第14話 転生者、村長と出会う
あっけにとられている僕等の前で、老人はさらに叫ぶ様に言う。
「こんな貧しい村に毎週来たら、差し出すものなど何もないに決まっているだろう。もう本当に何もないのだ、許してくれ」
次第に勢いが失われ、懇願の言葉に変わった。
「あのー、何を勘違いされているのか分かりかねますが、この方はブルームバーグ公爵家三男アルス様、私が身の回りのお世話をするクロード、この方々がこの道のりの護衛である暁の光の方々です」
クロードさんが言うと、老人は曲がった背筋を伸ばして、丁寧な言葉遣いになった。
「ブルームバーグ公爵家?やっと我々の嘆願がかなったのか。して、供はそれだけですか?兵は何人送ってもらえるのですか?」
「ご老人、何をおっしゃっているか、よくわかりません。この方がブルームバーグ公爵家三男アルス様です。この村で生活するようになったと公爵家から連絡がきていないでしょうか?」
と、クロードさんが言う。
「この村に公爵家の人間が住む?冗談ではない。毎週、盗賊がこの村に来て、何かを奪っていくのだぞ。毎日何を差し出すかを考えている状況なのだ。そんな時に公爵家の息子を預かるなんて、この村では無理に決まっておる。それより、我らが要求した盗賊退治の軍の要請はどうなった。その方は聞いていないのか?」
「ご老人、何のことでしょうか?」
「本当に知らないのか?何と言う事だ。我々はなけなしの金で嘆願状を送る冒険者を雇ったのだ。それなのに、どうして?」
「どこで雇われたのですか?ご老人」
「ご老人ではない、私は、この村の村長マルケスだ。この村に迷い込んだ冒険者がいたのだ。凄く気が良い奴で、ドノバンと言ったかの。公爵家の執事をしている人間に知り合いがいると言っていた。そして、彼に旅費と手紙を託したのだ。もう一か月にもなる」
「一か月前ですか?そして、公爵家の執事の知り合いのドノバンですか?」
クロードさんが僕を見るが、僕は首を振る。そして、クロードさんは言う。
「マルケス村長。貴方はそのドノバンという冒険者にだまされています。公爵家の執事であるセバスは私の父です。父の知人にドノバンという冒険者はおりません。アルス様も聞いたことが無いようです。
この村の状況から考えると、もしかしたら、その盗賊団が村を調査するために、送り込んだ密偵だったかもしれませんよ。それ以降に盗賊団が毎週来ているのも何かの情報を得たからだと思います。そのドノバンという冒険者に何か、村の秘密、例えば、財産みたいなものを話しませんでしたか?」
「そう言えば、公爵家から頂戴した花瓶や、この村を作った時に下賜された剣の話をした覚えがある」
「そのうちのどれかがまだ残っていますか?」
「下賜された剣は残っておる。これは私だけでなく村の宝物なのだ。誰にもわたせぬ」
クロードさんは僕を見る。僕は頷く。そして、クロードさんは続ける。
「その剣がある限りは、来週も来るでしょう。渡さなければ、その次の週も来るでしょう。盗賊団は毎回、別の村の宝を持ち帰っている。まだ、何かがあると思っている。この村は搾取され続ける」
「では、下賜された剣を渡せば来なくなるのだな」
「いや、今ではそう簡単ではないかもしれません。剣を渡してもまだ何か隠していると疑うでしょう。それ以上に、脅せば、何かを差し出すことが分かってしまった以上、この村はこれからも脅かされ続ける未来が待っています」
クロードさんが村長に言うと、村長の顔はみるみる曇った。
「この村はどうすれば良いのだ」
クロードさんが僕を見る。僕は答える。
「村を放棄するか、盗賊と戦うしかありません」
僕たち一行は村長の家に案内され、とりあえず、村長の家に宿泊することにした。クロードさんが僕に言う。
「坊ちゃま、どうされるつもりですか?」
「うん、僕はこの村以外行くところがない。それで、盗賊と戦うしかないと思っている」
「無謀ですよ。ここは王都に戻るべきです。事情を話せば、旦那様も王都での生活を許してもらえるのではないですか?」
「うん、父上は許すかもしれないが、兄たちが許さない。魔道具の秘密がばれれば兄たちは困った立場になる。王に嘘をついたとなれば、死罪もありうるからね」
「そうですか?そうですね。盗賊と戦うしかないのですね」
クロードさんは困った顔をした。そこに、アルドさんが声をかける。
「アルス様、窮地とお見受けしました。一度助けられたこの命、暁の光も微力ながらお力をお貸しします」
「あー、アルドさん、お気持ちはありがたいのですが、暁の光との契約は僕をこの村に届けることです。契約としては完了しておりますので、王都に戻ってもらってもかまいません。旅の途中のことはこの契約の中で起きたこと。契約が完了した今となっては何の意味ももちません」
僕がアルドさんに言うと、クロエさんがアルドさんへ言う。
「アルド、小僧がそう言うんだから、水の魔道具をもらって、王都へ帰ろうぜ」
その時、アルマさんが言う。
「私はここに残って、アルス様を助けたい。冒険者として受けた恩は返すのが礼儀。兄からもそれを大事にしろと言われてきた。私はここに残る」
リオンさんも言う。
「アルマが残るのなら、俺も残る」
「俺も残るが、クロエは一人で王都へ帰るんだな」
アルドさんが言うと、クロエさんが答える。
「一人で帰れる訳ないじゃないか。私も残るよ。残れば良いんだな。おい、小僧、私には水の魔道具は一つでなく、二つくれよな。残ってやるんだから、良いだろう?」
「分かりました。アルドさん、皆さん。御恩は一生忘れません。では、一緒に盗賊と戦い、この村を守りましょう」
「おい、小僧。水の魔道具を二つくれるという約束、覚えておいてくれよ」
クロエさんが叫んでいる。
僕等は村長と話し、盗賊団と戦うことを告げた。村長は若い僕たちが非力に見えたのだろう。僕たちでは盗賊団に勝てないと言い切った。僕は逃げるのはいつでもできるのだから、一度は戦うべきだと主張した。そして、まず、敵の情報を教えてもらうと、盗賊団は15人、馬に乗った三人の中の大柄で強暴そうに見える者が首領で、その三人が槍を持ち、残りが剣をもっているとのことだ。魔法を使える者は見たことないらしい。村長の話しぶりから、昔は皆冒険者だったらしい。村長が言う。
「向こうは強面の盗賊が15人もいるのだ。足手まといの子供がいるお前らでは勝てそうにないだろう」
村長は、その足手まといの子供こそこの中で一番強いことを知らない。そして、多分、盗賊団も僕には何も注意をひかないだろう。そこに、彼らを倒す隙がある。僕は、村長に言う。
「村長、僕たちがこの村に入ったのも監視しているはずです。明日にも、盗賊団が来るかもしれません。今のうちに村の木の柵を強化しても良いでしょうか?」
「あー、好きにしてくれ。交渉はするが、それ以上のことは村の住民は知らない。あくまでもこの村の住民には関係なく、王都から来たお前たちがやったことなのだ。それを守ってくれるなら何やってもいいぞ」
村長はそう捨て台詞を残して、話し合いの場から出て行った。




