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七歳で世界を変えた少年〜前世の知識と禁断の魔法理論で、僻地を最強都市に作り替える〜  作者: 霧里 野蒜


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第20話 転生者、治療をする

 「お父様、お兄様、しっかりしてください。私を一人にしないで下さい」

 娘がその言葉を繰り返し、怪我人に縋りついている。

 「お嬢さん、少し、傷を見せてもらえませんか?」

 僕が泣いている娘に声をかけると、泣きはらした目で不審気に僕を見た。アルドさんが落ち着いた口調で彼女に声をかけた。

 「エルザ様、子供に見えてもアルス様は治療の天才です。今の状況では我々は何もできません。アルス様に任せましょう」

 それでも彼女は動かず、僕に不審気な目を向けたままだった。

 ”ゴフッ”

 っと一人の男が血を吐き出し、それを介抱しようとした彼女が少しだけ場所を開けた隙間に僕の体を滑り込ませ、顔面の血まみれの怪我人と向かいあった。こちらの若い方は、頭に傷があるが比較的浅いようだ。しかし、頭は後遺症を残す可能性があり、慎重に扱わないといけない。

 まず、出血している傷を治そう。頭の傷が塞がるようなイメージを込めて呪文を呟いた。

 「ヒール」

 傷が塞がっていき、血が止まった。血が止まった頭部の様子を確認するために、浄化の魔法をかけた。

 「クリーン」

 頭を覆っていた血がなくなり、念入りにみたが、頭に損傷はみつからなかった。その後、その男の他の怪我を探したが見つからなかった。呼吸の荒さも落ち着いてきたようだ。もう一人の方を見ると、娘と目が合った。

 「助けて、お父様を助けて、私の代わりに魔物の爪で腹を切られたの?助けて下さい。何でもします。お願いします」

 彼女が訴えかけてきた。

 「場所を代わってくれませんか?」

 その僕の言葉に弾かれたように彼女はすぐに動き出した。僕は彼女が居た場所に移動した。見ると、やはり、こちらの男の方がひどかった。目に見える傷から順に治療しようと思った。まず、傷口を浄化し、お腹の傷を塞ぐイメージを呪文に込めた。

 「ヒール」

 徐々に傷が塞がっていった。それを横目で見ながら、体の状況を調べていくと足が変な方向を向いており、骨折していた。それに、内出血もひどそうだった。

 折れた骨を元の位置へ戻す。

 千切れた血管。

 傷ついた神経。

 それらが繋がるイメージを強く思い描き、僕は呪文を唱えた。

 「ヒール」

 しかし、まだ、息は荒い。上着をはぐると、胸が歪なくらいへこんでいる。肋骨が折れて、呼吸がしにくくなっているのだ。骨を元の位置にもどしながら、肺に溜まっている血液や体液を取り出しながら、肺を修復だ。

 呪文を呟いた。

 「ヒール」

 肋骨が修復され、肺が正常にもどったのか、次第にこちらも呼吸が安定してきた。  

 僕をずっと観察していた彼女に言った。

 「もう、大丈夫です」

 その言葉に彼女は僕に抱き着いてきた。不安に彼女は押し潰されそうだったのかもしれなかった。

 「ありがとうございました...」

 そう言ったのだと思うが、泣き声でよく聞こえなかった。冷たく震えていた彼女の体が僕を包んだ。そして、それを僕の体温が彼女を溶かしたのか、次第に温かさを連れてきた。彼女の柔らかさを感じるようになった。

 僕の首に抱き着く彼女を見ると、ぐったりした状態で目を閉じていた。本当に安心したらしい。

 でも、周囲の視線が痛かった。

 特にクロエさん、なんでそんな呆れた顔をしてるんですか?


 最初に目を覚ましたのは怪我をした若い方だった。彼は、上半身を起こし、我々を見つけると、お礼を言いながら名乗った。

 「助けて頂きありがとうございます。この御恩は一生かかっても返す所存でございます。

 私は、この近くの街ブールに商売やってきた王都のフェルプス商会のフェルプスの長男ファビオと申します。近隣の村々にもお付き合いがあり、定期的に商売に回っているのですが、この度、魔物ワーウルフの襲撃を受け、この惨状となりました。

 護衛は雇っていたのですが、お恥ずかしい話、魔物と戦わずして逃げてしまい、残された我々と従業員で戦っていたところをこちらの冒険者様にお助け頂いた次第です。途中で父が倒れ、私も力尽き、偶々商売を覚えさせようと同行させていた妹エルザを身を案じながらも死を覚悟しておりました」

 彼は身の上を語った。

 「そうでしたか?大変な目にあわれましたね。まだ、我々もここに移り住んだばかりでなんももてなすことはできませんが、ゆっくり休んでください」

 と、クロードさんが言い、続けた。

 「お腹は空いてないですか?食欲があればパンと果物を用意しますが、いかがでしょうか?」

 「私はそうでもないのですが、妹はお腹がすいているかと思います。よろしければ、妹の分だけでもお願いします。それと、父はどうなっておりますか?かなり、酷い状況でしたので、今頃は死んでいるかもしれませんが...」

 「まだ、勝手に殺すな。生きておるぞ」

 離れたところで寝ていたもう一人の怪我人が声を出し、こちらも上半身を起こした。

 「生きてはいるが、この様に、足も動かず...いや、動く。えっ、なんだ。深く切り裂かれたお腹の傷も癒えている。体に怠さはあるが、体に不自由はない。いや、いや、これはいったいどうなったのだ」

 その声に眠っていた娘が反応した。

 「お父様もお兄様も、あの小さな子供が不思議な力で治したのです」

 彼女が僕を指さすと、怪我人含めた皆の視線が僕に集中した。


 遅めの夕食は賑やかなものとなった。池には水が流れ、クロードさん自慢の新しいパンが出され、アルドさんとリオンさんが仕留めた猪の肉が焼かれた。果物も出され、さらに、クロードさんは僕が渡したレシピで作った、干した果実と小麦と王都で求めた砂糖を使って、パウンドケーキを焼いて出したので、女性陣には喜ばれた。

 お腹が膨れれば自然に会話も弾む。秘蔵のワインやミードを出すと、次第に、初めて会う者も距離が近づいて行った。

 体が回復してきたらしく、フェルプスさんがクロードさんに聞いた。

 「助けられた身の上で、失礼なことをお聞きしますが、近くに村があるのに、何故、ここに住まわれているのですか?」

 クロードさんは僕が王都から追放された公爵の息子であり、カミーラ王女と騎士団を助けたために住むことになった村を追われたことを話した。

 「ご苦労なさったのですね。我が商会でお力になることであればご協力しますので、なんなりと申し付け下さい」

 と、嬉しい提案をされた。クロードさんは横にいる僕を見て、僕に返答を促した。

 「率直に言うと、この森を切り開き、新しい農地を作りました。栽培する種子は王都から持って来たのですが、管理する人がいません。できれば、ここに移住する人が居れば紹介して欲しいのです。ただ、僕たちが面接し、一緒にやっていけるという仲間であるという前提になります。また、家も簡易的な家を作っており、大工とかの経験のある方も必要ですし、鍛冶ができる人がいれば助かりますし、考えると色んな人が必要です」

 僕は取り留めない話をしてしまった。

 「はははっ、なるほど、色んな人が必要なわけですね。条件に合う、合わないはそちらで決めて頂くとして、多くの人に声をかけてみます。商売柄、知人だけは多いのですよ、あと、商人はいかがですか?今なら、適任がおりますが」

 「ああ、商人も必要ですね。ご紹介いただけますか?」

 フェルプスさんは少し考えてから、ファビオさんを呼んだ。

 「おい、ファビオ。こっちへ来なさい」

 「なんでしょうか?お父さん」

 「この村には商人がいないようだ。お前はこの村で商会を作り、商人として雇ってもらいなさい」

 人が増えるのは嬉しいが、急すぎないか?僕が心配していると、ファビオさんが答えた。

 「えっ、良いのですか?さっき、食事中に見ていたのですが、この村には凄い火の魔道具があります。聞けば、アルス様が作られたとのこと。これを私が一手に売ることができれば、このマギビスタでも大きな商会にできると思います。是非、やらしてください」

 「おう、そう言えばスープ温めていたあれですか?あれは魔道具だったんですね。そうですか?あれがあれば旅の食事が楽になりますね」

 「それに、お父さん、このふわふわのパンも先ほど頂いたパウンドケーキもアルス様が考案されたとか。これも商売できると考えております。お父さんから言われなくても、この村に残り、アルス様のお役に立つ商人となるよう考えておりました。私からもここで商人として、商売をさせて下さい。お願いします」

 ファビオさんが僕に頭を下げた。

 「アルス様、ファビオもこう言っております。この村に置いてもらえないでしょうか?」

 フェルプスさんも頭を下げた。

 「それは願ってもないことです。この村のために活躍してください。僕からもお願いします」

 僕も頭を下げ、それから、三人が同時に頭を上げ、顔を見合わせ笑いあった。そして、フェルプスさんが呟いた。

 「して、この村は何と言うのでしょうか?」

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