第23話 転生者、発見する
翌日、フェルプス商会の三人は王都へ戻ることになった。また、魔物に襲われる可能性もあるため、暁の光も同行することになった。暁の光にはこの辺境での新しい契約金額を支払って、僕たちの新たな護衛任務がなくなり、フェルプス商会と新しい護衛契約を結んだ。
これで、暁の光ともお別れかもしれず、僕は携帯型の水の魔道具を四人にプレゼントした。皆、喜んでくれたが、クロエさんだけが、右手に水の魔道具持ちながら、左手も出していた。
最初から彼女は二個欲しいと言っていたのを思い出したが、無視していると、リオンさんがクロエさんに言った。
「両手が使えなくなったら、弓だけじゃなく、剣も握れない。冒険者失格だ。ここに置いてくぞ」
一瞬、クロエさんは考えて、僕に言った。
「お前、私の世話できるか?」
「いや、僕はまだ、子供で、お世話されている立場です。とてもクロエさんをお世話することはできません」
「そうか、お前はまだ、子供だった。私は間違っていた。王都に戻る。さらばだ」
クロエさんは左手を戻し、振り返り、走って暁の光に合流した。クロードさんと二人で見送った。
ファビオさんは、王都に戻るが、すぐに魔道具作成に必要な材料を持って、村に戻って来る予定だ。そのために、僕は、異次元収納機能のある闇の魔道具をファビオさんに渡した。
実は、フェルプスさんからはこれも売ってくれと言われたのだ。ただ、まだ時期でないと言って断った。あまりにも物流が変わり過ぎるのは良くないと思ったからだ。しかし、この考えもいつかは変わっていくかもしれない。
僕は試作品のテスト運用を兼ねて、カミーラ王女の家、騎士団長の家、僕の家と灯りの魔道具を使ってもらっている。部屋が明るくなったことは好評ではあるが、暁の光がいなくなったため、カミーラ王女の身の回りの世話をする人がいない。フェルプス商会のエルザさんが世話係として残る話もあったが、彼女はファビオさんがいなくなった後の商会の跡取りのため、それも立場上立ち消えてしまった。今は、騎士団の最年長のクリスが以前通り身の回りの世話をしているが、いずれは、女性の世話人が必要となるだろう。
そう言った課題もあるが、食糧不足が問題である。王都から闇の魔道具で運んで来た食材も心細くなりつつある。僕とクロードさんの想定で軽く一年はもつ予定でいたが、何せそれをまだ、短い期間であるが、二十人以上で消費し、これ以降も十七人で消費するとすれば、計算では、どう節約しても後一月くらいでなくなってしまう。
その間にはフェルプスさんの補給もあるだろうが、食糧自給には目途をたてないと今後の村の運営が破綻する。騎士団が、森で猪、鹿と、ウサギ、鳥などを狩りで食糧にすれば良いのだが、彼らは向かってくる敵には強いが、逃げる敵には全く歯が立たない。
まだ、少しばかりの所持金があるうちに、近くの街に食料の買い出しに行く必要があるかもしれない。
僕は騎士団の数名と一緒に、作った水路の状態の確認と周辺の調査を行った。残りの騎士団員は切った木を削り、村の柵を作る作業を依頼している。村の区切りに置いてあった切り株からきちんとした柵にするのだ。
作った水路は壊れたところもなく問題なく、水も流れている。それを辿りながら、水を引いた川まで来た。この上流か、下流か、どちらから調査するか迷ったが、下流側から調査することにした。そこで、僕は大発見をした。
内容としてはそう驚くことは無いかもしれないが、サトウキビがそこに群生していたのだ。凄いことだ。砂糖が作れる。もしかしたら、お酒も造れる。植生が残るように、風のブレードで三分の二のサトウキビを刈り、異次元収納に入れた。
この辺りにはまだ有効な食物があるかもしれない。
もう少し、下流へ進む。進んでいくと、また、発見があった。なんと、ジャガイモの葉っぱを見つけたのである。ジャガイモは何でも作れる夢の食材だ。思わず、茎を持ち引き抜くと、ジャガイモが大量に付いていた。こちらもとっても嬉しく、楽しい気分だった。これも大量に収穫した。
そして、このサトウキビとジャガイモは有用な食材だ。これを我が村、アルスブルクのものであることを主張するために、この植生の範囲に柵を作りたい。しかし、そのためには、騎士団の協力が必要だが、そのためには道が必要だ。
村の拡張を考えた。
村へ戻りながら、今回見つけたモノが絶対使える食材で、その為には栽培、収穫のための道を造る必要があることを皆に認識させる必要がある。そして、それを我が村の物であることを対外的に示すためにも我が村からの道が必要だ。
僕は砂糖を作るために、住居の横に例の四枚壁で囲まれた工房を作った。そして、家の中に異次元収納から出した切り株を何個か並べた作業台を作った。
クロードさんに、洗ったサトウキビを5cm程度大きさに切って、鍋に入れてもらった。それを、僕が風の小さなブレードを作って、粉砕していった。そして、粉砕したサトウキビを布で濾して、焦げ茶色の液体を絞り出していった。集めた茶色の液体を火の魔道具で温め、水分を飛ばした。水分が無くなり、粘度が出てきたら温めるのを止めた。まだ、熱いが少しだけスプーンですくって舐めると甘かった。蜂蜜とは違う甘さだった。
異次元収納からパンを出し、その熱い黒い液に浸した。少しだけ、白いパンに染み込んだ。クロードさんにパンを半分、渡した。
僕が食べ、クロードさんが食べた。二人で顔を見合わせた。
「甘くて、美味しい」
二人の声がそろった。この国の記憶の中で味わった初めての甘さだった。
「アルス坊ちゃま、この黒い液体はなんですか?凄く甘い」
「これは黒蜜です」
そして、僕は思いついたことを試してみることにした。
「クロードさん、ちょっと実験したいことがあります。ちょっと手伝ってください」
僕は、別の鍋をクロードさんに持ってきてもらった。
それから、僕は水魔法と風魔法を同時に使用した。唱えるのは、圧縮した風を水と一緒に吹き出すイメージだ。
「ウインド アンド ウォーター」
白い霧が広がった。
次の瞬間。
鍋の中に雪が積もっていた。
高圧縮の風が急速に元の圧力に戻る際に周囲が冷やされ、水が小さな氷になる——魔法で作ったスノーマシンだ。
僕は鍋にできた雪をお皿に掬い、その黒蜜をかけた。かき氷である。クロードさんにも同じように作ってあげた。
「クロードさん、食べてみてください」
そう言いながら、スプーンで黒蜜がかかったかき氷を食べた。
「いやー、美味い。暑い日だったら最高ですけどね」
「わー、冷たくて甘い。初めて食べます。坊ちゃん、これは何と言う食べ物ですか?」
クロードさんのスプーンが止まらない。
「かき氷です。でも、冷たいので、急いで食べると頭が痛くなるので気を付けてください」
と、頭を抱えて、うずくまるクロードさんが居た。
クロードさんが落ち着くと、僕は話しかけた。
「この蜜を固めると、黒砂糖になります。分かると思いますが、一度、食べたら、この甘さを欲しがり、僕の前世の記憶では、国の戦争もあったと聞きます。だから、この黒砂糖のことは我が村の秘密にし、守る必要があります」
「いや、これは公爵家に知られると厄介事が発生しますね」
「そうです。知られたら、僕は、また、別の領地へ流されると思います」
王都の公爵家を思い出すと先ほどまでの浮き浮きした気持ちが急に重くなった。
元気のなくなった僕の顔を見て、クロードさんが言った。
「坊ちゃま、私は思うのですが、この村をアルス坊ちゃまの領地として、公爵家から独立することを考えられたらどうでしょうか?」




