます」

 「無理しなくていい。私が無理を言ったのだ。許せ」

 彼女は僕に近づき、僕の頬を両手で包み込んだ。それから続けた。

 「私に何ができる?と思っただろう、当然だ。私にはアルスの手伝いはできない。それで人を呼んだ。彼らがやってくれる」

 王女は後ろを振り向き、入口を見て、声を上げた。

 「入って来てくれ」

 すると、ノアさんとオリバーさんを先頭に人が入って来た。王女が僕に言った。

 「ノアとオリバーは優秀な宮廷官吏だった。そして、他の者もそうだ。彼らが夜を徹して手伝う。アルスは彼らに作業を任せて休め。そう言っても、休めないかもしれないが、休め。分かったか?」

 王女は逃がさないように少しだけ力を込めた。僕の表情が固いことが分かると、さらに、手に力を込めて、僕の顔を揺らした。

 「分かったな。約束だぞ、アルス。これも重要な仕事だ。しかし、私達はまだ多くのやることがある。これくらいのことで立ち止まるようでは次の大きな仕事はできない。いいか?」

 王女の青い目が潤んでいた。

 「分かりました」

 「そうだ、それでこそ、私が選んだ男だ、フジャイラの王だ」

 それから、王女は頬から手を離し、その手で僕を抱いて、周りに聞こえないように囁いた。

 「アルス、無理をさせて済まない。しかし、貴方は王で、年上の私を導くことを民に分からせなければならない。私に相応しい男になってくれ」

 僕はコクコクと頷いた。僕の意志を確かめ、王女は僕から離れ、立ち上がり、振向いた。

 「陛下が貴方たちの作業を見守ることになった。大体の仕事はノアとオリバーが分かるはずだ。貴方たちの作業にこの村の将来がかかっている。大変な作業だが、明日までに作業を完了して、フジャイラの民が優秀なことを陛下にもここの商人にも示してくれ。お願いする」

 王女は頭を下げた。それに、ノアが反応した。

 「王女、恐れ多き事でございます。陛下の手助けとなるよう微力を尽くさせていただきます」

 彼の一言で部屋が賑やかになり、急に手狭になった気がした。ノアさんが言った。

 「陛下、仕事の手順と内容は私達が説明しますので、その間、王女を送って行ってもらえませんか?」

 僕がその言葉に王女を見ると、彼女が頷いた。僕はノアさんに言った。

 「では少しだけ、この場を外します。カミーラ、行きましょう」

 僕はそう言って、工房の外に出た。工房の外は月が出て明るく、なにより、池の周りの灯りの魔道具が村の暗がりを消していた。


 王女は先を行く僕の横に並んだ。僕が彼女の肩くらいの身長しかないためか、王女は並んで歩くときは目線を合わせようと少し猫背になった。王女が言った。

 「アルスのおかげで妹を取り戻し、また、アルスが作ったこの素晴らしい村を乗っ取るような形でフジャイラの民を入植させた。それも私が無理にアルスを我が夫とするような形でなし崩し的にだ。我ながら我儘の女だ。許せ」

 「...」

 「本当はもっと丁寧な言葉遣いで、アルスを褒めたたえ、愛を語れればいいのだが、私にはそれができぬ。残念な女だ」

 「...」

 「嫌な女だろう?」

 「...」

 「私を捨てて別の女を娶っても構わぬ。アルスは若いからな」

 返す言葉が見つからなかった。

 「その覚悟はできているが、フジャイラの民だけは守って欲しいのだ」

 僕は何も言わなかった。

 「アルス、どうしたのだ?何か言え」

 僕は立ち止まった。王女はそれに気づかず、少し先を行った。僕は声をかけた。

 「カミーラはまだ誤解をしている。それを治して下さい。

 僕はあなたが好きです。

 愛しています。

 そのために、あなたの妹やフジャイラの民を救いました。誰の為でもありません。あなたの為です。あなたに笑っていて欲しかったからです。あなたが泣かないように、僕は戦いました。そして、どんな敵でも、あなたを悲しませるモノにはこれからも戦うつもりです。その気持ちはいつまでも変わらない。

 分かってください」

 後ろ向きの王女の肩が震えていた。僕は続けた。

 「僕が黙っていたのは簡単な理由です。今回の救出のお礼を考えていたのです」

 王女はしばらく黙っていた。

 そして、涙を流したまま笑った。

 「……なんだ。どんな褒美が欲しいのだ」

 僕は思わず、小さな声で呟いた。

 「...」

 「何を言っているのか分からぬ。もう少し大きな声で言ってくれないか」

 「王女の本気のキスが欲しいのです」

 僕が声に出すと、王女は一瞬、目を見開き、泣き笑いを見せた。

 「下世話な願いだ。だが、所望となれば褒美はあげねばならない。ここへ来い」

 彼女の声につられて僕は彼女の元に向かった。

 「不思議なものだ。私は人前で抱き合うようなふしだらな女ではないのだ」

 そう言い訳をして、僕の唇に彼女の唇がふれた。僕の口の中に彼女の温かい甘さが侵入してきた。その瞬間、もう二度と彼女から離れられないと思った。

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