第2話 転生者、魔力を暴走させる
”魔法とは天地の理を意識し、神への感謝を抱きつつ、体内の魔力を意識して、魔力を人体の魔法の管より放出し、火と風と土と水と闇と聖の力に変えるものだ。適性の呪文を唱えよ。火を使う者はファイア、風を使う者はウインド、土を使う者はアース、水を使う者はウオーター、闇を使う者はダーク、聖を使う者はホーリーと。魔力の力を信じる者だけが魔法を使うことができる”
ともかく、魔法が使える国というか、世界に来たのだから、魔法を使いたい。と、思うのが当然だろう。そのつもりで本を読んでいたら、魔法の実行の項目で、何か、人を騙す宗教家か詐欺師のような書き方で説明があった。
そうなのか?本当にこれでできるのか?
甚だ疑問だったが、横のページにイラストがあり、文書よりイラストの方が分かりやすそうだった。
イラストの最初はお腹をあたりが光っている。次に光っている塊が体を巡る絵があって、それが掌から押し出されている。その次は、人が話す(多分、呪文を呟く)と押し出された魔力の形が変わって、火の玉になり、その次に火の玉が飛んで行って、ある場所ではじけ飛ぶイラストになっていた。
このイラストから、類推すると、魔法は、こんな感じだと読み解いた。
一.魔臓から魔力を体外に出すように瞑想する
二.魔力が掌に集まってきたのが分かったら、それを放出する
三.放出する魔力を実行する場所を選ぶ
四.呪文を呟く
五.目的地で 魔法が発動する
できるのか?こんな事?
僕はベッドに腰かけ、魔法理論の本を横に置いた。魔法を使うために少しずつテストをしながらやるしかないが、まぁ、とりあえずやることもないので、魔法を使ってみよう。
”魔臓から魔力を体外に出し”
って、どうやるの?最初からつまずく。
まず、魔力を作っているはずの魔臓が何処にあるのか分からない。とりあえず、イラストに描いてある光っているお腹の辺りに手を置いて、魔臓の位置を確かめてみる。結果、分からなかった。直ぐに手がかりが無くなる。
しばらく、考え、また、本を手に取り、文章を眺めていると、”体内の魔力を意識して”という文が引っ掛かった。そうか、人には魔力が必ずあると書いてあった、それを意識しないといけないのかもしれない。再び、お腹に手を置いて、魔臓でなく、魔力を意識してみる。
「魔力はある、ある、必ずある。僕が居た世界にはない魔力は必ずある。ある、ある」
祈るように呟いていると、下腹部あたりにコリコリとしたしこりの様なものがあるような気がしてきた。
「これかもしれない」
次に、何となく感じたしこりの様な物を体の外に出すことだが、その前に動かさないと先に進めない。お腹に置いた掌から。その塊を意識して、動かそうとした。
うん、少し震えている。動きそうだ。ゆっくりゆっくりと動かそう。おー、動き出した。何となくできて来た。ゆっくりと前後左右に動かすことができた。体力も使うのか、ほんのり体が温かくなる。同時に額から汗が出てきた。
でも、これと同じことをしたことがある。どこだろう。考えてみると、”時の守り手”の最後にいれたバトル方式の変更時にゲームのキャラクターにやらせていたことを思い出した。
体内に魔力が溜まるまで魔法の発動を待たせるという仕様変更をした時に、リアルを追求すると言って、開発者の一人が勝手に体内の魔力を制御する練習しなければ魔法を使えない仕様を追加していた。その時のチュートリアルだ。魔法を使わなければデバッグが進まないため、必死で操作したのだ。その時の金子の記憶が湧き上がって来た。
ゲームのデバッグで僕はその仕様追加の難易度を確認しようとして、なぜか、さんざんやらされたのだ。その時の感覚に似ている。魔力をぐるぐる回して、それができたら、魔法使いは手を前に出して、回している魔力の塊をその掌から体の外に放出し、その後に呪文を唱えていた。すると、ゲームでは魔法が発動したのだ。
僕は魔力の放出は上手くいくような気がしてきた。自分ではないが、ゲームのキャラクターでは上手くいったのだ。お腹の辺りで動いてる魔力の塊を掌まで持ってくるように意識した。魔力の塊がお腹からせり上がる。急に気分が悪くなり、塊が移動しているところが痛い。痛い、痛い。やがて激痛に変わる。魔力の塊は肺を押し付けて呼吸も苦しくなる。
気分が悪い。肺が痛すぎる。この差し込むような痛みに耐えられない。途中で止めれないのか?ゲームでは魔法使いはこんな痛い思いをしたのか?ゲームでは伝えられなかった。今度ゲームを作るときにはこの痛みを伝える仕組みを作らないといけない。
戻せない魔力を痛みに耐えながら肺から右上腕、下腕へと移動させる。その時、筋肉が盛り上がり塊が通っているのが分かる。もう少しだ。やっと、塊の先が掌にやってきている感覚がある。
「出ろ、出ろ、出ろ」
吐きそうになりながら、強く念じる。念じる。念じる。
すると、掌が急速に熱くなり、”ぶーん”っと、空気を震わす音がして、掌から濃い気体の塊が放出され、開いている窓から出て行った。
”どーん”と大きな音がして、窓の前の木にぶつかった。僕は内臓が体の外に放りだされた様に感じ、さらに、強烈な気分の悪さが襲ってきて、このまま死んでしまうのかもしれないと思いながら、意識を無くしてしまった。
目が覚めたら、窓の外が暗くなっていた。体のだるさは残っていたが、気分の悪さは収まっていた。しかし、体全体に筋肉痛がある。その痛みが僕がまだ生きていることを証明してくれる。起き上がろうとするが、上手く一人では起きれそうにない。
途方に暮れて、考える。
魔法は使えたのか?
いや、使えたとは思えない。しかし、この体の痛みは何かが出来た気がする。まだまだ、なのかもしれないし、もう少しなのかもしれない。色んな事を考え始めると、考えが広がり始め、収拾がつかなくなってきた。
やがて、その考え事はセバスの出現によって遮られた。
「アルス坊ちゃま、夕食の準備ができて、皆様、お待ちです。食堂へ参りましょう」
セバスは更に続ける。
「魔法を暴走させた事は旦那様の耳に入れておきました。お叱りも覚悟して下さい。魔法は中等部からの教科で、身体ができていないアルス様には早すぎます。身体が出来て無いと先程みたいに倒れてしまうのです。まず、身体をお鍛えください」
諭す様に言う。僕は無言だ。
「立てますか?」
と言って、セバスは僕を補助しながら、ベッドの横に立たせた。
「さあ、行きましょう」
セバスは追い立てるように僕を食堂へ送り出した。
「アルス、魔法の本を読むのは良い。でも、使うことは別だ。まだ、早い。幼いうちの魔法の使用は体に負担をかけすぎるのだ。中等部になるまで魔法は使用してはいけない」
席に座るや否や、父であるブルームバーグ公爵その人から、いきなり小言をいわれる。ある程度予想していたので、
「分かりました」
と答え、次の言葉を待った。
「しかし、若くして魔法に興味を持ち、使おうとする意欲は良い。だが、その気持ちはまだ抑えておきなさい。それに、剣術の修行はどうした。公爵家の名に恥じないよう勉学だけでなく、武術も身に着け、体を鍛えておくのだ。それが、陛下をお守りする我が公爵家の定めだ。それを心しておくように、分かったか?」
「はい、分かりました。以後、気を付けます」
僕は答えた。
その様子を見ていた母であるエリザベートが救いの言葉を発する。
「閣下、長男のジョージが公爵家を継ぎ、次男のリチャードはジョージの補佐として公爵家を盛り立てる役割がきまっておりますが、アルスにはその役割がなく、この家からいつかは独立しなければなりません。幸いアルスは、読み書きはこの国で同年代の者の中でも優れ、早くからこれを活かした技能を身につければ、独立も容易になると思います」
「そうか?今からか?それもそうだな。そう言うことを私に言えるということは、エルザ、何か、当てはあるのだな」
母は答える。
「はい、国立学院に、王都で流行っている水の魔道具を開発された先生が着任されたということです。その先生が提唱する新しい魔法理論を理解する者は少なく、アルスがこれを学び、彼の元、新しい魔道具を作ることができれば、アルスの独立も楽になるのではないでしょうか?」
「うーん、公爵家の人間が魔道具職人?我が家の格からしてそれはあり得ないだろう」
父が軽く反論する。
「いえ、魔法はこれから変わります。戦の時代もやがて終わるでしょう。戦闘に使うだけが魔法ではありません、我が国における位置づけも変わっていくのではないでしょうか?」
「ふーん、何故分かるのだ?」
「100年ぶりに魔法に新しい理論が生まれ、その理論で新しい魔道具を作っている先生が学院にいるのです。その理論をアルスに習得してもらいます」
「魔法の新理論、まだ、魔法も理解できていない初等部のアルスが習得できるのか?難しすぎるだろう?」
「いえ、できます」
「何で言い切れる?」
「貴方と私の子供だからです」
母は父を見つめ、軽く笑う。そして、僕の方を見ると、
「アルス、できますよね?」
母が力強く答えを求めてきた。凄くシンプルな理由だった。僕は仕方なく、
「はい、大丈夫です」
と答えた。その言葉に反応するように公爵が笑って、話を締めた。
「と言う訳だ。ジョージ、リチャードも良いな。アルスにはこれから特別に魔道具開発の先生の元、その新理論とやらを明日から学ばせる。良いな」
と、父は兄二人に確認をとる。
「話は済んだ。アルスは明日学院の勉強が終わり次第、魔道具の先生を訪ねろ、よいな。では、食事だ」
その掛け声で夕食が始まった。静かな夕食だった。僕はこの世界の初めての食事だが、色んな意味で味がしなかった。
後で考えると、最初から父母の間では僕を学ばせるというのは決まっていたようだ。そうでなけば、明日からという話は出てこない。生活していくことさえも不安なのに、その先生の理論を理解できなかったら、その将来どうなるのか?の新たな不安を抱えたままベッドについた。
眠れないと思ったが、子供の体は正直だった。暖かい布団はすぐに眠りをつれてきた。その時、僕はまだこの先何が待っているのかを知らなかった。




