第10話 転生者、公爵家を追放されてしまう
僕は辺境の村であるベルンハルトへ移り住むことを余儀なくされた。国家事業としての役人が頻繁に公爵家を訪れる前に、僕は数日の猶予の中、博士の研究室から魔道具開発の材料を闇の魔法陣で作った異次元収納に入れ、また、セバスについて来てもらって、村での生活に必要な食料や薬を購入した。セバスには異次元収納の魔法陣を作ったことを教えているので、できるだけ多くの生活必需品を購入してもらった。
辺境の村への旅立ちの朝は家族の見送りもなく、セバスの息子で20歳になるクロードさんと一緒に馬車での旅となった。クロードさんはこの後も僕の専任の執事となるとのことだ。ただの子供の世話のために辺境までついてきてくれることは非常にありがたいし、この世界を知らない僕には心強かった。
護衛で雇われたのは暁の光という戦士二人と魔法士一人、弓使い一人の計四人の冒険者パーティである。辺境の村へ馬車で1週間ほどかかり、街や村が無い箇所もあり、野宿が必要であり、盗賊や魔物の襲撃も考えられ、身の安全を考えると護衛は必要だったのだ。
この護衛もセバスの配慮であり、家族は僕の存在を切り捨てようとしているように思えてならなかった。セバスの心配りが身に染みる。
僕が生まれた国はマギビスタ王国と言い、王都はマギビスタと言う。マギビスタ王国は東側、西側、北側を山脈で区切られ、南は海に面している。その天然の防壁に守られ、建国300年を誇る。その山脈から流れ出た大きなレーヌ川により、東の田園地帯と西の丘陵地帯に分けられ、年間の降雨は少ないが、全体に温暖で過ごしやすく、前世で知っていた日本と同じように四季がある。王都の家にいるときは分らなかったが、アルスが向かうベルンハルトは王都の西側の丘陵地帯のはずれにあるそうだ。馬車でじっとしていると意外にもはだ寒い。季節は夏から秋に向かい、太陽も東から登って西に沈むが、夕陽が山の端を照らし、家族から見放された気がして、涙が出てくる。
セバスの息子クロードさんから今回の追放は、長兄ジョージと次兄リチャードの画策によるものだと聞いた。僕の成功が気に入らないリチャードがジョージにこのままでは公爵家の後継が僕になると根拠のない自分の考えで、ジョージを唆したとのことだ。それを真に受けたジョージは務めている近衛師団の上司である師団長に水魔道具を贈答し、自分と弟の成果として説明した。それに喜んだ師団長は周りの人に告げ、侍従長に繋がり、王の元へ話が伝わり、父である公爵が呼ばれたと言う訳だ。
利益の召し上げかと覚悟して呼び出された父に、王が告げたのは国家事業化の提案だった。さらに私腹を肥やせると判断した父は、王が信じている噂の天才兄弟であるジョージとリチャードを称えた。
この流れの中に幼い僕が入る可能性はなく、その流れから押し出された格好になる。悔やんでも仕方ないが、期待されない分、自由が手に入ったと思えば悪くない。
1日目は王都の近くに町に宿泊し、村で生活に必要なものを考えてクロードと一緒に手早く必要なものを揃えた。
まず、村で病気になった時に必要な薬草とヒールポーションを購入した。
次に、一時的に必要な食糧として大量の小麦とパンと肉類と塩と胡椒を購入した。さらに、今後の自給自足に必要なものとして、大量の穀物の種子と果樹の種を購入した。
それから、食事の煮炊きに必要な鍋とフライパンと包丁とレードルを買い、さらに銀製の食器とカトラリー、木製の食器とカトラリーを10人分程度購入した。
最後に大量の布を購入した。その全てを闇の魔道具に保管する。購入資金は王都の公爵家への掛け払いにした。これくらいは許してもらえるはずだ。
移動の時間と街の宿で暇な時間を使って、火の魔道具の改善を行なう。
試作した時の火の魔道具の欠点は火の出方だった。火の出し方を外周円の横から出てたのを上に出るように方向性を持たせ、本物の鍋を実際に見ながら、それを乗せ、安定性を保たなければ、火力が偏る事が分かった。日本にあった五徳を思い出し、それに類するモノを考えていたら、馬蹄を思いつき、大きめのそれを複数購入し、魔道具の上に並べて鍋を乗せ、魔道具で水を出して、煮炊きのテストをすると、比較的上手く熱が伝わる。もし、今度行く村に、鍛冶屋がいれば五徳のような物の製作を頼んでみよう。
この世界での煮炊きは、暖炉方式により釣り鍋か、直接火に鍋をかける方法だという。煮ることと焼くことが前提なので、色んな具材をいれたスープに固いパンを浸して食べ、メインの肉、魚を切って、直接食べたり、パンに乗せて食べたりしてきたが、日本人の記憶を持つ僕には味気ないものだった。
今度の村では食生活を改善するには火力を制御できる魔道具が欠かせない。だから、この開発には自然と力が入った。その前に五徳が作れないと鍋やフライパンに一定の火力が当てられない。
ただ、現在の火の魔道具では、一度、火をつける消すことができない。魔力大中小出力回路の横に魔力切断回路を作って、火力を止める仕組みを作った。
宿を出発するときに、宿の食堂で無理を言って、熱々のシチュー鍋を購入した。これを闇の魔道具に保管する。この魔道具での保存性能を確認したいためだ。
そして、僕とクロードは護衛の冒険者と一緒に王都の近くに街を馬車で出て、本格的なベルンハルトへの旅になる。次の村までは野宿が必要だということだ。
御者台にいるクロードの横に僕は乗り、異世界の旅を経験する。馬車の先を一人の戦士が先行し、横に残りの戦士と魔法士がいて、後方を弓使いが守るという布陣となった。護衛の戦士二人は男性で、リオンとアルドと言い、魔法士は、アルマ、弓使いは、クロエという名前だとクロードさんから教えてもらった。
街を出発してから、のんびりした旅が続いた。
「もうすぐ、見晴らしの良い丘に出る。そこで、昼食と休憩をしたい」
隣を歩いているアルドさんから声がかかる。彼が、チームのリーダーのようだ。クロードさんは僕の方を見るが、僕には任せる以外の言葉が見つからない。それで、頷く。
「分かりました。お願いします」
クロードさんが答え、丘の上にたどり着くと昼食になった。
クロードさんは机と椅子まで用意していた。
馬車を止めると、馬車からそれらを取り出し、僕を座らせ、目の前に干肉と乾パンとリンゴが乗った皿と水の魔道具で作った水を置く。
「アルスぼっちゃま、お食事です」
「うーん」
と、僕は唸る。
「いかがされましたか?旅行中は干し肉とパンしか食べるものはございません。少しでも食べないと、体がもちませんよ」
「分かっている。ちょっと食事の前に試したいことがあるんだ。いいかなぁ」
僕は闇の魔道具を出して、魔力を注入する。収納した物の表示があり、シチュー鍋を触ると、黒い穴から今日購入したシチュー鍋が出てきた。それをクロードさんに取り出してもらおうとしたが、取っ手が熱くて取り出せなかった。布を巻いた手で取っ手を掴み取り出して、机に置くと、木の机が焦げる匂いがした。思った通り、闇の魔道具による異次元収納では時間が止まるようだ。そのため、熱いものは熱いままで、冷たいものは冷たいままで保管されている。
シチューを深皿によそってもらい、食べると、温かく美味しい。他に人の目もないので、クロードさんも僕とともに食事してもらった。彼が言う。
「旅なのに暖かい食べものが食べられるとは思いもしませんでした。坊ちゃまは何故、こんな不思議なことができるのですか?」
「えっ、不思議ですか?全然不思議ではありません。僕はこの世の中を便利にしたいのです。そして、美味しいものを食べたいのです。それがやりたいだけなので、不思議なことではありません」
「そうですか?でも、まだ、7歳の可愛い顔しているのに、言い様が大人のようですね。公爵家の人が恐れる理由が分かります」
「恐れる?」
「いえ、失礼しました。失言です。申し訳ありませんでした」
「そうなのか?それで家族は僕を見捨てたのか?言われれば、分かる気もするな」
「いえ、そんなことはありませんので...」
「クロードさん、気を使って頂いてありがとうございます。確かに幼い子供がいきなり皆が驚く魔道具を作ったり、大人顔負けの魔法を使える子供がいたら、驚きよりは恐怖が先にくるか?そうか、それが原因か」
僕は今回の追放が腑に落ちる。まぁ、公爵家というしがらみから逃れて、自由を勝ち取ったと考えればそれも悪くない。僕はそう考えて、言う。
「クロードさん、僕は自由に生きていけるように努力します。これからも色々、生きる術を教えてください」
僕は頭を下げる。
「いえ、坊ちゃま。一生、坊ちゃまのお世話をするように育てられている、私の方こそよろしくお願いいたします」
クロードが言い終わらないうちに、
「ちょっと、話しかけていいか?そのいい匂いしているシチューはいくらだ?」
と、アルドさんが声をかけて来た。




