第16話 転生者、盗賊たちと戦う
幸い雨は降らず、朝は夜明けとともに起きた。クロードさんも起きていて、既に朝食の準備を行っている。僕はその間に、どうやって屋根を作るかを考える。村を囲んだ土壁の要領で壁の上に木を渡しさえすれば、その木に沿って屋根が作れそうな気がする。また、この四角い家には窓がない。これも考えないといけない。こう考えると、やることも多い。クロードさんと相談して、優先順位を決めていこう。
暁の光のメンバーとともに朝食を終えて、僕は暁の光と直接契約をしたいという話をする。これはクロードさんと相談して決めたことだ。今回の護衛に関しては、ギルドに僕のサインした証明書をもっていけば、依頼の報奨金が貰える。しかし、護衛依頼は完了したが、盗賊への対応のために引き続き滞在してもらう間、パーティとして一日一Gの護衛契約を打診した。多いのか、少ないのか、分からない。最初は無報酬をアルドさんから提案されたのだが、それでは、色んなことを頼めないので、契約をしてもらうことになった。
それにより、クロエさんとアルマさんにはクロードさん立ち合いの元、土の魔道具で出したレンガを出して、竈の作成を担当してもらい、アルドさんとリオンさんには家造りを手伝ってもらうことにした。
まず、屋根は昨日、穴を塞いだ要領で四角い壁を覆えるように、土魔法の魔法陣を壁に付けた。そして、魔力を注入すると屋根が出てくるようにした。屋根を維持し続けるには、その土の魔法陣に魔石をはめ込む必要がある。
リオンさんの槍の先で土の壁に窓の位置に線を引いて、その線をなぞるようにアルドさんが剣で穴を開けていく。それを四か所。そして、家の中にいる僕は、土魔法を使い、窓枠を作り、切り取った土の壁を窓代わりにはめ込む。僕の背の高さでも動かせるように、手の届くところに風の魔道具を取り付けた。この風の魔道具の中心核に魔力を注入すると、風が窓代わりの壁の下から吹き出し、軽く滑らせることで、簡易的な窓とした。入口にかけていた布をとり、窓と同じ仕組みで引き戸による入口を作った。取っ手を僕の背の高さに合わせて低く作り、風の魔道具を付けて、その中央部である中心核に魔力を流すと開く様にした。これで、家としての恰好は付いてきた。
クロードさん達のレンガ作りの窯も家の横にできていた。午後から持ってきた小麦でパンを焼くと言っていた。
持ってきた食材で昼食をとり、休憩をしていたら、村長が駆け足でやって来た。盗賊団が来たらしい。のんびりした雰囲気が戦闘モードに変わる。以前の魔物の襲来の時に似た緊張感が漂う。事前に伝えていた通りに持ち場につく。
村長と僕等が並び、村の門の先の盗賊団が見える。村長の話通り、三人が馬に乗り、十二人ぐらいの手下がついて来ている。それを見て、村長が呟く。
「今日はやけに人が多い。もう、公爵家の人間が来たことが伝わったのか?」
盗賊団がゆっくり近づいてくる。やがて、村の門から遠慮も挨拶もなく入り込み、僕たちが待っている広場まで真っすぐ近づいてくる。人の様子が見え始め、馬に乗った髭面の大柄な男がにやにや笑っているのが分かる。この人が首領なのだろうか?
「おい、村長。村の壁を固くしたって、俺たちには関係な...」
”ぴしゅ”
っと音がして、後ろに隠れていたクロエさんの矢が土の魔法陣に置かれていた魔石を弾き飛ばした。その瞬間、盗賊団が消えた。
”どーん”
と、言う音と、うめき声。それから、続く、混乱の音。クロエさんのタイミング早すぎる弓矢で土の魔道具の上にある魔石を取り除いたのだ。それにより、魔法で作られていた大きな穴の上にある土の壁が一瞬でなくなり、盗賊団は穴に落ちた。いわゆる落とし穴の罠である。
「おい、村長。俺たちに楯突くとどうなるか分かってるよな。今まで生かしておいた恩も忘れ、これが仕打ちか?今から、そこに行って殺してやる。覚えていろ」
うめき声に混ざり、怒声が響く。村長が僕の方を見て言う。
「何をしたのだ?」
「落とし穴を作り、そこに盗賊団を落としました」
「それは見てたから分かっている。どうやったのだと聞いておる」
「それは冒険者の暁の光に手伝ってもらって穴を掘り、掘った土で村を守る壁をつくりました」
「それも見てたから分かっている。でも、一日でできる作業じゃない」
「あー、魔法を使いました」
「魔法?」
「そうです。魔法です。僕は魔法が使えるのです」
クロードさんが付け加える。
「坊ちゃんは、魔法の天才です」
「ふん、小狡いことを。でも、村長としてお前らに感謝しなければならん。期待した軍隊でなく、子供のような集団のお前らの力を侮っていた。申し訳ない。助けてもらい感謝する」
村長は頭を下げた。初めて見せた村長の真摯な態度である。
「村を守るために色んなものを犠牲にした。それに比べれば、公爵家に対する不敬罪などどうでもよい気がしたのだ、本当に許して欲しい。いや、許してください」
言葉遣いまで変わった。村長も苦労したのだと思う。
「おい、村長。俺たちここから出せ。出さないと分かっているだろうな。人質にしたお前の村の娘を殺してしまうぞ」
なんか、物騒な話を盗賊は言い出した。
村長は、僕に言う。
「アルス様、彼らを逃げられないようにして、盗賊団のアジトに攫われた人と盗まれた物を取り戻しに行きたいのですが、村人にも協力させますので、一緒に行ってもらえませんか?」
まだ、危険が続くのか?僕はクロードさんとアルドさんたちを見る。彼らも頷く。次の行動が決まった。
「おい、私の弓の技術を見てくれたか?上手くいっただろう」
クロエさんが遅れてやって来た。リオンさんが言う。
「早いよ。ギリギリだったじゃないか。アルドが手を上げたら弓を打つって決めてただろう。アルドが何もしないうちに、たまたま上手くいったから良かったけど、作戦が失敗する可能性もあったからな、アルスさんに言って、お前のご褒美はなくしてもらうからな」
「そんなぁ」
クロエさんが言うと、僕もその会話に入る。
「そうですね。クロエさんには反省してもらわないといけないので、皆さんと同じように水の魔道具は一つにしましょう」
「アルス、約束を破るのはずるいぞ」
「クロエ、最初の約束を破ったのはお前だからな。アルス様に言う権利は無しだ。褒美があるだけ良いと思え」
リオンさんからの言葉でクロエさんが言う。
「頑張ったのに納得がいかない」
彼女の一言に僕たちの周りの空気が緩んだ。
盗賊団が出てこられないように、もう一度、土の魔法陣の上に魔石を置く。また、穴の上が土の蓋により覆われていく。村長からは必要ないと言われたが、そのままだと穴の中で窒息するかもしれないので、リオンさんにお願いして、槍で小さな穴を開けてもらった。その間に、村長は家々に隠れていた村人を呼び出してきた。最初は盗賊団が捕まっているとの知らせを信じなかった村人も、穴の隙間から聞こえる怒号と哀願の声を聞いて、村長の指示に従うことになった。
盗賊団のアジトは村から離れた森の先の小高い山の岩肌にある洞窟だった。見張りの兵が二人、退屈そうに立っている。村人と僕たちはそれを近くの草むらから見ている。一度、攫われ逃げ帰った人の話によると、見張りの二人の他に、中に一人、人質の監視がいるようだ。洞窟の前にいる二人は見張りが気づく前に拘束できれば何とかなるが、中の一人をどうしたら、洞窟で立てこもられる前に洞窟の外に連れ出すのかが課題だと思われた。
僕は一人、洞窟に歩いて近づく。自分で練った作戦とは言え、足が震える。退屈そうにしていた見張りが僕を見つけると声をかける。
「坊主、どうした?」
その声に僕はひどく緊張し立ち止まった。




