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七歳で世界を変えた少年〜前世の知識と禁断の魔法理論で、僻地を最強都市に作り替える〜  作者: 霧里 野蒜


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第34話 転生者、窮地に陥る

 クロードさんから告げられた食料が尽きるという話は僕の心をざわつかせた。それだけ、人が増えたのだ。

 村に作った畑の小麦は収穫するまでにあと数週間はかかる。ジャガイモはまだある。だが、そればかり食べさせるのは、せっかく来たフジャイラの民に申し訳なかった。まるで奴隷の食事だ。……いや、生きられるだけまだ良いのかもしれない。けれど、そんな暮らしでは、僕への信頼も失われるだろう。

 騎士団が狩猟で持ち帰る肉は日によって差があり、安定してはいない。

 この村で自給できないとなればどこからか調達することを考える必要がある。幸い王都から持ってきた金はあり、相場は分からないが、購入することはできるだろう。しかし、どこで買うことができるのだ。

 ここに居るのは、王都を追放された僕とクロードさん、盗賊だったカミーラ王女たち、リザードマンの谷で奴隷をしていたフジャイラの民。誰一人、この付近に知人はいない。こういう時にフェルプス商会のファビオさんがいてくれればなんとかしてくれるのではないかと思うが、今は、王都にいて、どうしようもない。

 ”詰んだ”


 カミーラ王女に話すと、

 「アルスはベルンハルトの村の領主なのだから、いくらでも食料は調達できるであろう」

 「カミーラ、僕は出るときにあの村には近づかないという誓約書を書いているのです」

 「何で、そんなことを書いたのだ」

 王女が不思議な顔をして言った。

 ”いやそれは、貴方の騎士団があの村で盗賊をしていたからですよ”なんてことは言えず、

 「村に大きな迷惑をかけたからです」

 と答えると、

 「村に着いて早々何をやったのじゃ」

 と、逆に呆れられてしまった。彼女には相談できない。騎士団長も同じだろう。やはり、頼りになるのはクロードさんか?

 クロードさんに話すと、

 「ベルンハルトへ頭を下げるのは得策ではありませんね。あの村から既に王都の公爵家にはアルス坊ちゃまが追い出された話は伝わっている可能性があります。あの村に行き、食糧調達すれば物乞いをし、公爵家の顔をつぶしたとして、数年後の王都復帰も危ぶまれます。それを考えると、私は、あの村へご一緒するつもりはありません。ジャガイモはあるのですから、パンなどなくても死にはしません。ここは、この村での領主の面子は棄てても、あの村へ行く、恥の上塗りは避けるべきです」

 と、クロードさんは僕の王都への復帰を期待しているようだった。

 頼れる相手もいない。

 食料の当てもない。

 ”詰んだ”

 僕は思った。得てしてこういう時はファビオさんが素知らぬ顔して帰って来て、物語は上手く流れて行くのだが、この世界ではそうなりそうもなかった。途方に暮れた。


 僕は川の下流の探索はしたが、上流の探索をしていないことを思い出した。移動の魔道具もあることだし、何か、次につながる発見があることを期待して、散歩がてら一人で探索してみることにした。

 下流は大きな湿地帯が見えたが、上流はすぐに木々が生い茂り、見通しが利かない。まず、川には魚がいるのではないかと探しながら川を遡ったが魚がいそうな雰囲気がしなかった。

 暫く行くと滝があり行きどまりとなった。帰ろうかとあきらめかけたが、折角だからと移動の魔道具で滝の上に上がると、植生が変わって、一面に湿地が広がっていた。その中に、前世の知識の中にあるよく似た植物を見かけた。

 移動の魔道具で近寄ってみると、やはりそうだった。

 ”トウモロコシだ”

 それも収穫期でないか?辺りを見回しても集落は見えない。

 ”野生だ”

 僕は移動の魔道具をトウモロコシ畑に降ろすと、手当たり次第そのトウモロコシをもぎ取り、皮をはいでみると、粒粒の姿が現れ、齧ると甘く、まぎれもなくトウモロコシだった。

 ”大発見かもしれない”

 僕はその辺りから数十本のトウモロコシをもぎ取ると、急いで意気揚々と村へ戻った。


 戻った村は騒がしかった。

 ファビオさんが暁の光を伴って帰ってきていたのだ。移動の魔道具を広場の端に止めて、彼らに近づくと、クロエさんが目敏く見つけて声をかけて来た。

 「おい、小僧。戻って来てやったぞ」

 「お疲れ様です、クロエさん」

 「む、前より逃げなくなったな」

 「逃げていた覚えはありません」

 「いや、逃げていた」

 リオンさんが呆れたように口を挟んだ。

 「お前が怖がられていただけだろう」

 「失礼な!」

 リオンさんはクロエさんに容赦なかった。そう言う間にアルドさんがファビオさんを伴って僕の前にやってきた。

 二人ともにこやかに笑って挨拶をした。ファビオさんが言った。

 「アルス様、戻ってまいりました。遅くなり申し訳ありません。それはそうと、アルスさん、カミーラ王女と一緒になられたと聞きました。本当ですか?」

 「はい、貴方たちが王都に行っている間に色々ありました。ファビオさんが、落ち着かれたら、王都の話もそうですが、僕の話も聞いて下さい。ところで、暁の光はまた、ファビオさんの護衛でこちらに?」

 アルドが答えた。

 「はい、フェルプス商会に気に入ってもらえて、商会専属契約をして頂きました。当面、ファビオさん担当となるので、この村に滞在させてもらいます」

 「そうですか?それは良かった。心強い限りです」

 「ファビオさん、商会は何処に建てましょうか?今から、作るので、気に入った場所を言ってください」

 「アルスさん、大丈夫ですか?疲れていませんか?」

 「いや、新しい住人ができたので、それと合わせて作りますので、問題ないですよ」

 「では、商会は商売しやすいように村の入り口近くにお願いします」


 僕は土魔法で二階建ての四角い家を村の入口に建て、一階を店舗、二階をファビオさんの住居にした。その横に、暁の光の宿舎として、平屋の家を建てた。そして、以前、フェルプス商会滞在時に作った仮の家は壊しておいた。

 それぞれに人数分ベッドを作って入れておいた。

 そして、今回、移住してきたフジャイラの民用の宿舎を作った。こちらは、時間もないので、平屋の大きな家を作って、それを三十個の仕切りを入れ、部屋を作り、ベッドを入れた。

 そして、商会の店舗、暁の光の宿舎、フジャイラ民用の宿舎にトイレを作って行った。これが地味に時間がかかった。

 

 作業が一息ついて、ファビオさんと話をする時間ができ、商会で持ってきた物を整理しているファビオさんに声をかけた。

 「ファビオさん、どうですか?商会の建物の具合は?」

 「良いですね。ありがとうございます。それにトイレですが、こんなものがあったなんて、最高に気持ち良いです」

 「使い方よくわかりましたね」

 「えー、これでも商人ですので。新しいものに関しては敏感なんですよ。色々試してみて、この魔道具の意図と機能を考えたとき、何となく分かってきました。これもアルスさんの発想ですか?」

 「はい、お恥ずかしい限りです」

 「恥ずかしい?何を言われるんですか?素晴らしい製品です。これを使うと、これ以外は使えなくなります。これも販売して良いのですよね?」

 「実はこれ、下水設備とセットなんです」

 「下水設備?」

 「汚物を流して、離れた場所で浄化する仕組みです」

 ファビオさんの目が輝いた。

 「……素晴らしい。都市ごと変わりますね」

 「そうです。その処理施設を作らないと本来の機能を果たせないのです」

 「そうですか?でも、これは諦めません。いつか、販売させて頂きます。

 あっ、話は変わりまして、灯りの魔道具ですが、王都に持ち帰った魔道具はあっという間に完売しました。そして、かなりの注文を頂きました。父も妹も首を長くして届くのを待っている状況です。その販売代金で頼まれた材料も大量に購入してきましたので、早々に増産をお願いします」

 「それは良いのですが、僕からもお願いがありまして、実は、今、村の食料が尽きそうなんです。なんとか、なりませんでしょうか?村の農場の収穫が後、一月ほどかかりそうなのです」

 「えっ、そうですか、そちらの方も急がないといけませんね。分かりました。明日にでも、暁の光を連れて、近くの街まで行って、調達してきます」

 「早速、申し訳ありません。あと、これをご存じでしょうか?」

 「へー、何でしょうか?分かりません」

 「これはトウモロコシという物で、食用になるのです。そのまま火を通して食べても良く、粉にしてパンにしても良く、また、油を搾っても良いのです。この群生地を見つけました。これもこの村の産物にしたいと思います。それと...」

 僕は異次元収納からプリンを取り出し、黒蜜をかけた。

 「このプリンの上にかかっている、黒蜜もありました。これも、この村の産物としたいと思います。いかがですか?」

 ファビオさんがスプーンで一口掬って食べ、目を見開いた。そして、驚いたように言った。

 「これは美味しいです。王都でも食べたことがありません。是非、王都で販売を...」

 と言いかけた時、隣から大きな声が聞こえてきた。

 「きゃー、なんだ、なんだ、なんだ、これは...」

 クロエさんの声のようだった。

 「おーい、水が...攻撃してくる。助けてくれー」

 クロエさんが僕等のいる店を覗いて、僕を見つけた。

 「おい、アルス。トイレで水攻撃を浴びて、服がびしょ濡れだ。どうしてくれる」

 「説明も聞かずに使ったのですか?」

 「使う決まっているだろう、そのためにあるのだろう。だから、どうしてくれる?」

 「いや、どうにもこうにも、正しい使い方をしてもらうしか、方法がありません」

 「いや、あるぞ」

 嫌な予感がした。

 びしょ濡れのクロエさんが、にやりと笑いながら言った。

 「その、ファビオが食べているものを寄越せ」

 「……はい?」

 「でないと、欠陥商品で私を傷つけたと王女様に報告する」

 そう言い残して、クロエさんは腕を組んだ。

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