第27話 転生者、王女と語る
カミーラ王女は僕のベッドに座って、僕の方を見ていた。彼女は寝るときはそうなのか、全裸だった。僕はまともに見られず、ベッドと反対側にある机を向いて、風の魔道具の改良に取り組んでいた。温風と冷風が切り替えできる魔道具。あと少しで完成しそうなのに、気が散って集中できなかった。彼女に悟られないように、顔のほてりを冷やすため、魔道具の冷風で顔を冷やした。
彼女が声をかけた。
「アルス、お前は私のことをどう思う。哀れな王女だと思ったか?正直に言ってくれ」
「そうですね。今晩の歌を聞いてそう思いました」
「そうか?それと、私を嫌な女だと思っただろう」
「どうしてですか?」
「やること全て自分本位だからだ。私は小さい時から目的の為には手段を択ばなかった。弟や妹が私が持っているお菓子を欲しがっても、私はあげなかった。逆に、弟や妹が私が欲しいおもちゃを持っていたら、容赦なく奪い取った。それでも、父や母はそれを許した。何故だと思う」
彼女の声が自嘲気味に低くなった。
「分かりません」
「それは、私がフジャイラの王の資質を受け継いだ唯一の子供だったからだ」
「王の資質とは、人の情報と能力を見極め、少しばかりの未来を見通す力だ。だから、父と母は、私を怒ろうとも怒れなかったのだ」
彼女は語気を強めて言った。
次に何かを告げようという彼女の言葉に、僕は作業の手を止めて聞き入った。
「正直に言おう、アルス。正確にはアルスの振りをする男、お前はアルスであって、アルスでない。この世界の文字では書けない名を持つ男だ。そのお前に聞く。お前は何をしにここに来たのだ」
「えっ、」
僕は驚いた——彼女は僕が金子治であることが分かっている。見えているのだ。僕は振り向くことが出来なかった。
「その事は誰にも言わない。私とお前だけの秘密だ。こっちを向いて本当のことを喋れ」
彼女は僕に真実を強要した。僕は静かに振向いた。天井から照らす灯りの魔道具で彼女の裸体がはっきり見えた。僕が彼女の裸体に目を奪われているのが分かったのか、
「私は裸だ。何も隠し事はしていない。そして、お前にすべてを話すつもりでいる。だから、お前もそのつもりで全てを話せ。私は嫌な女だが、約束は守る。お前の話を聞く前に、まず、私の事を話そう。
フジャイラの国は、この国の山を三つか四つ越えたところの先にある平和な国だった。あるとき、フジャイラの国の前にある島が噴火した。それだけだ。それだけで、歌の通りにフジャイラの国は無くなった。王家の血を引く私を逃すために、父と母は死を選び、弟と妹を魔物の足止めするために使った。
私を守ってくれた50人からの騎士団も山越えを繰り返す中で人が減り、空腹で死にそうになりながらこの地にたどり着いた。その間は、騎士団がやむをえず村々から食料を奪いながら私達は生き延び、流れてこの地にたどり着き、ここで暮らし始めた。近隣の村から盗賊のように人を攫い、食糧を集め、それが悪いことだと知っていても私は正すことが出来なかった。
盗賊の暮らしは人を荒ませるのか、騎士団員にも不埒な行動をする者もいた。その度にアレオスは厳しい処分をした。アレオスは私以外を信用しなかった。私もアレオス以外を信用しなかった。そのため、出かけるときには必ず、私を鍵のかかる部屋にいれ、団員の手の届かないようにしていた。そこをお前たちに見つかったのだ。私のつまらぬ話は以上だ。次はお前の番だ」
彼女は僕に話を促した。僕は彼女を信じ、すべてを話すことにした。
「アルスの体にいる私は金子治と言います。ある時、アルスという子供の体にいることに気づきました。王女が言うとおり、27歳で、この世界でない世界からやってきました。何で、そうなったのかは分かりません。私の記憶にあるその世界には魔法というものはなく、また、魔素という物質もありません。その代わり、科学と言う知識の体系があり、それを使うことにより、この世界よりも人は安全で安心な暮らしをし、美味しい食べものを食べ、朝から晩まで色んな仕事で働きます。
その世界は、王はおらず、民の中から代表が選ばれ、その代表たちが会議という打ち合わせを行い、国の決め事や運営をやって行きます。
そして、子供達は、小学校、中学校、高校、大学と知識を習得するために学び続け、その後、大半の人間は会社という組織で仕事をし、一生を終えます。私も、会社に就職し、その会社で生活の大半を過ごしている途中からの記憶が無くなっているので、そこで、短い一生を終えたのだと思います。
王女が問われた、私がここへ来た理由ですが、それは、正直に申しまして、分かりません。実は、これから何をしていくのかも分からないのです。ただ、アルスとして生活していくうちに、魔法を覚え、魔法陣を学びました。そこで、たまたま作った魔道具が利益を生み、そのために、私はなぜか、王都を追われたのです。
その行先の村で騎士団と会い、また、たまたま、村を作り、たまたま、王女と話している訳です。私は、この偶然を大切にし、皆がそれを喜んでいるなら、そういった世界を作って行こうと考えておりました」
「そうか、私が最初にアルスを見た時の違和感は、金子殿にあったのだなぁ。その時、この子供が私の未来を変えるという姿が見えたのが不思議でならなかった」
王女は初めて、少しだけ安堵したように笑った。
「そう言われても、王女のために私は何もできません。まだ、子供の身で剣を振れず、馬にも乗れません。何のお役に立ちそうもありません」
「いや、あるぞ。金子殿にしかできないことがな」
「それはなんでしょうか?」
「私の夫となり、フジャイラの王となるのだ。それが私の役にたつのだ」
「そうでしょうか?私の体は幼子です。王女と釣り合いません」
「それは問題ない。昔からそういった例は腐るほどある。私が、金子殿の横にいるかぎり、そなたは王の威厳を持つ。それからでも子作りは遅くない。まだ、私は十七だ。それはそれで楽しみであるが、楽しみはとっておいた方が喜びも大きいと聞く」
王女は笑った。そして言った。
「私と二人っきり以外は金子で喋るな。アルスになりきれ。別の世界の知識を披露する時には王都の本に書いてあったと説明するのだ。分かったな、私の王よ」
「分かりました」
と、僕は答えた。
「ところで、王よ。私は言いたいことを言えて眠くなった。私が眠るまで、一緒にここで寝てくれないか?」
急に王女は優しい声をかけてきた。僕は答えた。
「この場合は、私は金子で良いのですか?それともアルスですか?」
「もちろん、アルスだ。今は多くは望まない」
僕の中の金子は悶々とした夜を過ごすことになった。




