第21話 転生者、村の名前を考える
村の名前を問われて、僕は周りを見回した。
笑い声。
焼いた肉の匂い。
水の流れる音。
つい数日前まで盗賊のアジトだった場所とは思えない。
……ここが、僕たちの新しい居場所だ。
なら。
名前を付けよう。
皆、屈託がなく笑って会話を楽しんでいる。この人達を居場所を守っていきたい。横のクロードさんの顔を見ると、僕の言葉を期待しているようだった。
僕は皆に聞こえるように言った。
「この村の名は、僕の名をとってアルスブルクとします。まだ、20人にも満たない村ですが、僕が成長していくように、大きな街となるよう僕の名前を付けました」
僕が言うと、一瞬、皆が静かになった。
そして、歓声が上がった。
”アルスブルク、万歳”
その声で、また、賑やかな雑音が戻って来た。
クロードさんが歓声の中で僕に言った。
「良い名ではありませんか?この辺りは公爵領。アルス様がどうなさっても誰も文句は言いません。これ以上の名前はありません」
ファビオさんが、僕に申し出た。
「では、アルス様、私、ファビオをアルスブルクの第一番目の移住民にしてください」
僕は笑みを浮かべて答えた。
「ファビオさん、申し出ありがとうございます。貴方をこの村の第一番目の移民として歓迎します。そして、住民になられたとなれば家が必要となります。この村の領主として、貴方の家を用意します」
僕はそう言って立ち上がると、いつもの壁四枚の箱の家を作るイメージで土魔法を使った。
「アース」
僕の魔法で、地面が盛り上がった。
土壁が形を成し、数秒後には、一軒の家が完成していた。
ファビオさんが目を見開いた。
「一瞬で家を?」
「ファビオさん、しばらくここを棲家として下さい。雨が降ったり、寒かったら、この家の内側にある壁の魔法陣の中心にこの魔石をはめ込んで下さい。屋根が出てきます。もし、よろしければ、フェルプスさんも僕の家でなく、こちらでお休みください」
と言って、僕はファビオさんに小さな魔石を渡そうとしたが、フェルプス商会の親子は魔石を受け取ることも忘れ、呆然と今できた家を眺めていた。
翌日、フェルプス商会の人々は疲れがとれず、もう一日だけ、村で休むことになった。そして、その間、道なき道を走って来た傷んだ馬車の点検と彼らの持ってきた商品の状態の確認をすると言っていた。
僕はパンとスープの簡単な朝食を済ますと、フェルプス商会の馬車が通って来た道を見た。この道は騎士団が馬で踏みしめただけの獣道に近く、正式な道路とは呼べない。村の体裁を整えるには、街道に繋がる道も必要だ。
僕はこの村の入口から街道に繋がる道を造ろうと思った。
まず、真っすぐに、街道に向けて風のブレードを放った。
「ウインド」
キーンという甲高い音をたてて風のブレードが木々、草花を切り裂き、ズーンという音が何度かして木が倒れ、これを闇の異次元収納に格納していった。これを何度か繰り返し、この森を抜ける空間が作られた。
次は、道として整地しなければならない。ここは騎士団の力が必要である。彼らにお願いし、僕の土魔法で切株の周りの土を緩くして切株の撤去を行った。
それが終わると、道の中央をやや盛り上げて傾斜をつくり、道の横に溝を作って、ぬかるまない構造とした。
道としては小さな石を敷き詰める必要もあると考えたが、これは、交通量が増えた時にとっておこう。
街道への道ができたので、村に、一旦、戻った。すると、クロードさんが待っていた。
「アルス坊ちゃん、昨日言われていたピザと言うものを焼いてみたのですが、食べてもらえますか?」
「えっ、もう、作ったのですか?」
「はい。持ってきますね」
僕が座って待っていると、木の皿にのった丸い円盤状に焼かれたピザが運ばれてきた。見ると記憶の中にあるピザである。
ナイフで切り分け、食べ始めた。
「美味しい、チーズは分かりますが、この酸味はさらに食欲をそそりますね」
「はい、そこが今回の工夫になります。塩味ベースの生地とチーズだけでも美味しかったのですが、これに、酸味が加わると、さらに美味しさを引き立てるという、女性陣の意見がありました。ファビオさんからの商品から色々譲ってもらい、色んな組み合わせで調理を繰り返した結果、トマトの瓶詰を見つけて、それをのせて焼いたらとても美味しかったのです。
ただ丸ごとのトマトは食べにくかったので、すり潰し、ペースト状にして、生地に万遍なく塗り、チーズをかけて焼きました。これが、ファビオさん含め、フェルプスさんやエルザさんにも気に入ってもらい、フェルプス商会での商品化の話もでてきました」
「トマトもあったんですね。クロードさん、ありがとうございます。これが僕が望んでいたピザです。これには、さらにバリエーションがあり、蜂蜜のように甘い液をかけたり、干し肉のようなものを水でもどして、のせて食べても美味しいのです」
「そうですか?良い事を聞きました。早速、今日の昼にでも皆さんに振舞います」
クロードさんは鼻息を荒くした。
「トマト、この村で栽培したいのですが、フェルプスさんの商会から入手できますかね?」
「坊ちゃん、王都で購入した種子の中にたしか、トマトもあったような気がしますが」
「そうですね、異次元収納を確認してみます。あったら、早速、農地を整地してトマトの種を撒きましょう」
僕はクロードさんに言い、午後の仕事が決まった。
僕は農業用に作った溜め池を中心に畑を作るために、騎士団を連れて森に向かった。彼らは戦うべき敵も魔物もいないので、当面、農作業要員である。
彼らが、森から腐葉土を異次元収納に集め、それを農業用地にする場所に適当にばら撒いた。
そして、それを僕が土魔法で混ぜ込むような土を掘り起こすイメージをして、
「アース」
と、唱えると、農業用地がむくむくと盛り上がって、山を作り、崩れた。それを、数回繰り返すと腐葉土が混ざったふかふかの土ができた。
それから、その土に魔法で畝を作った。
荒れた森の地面が、次々と農地へ変わっていく。昨日まで盗賊のアジトだった場所とは思えない。
畝にトマトを含め、野菜の種を撒いていった。終わると、一息ついて、僕は水魔法で水を撒いた。
早く育ってくれれば良いな。
また、持ってきた果樹の木も畑の周りに植えて行った。
そして、作業が終了した広く見える畑を見ながら考えた。
村は食糧の自給自足が生活の基本となる。それができないと、生きるために盗むか奪うかの選択を迫られる。村の収入があれば、食糧も購入することもできる。
まず、生活資金を得るために僕は火の魔道具の完成を急ぐ必要があると感じた。




