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七歳で世界を変えた少年〜前世の知識と禁断の魔法理論で、僻地を最強都市に作り替える〜  作者: 霧里 野蒜


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第35話 転生者、窮地を越え窮地へ

 「おい、アルス。この食べ物もっとよこせ」

 クロエさんがじりじりと距離を詰めてきた。プリンを食べ終えた彼女の目は、本気だった。僕は黙ってしまった。

 ”もうない”と言えば良いのだが、異次元収納にはまだあった。嘘が上手くつけない。クロエさんの目は光を増して、僕に迫って来る。もうだめだ、クロエさんから目をそらしたその時だった。僕の視界に、救いの姿が映った。


 「あっ、カミーラさん」

 僕は妹のスコッテイと一緒にいる王女を見つけた。そして、こちらに呼んだ。クロエさんが急にそわそわし始めた。

 カミーラ王女がファビオさんの店までやってきて挨拶した。

 「ファビオさん、こんにちは」

 「カミーラ王女様、こんにちは。これからもよろしくお願いいたします。アルス様と早速、商売の話をさせて頂いております」

 「アルスは頼まれると嘘がつけないまだ子供だ。商売の難しい話をするときには私を入れてくれ。して、そこの女、誰であったか、名前を忘れたが、何をしておる」

 クロエさんはその声を聞いて後ずさりした。僕が答えた。

 「旅の疲れをいやすために、黒蜜掛けのプリンを食べてもらっていたのですよ」

 「おお、そうか?あれは美味しいからな。まだ、あったのか?」

 「あります。食べられますか?スコッテイさんもどうぞ」

 僕はまだ片付いていない商会の売り場に椅子を用意した。カミーラ王女はスコッテイとともに店舗に入って来た。カミーラ王女に気圧されたのか、クロエさんはじりじりと距離を取った。

 「あー、紹介が遅れたな。ファビオ、これは、妹のスコッテイだ」

 「そうですか、どおりで、気品のある顔をされております」

 ファビオさんが言うと、スコッテイさんは何も言わず俯いた。

 「ファビオ、妹はそう言う言葉に慣れておらぬ。戯れるな」

 「いえ、そんなつもりは!そうとは知らず、失礼しました」

 ファビオさんが謝ると、カミーラ王女は答えた。

 「いや、其方のせいばかりではない。それに慣らそうと散歩をしていたのだ」

 「そうでございましたか」

 と、ファビオさんは答えた。その会話の間に、僕は机にプリンを二つ取り出して並べた。

 「まだ、あったのか」

 遠くで、クロエさんの声がした。カミーラ王女は、声の方を向き、僕の顔を見て、プリンを眺めた。王女は事態が分かったようで、僕に言った。

 「アルス、あの女の分も出してやれ」

 「分かりました」

 と僕が答えて、プリンをもう一つ出すと、クロエさんが近づいてきて言った。

 「素直にだせばいいのだ」

 クロエさんは勝手に座って、プリンを食べ始めた。


 クロエさんはスコッテイさんとここに来るときにゴブリンの襲撃にあった話をしていた。彼女の弓で魔物を蹴散らし、ゴブリンロードが出てきた辺りから、スコッテイさんの世話をクロエさんが引き受ける雰囲気だったのか、ファビオさんは僕とカミーラ王女に王都の話をし始めた。

 「アルス坊ちゃま出自であるブルームバーグ公爵家の水魔道具の事業ですが、評判は良かったです。しかし、販売する水の魔道具は高級品となったようで、王族に係わりのある商会が独占し、我々のような一般の商会では取り扱えない商品となっていました」

 「そうですか?僕が居なくても上手くいくとは、残念な気分ですが、ブルームバーグ家の事業としては順調に立ち上がったのですね」

 父、兄たちの僕を馬鹿にした笑顔を思い出しながら、僕は小さくため息をついた。

 「しかし、私の父も私も今のブルームバーグ家の事業は早晩行き詰ると思っています」

 「えっ、どうしてですか?」

 「商品は、売る者がいて初めて広がります。

 しかしブルームバーグ家は、売る人間も買う人間も制限した。結果、高級品にはなりましたが、市場は狭くなったのです」

 ファビオさんは淡々と続けた。

 「目先の利益は出るでしょう。ですが、長続きはしません。事業とは、少しずつ積み上げるものですから。

 事業はマラソンです。少しづつ進みながら目的地を目指します。止まったら、中断したら、目的地にも行けませんし、記録も残りません。

 多分、ブルームバーグの事業は半年は持たないのではないでしょうか?」

 ファビオさんが僕を見つめた。僕に事業への覚悟を問うているのか? その問いにはカミーラ王女が答えた。

 「事業とは大変なものだ」

 ファビオがその言葉を引き取り、続けた。

 「はい、覚悟がいります。父から私もそれを受け継ぎました。だから、今回のアルス様の灯りの魔道具の販売は失敗しません。

 既に先行販売でも評判を得て、後は持って行けばその場で飛ぶ様に売れる価格が分かっています。それと、私と父は販売において我が商会の理念に賛同するものだけ入れるシンジケートを組みました。それにより、広く販売する仕組みもできております。

 事業は大変だとご理解していただけるだけで幸いですが、ご心配にはあたりません。必ず、この事業は成功させます」

 僕はファビオさんの決意と意気込みを感じた。ファビオさんが続けた。

 「それで、アルス様、数千の単位で王都に運びたいのです。明後日はご用意できますか?」

 「いくら何でも、僕しか作る人がいなかったので、今はまだ100程度です。それに、王女から言われた魔力の長持ち回路の検証も十分ではありません。もう少し、待っていただけないでしょうか?」

 僕が言うと、ファビオさんが恐い顔をした。

 「アルス様、私は、覚悟がいりますと申し上げました。わかりますか?」

 「分かります」

 煮え切らないと思ったのか、カミーラ王女が言った。

 「アルス、お前は分かっていない。ファビオはお前に死ぬ気で明後日までに3000の魔道具を作れと言っているのだ」

 「えっ、」

 僕が驚きの声を出すとファビオさんが言った。

 「さすが、王女様です。理解がはやい」

 僕は言葉を失った。呆気にとられていると、カミーラ王女が僕の代わりに答えた。

 「分かった。ファビオ、用意しよう。材料はあるのか?」

 「はい、ここに」

 と、ファビオさんが異次元収納から材料を取り出そうとした。それを見てカミーラ王女が僕に言った。

 「アルス、この商会の横に魔道具工場を作れ。フジャイラの民から手伝いをさせる。今からやるのだ。家に帰って来なくても良い。私が寂しいのは少しばかり我慢してやる」

 「えっ、」

 僕は、驚きの声しかあげてないのに、カミーラ王女が一人できめた。僕が静かに固まっていると、スコッテイさんがカミーラ王女に話しかけた。

 「姉様、クロエさんから凄い話を聞きました。アルス様は一人でゴブリンロードと戦い、その首をはねた強い人だという事です。凄いですね、こんなに小さいのに!」

 そして、僕の方を見て声かけた。

 「アルス様、びっくりしました。小さくてもお強いんですね」

 ――いえ、弱いんです。

 目の前の美しい王女と、野心に満ちた商人には、とても敵いません。

 スコッテイさんの無邪気な称賛にも、僕の気分は晴れなかった。

 頭の中では既に、どうやって魔道具を三千個量産するか、その方法だけが渦巻いていた。


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