87 アフタースペース297コーダ やはり、主人公は規格外だった。
切り札登場なお話し。
小惑星に群がる宇宙クジラたちが淡く輝きぐるぐると動く様は、旧時代の熱帯魚を思わせた、カラーリングがオレンジやグリーンや青だったりと華やかで、そこが宇宙であることを忘れそうなほど美しく、幻想的だ。
「遠目に見る分にはきれだよねー。」
「同意、反対。遠目に見ている分にはいいが、あの破壊力は脅威、即時撤退を提案。」
コクピット内でメトルとそんな会話をしながら、他のメンバーが配置につくのをのんびりと待つ。その間にも宇宙クジラたちは大きな口を開いてぼりぼりと小惑星をかみ砕いている。その速度は下手な工業用掘削機の比ではなく、大型船クラスの小惑星がどんどん小さくなっていく。
『リンガット様、本当にアレにちょっかいをかけるのですか?』
「うん、まあ、正直悩ましいけど、まあ、最悪逃げるだけならなんとかなるでしょ。」
『了解しました、微力を尽くします。』
「うんうん、ここはまだマシだから、大丈夫でしょ。」
間近で待機させている、ラーベ2とラーベ3から入る通信に余裕そうに答える。確かに目の前の光景は非現実的で恐ろしいものがあるが、今回の作戦は、危険だが不可能ではない。それに、準備はしすぎるほどにしてある。
単独運用を前提としているヴォーチェスピントに2機も僚機を随伴させているのもその一つだ。両肩にロケットのような大型シールドを装備したこの2機のミキサーは護衛と運搬に特化させたうちの特製機。ロケットのように見えるシールドは見た目だけでなく、内部に使い捨てのブースターが搭載されてお
り、宙賊などの奇襲を受けた際は、このシールドで護衛対象を守りつつ、安全圏まで運び出すことが可能である。もっとも、ラーペチームは敵陣への突撃や逃げる敵の追撃にばかり使っているので、本来のコンセプトで運用されるのはかなり久しぶりだったりもする。
まあ、これも貴重な経験と思っていこう。
『こちら、ハウンド1観測ポイントに到着しました。』
とか言っている間、最後の配置が完了したので、俺は今回のキーマンに確認をとる。
「了解だ。カナデ、そっちの準備は?」
『こちら、シャープ1。いつでもいけるぜ。』
「新型だから壊さないでなんてケチなことは言わないから、派手にやっちゃいなよ。」
『わかってる、カウントもいるから問題ない。』
『YES、最高の機体とお膳立てだ。いま、この瞬間、俺達は誰よりも輝いてみせるぜ。』
通信の相手は別のポイントで待機させているカナデだ。最近はずいぶんと落ち着いてきたのだが、今日はやけにテンションが高く、口調も素に戻っている。通信越しでも分かるはしゃぎっぷりは、まるで原作主人公のようだ。
うん、命懸けの場面で緊張していないのでよし。俺に対する態度も今回は見逃しておく。
「じゃあ、作戦開始。」
『了解。』
どうせやるなら派手に行こう。アニモやその背後にいるゼーレがビビるレベルでな。
と、言いつつ、俺がすることはあまりないので、コクピットにはカナデの乗る新型機をモニターしているハウンド1の視界を表示させる。
「OK、カナデ、エンジンスタートだ。」
「おう、細かい制御は任せるぞ。」
その言葉とともにカナデが足元のペダルを踏み込むと、同調するように軽快なヒップホップが流れ出す。操縦に集中するために特別に許可された仕様はまるでジェットコースターのスタートの前のようだ。そして、彼の乗る白銀の新型機「フォルテ」はだらんと垂らしていた腕と顔をゆっくりとあげる。さながら操り人形の糸が引っ張られるような挙動とともに、ボディの各部に黄色のラインが浮かびあがっていく。
「エンジンのフィッテイングはうまく行っているようだ、流石博士。」
「驚愕、あの短時間で新型エンジンを最適化させている。」
黄色のラインは、フォルテに搭載された新型エンジンから供給されるエネルギーがきちんと伝達されている証拠だ。
「カナデ・シャルフ。フォルテ、いきます。」
宣言とともに押し込まれる手元のレバー。次の瞬間、フォルテの姿がモニターから消える。
『おいおい、なんだよあの加速、カナデ生きてるかー。』
消えたと思えたのは、加速が速すぎてハウンド1がその姿を見失ったからだ。センサーはその存在を捉えているし、カメラもすぐにフォルテを画角に捉える。
そこには、一筋の光となって加速するフォルテの姿があった。
『ははは、すげえ、ナニコレ、超楽しい。』
『YES,まだまだ序の口だぜー。』
通信を聞く限り元気そうだ。ちなみにその姿が線のように見えるのは、その動きが速過ぎるから。ハウンド1の装備しているカメラは、最高レベルの性能だ。それをもってしても、カナデが駆るフォルテを捉えることはできない。
「やべえな。」
『あれ、人が乗っていい物なんですか?』
「どうだろう?一応テストでは大丈夫だったけど。」
あらためてやばいな主人公機。
今回の作戦のために俺が用意した切り札。それは原作の主人公機にして、次世代機でもあるフォルテシリーズだった。それも、カナデ専用にチューンされた専用機、スペック的には原作後半でのカスタム仕様と同等かそれ以上だ。どうせならと、今回の作戦のために、現時点で用意できる最高レベルの機体を預けている。
俺が成功を確信しているのは、このフォルテのスペックによるところが大きい。
「やべえなあ、博士、口頭で説明された情報だけで、並列起動システムまで実現させたのか。」
『訂正。エンジンの並列化は以前から導入されていた。驚愕すべきはあの速度でブラックアウトしないカナデの耐久力。あれは、やつにしか使いこなせない。』
「だろうね。」
初期型のフォルテはすでに開発されていたし、今回の遠征に持ち出してもいた。新型エンジンを手に入れ次第、博士に頼んで搭載させる予定ではあった。
しかし、俺を信じて準備をしていた博士は、あっさりとエンジンの性能を理解し、半ば確立していていたとはいえ、机上の空論であったエンジンの並列化を新型エンジンであっさりと実現しやがった。
作戦協力の見返りとして提供された、新型エンジンを2つ搭載させた原作終盤のカスタム仕様。二つの新型エンジンを並列仕様させることで、カナデ専用フォルテは、従来のミキサーの倍以上の稼働時間と機動性を実現したスーパーロボットだ。
文字通りのバランスブレイカー。これの存在によって、ミキサーを含めたあらゆる舟や機動兵器は時代遅れの存在となるだろう。正直言えば、このタイミングで導入するのはどうかと悩んだりもした。
しかし、アンポル博士の作戦を精査していくうちに、その悩みはなくなっていた。
従来のミキサーや、アーテムなら宇宙クジラと遭遇してもなんとかなる。だが、捕獲となれば、成功率は著しく低くなる。
問題は、実際にクジラを追い込む猟犬役だ。なにせ、宇宙クジラは危険な上に、逃げ足が速い。それを追い回し、ときには逃げ出す必要がある危険な役目だ。なにより、クジラを追い込むには、気づかれないように、ある程度の距離から一気に距離を詰めて、クジラたちを驚かせなければならない。いくつかシミュレーションも行ったが、手持ちの手札では、このフォルテとカナデの操縦テクが一番確実だったのだ。
「やる?」
「任せてくれ。」
本人も大変乗り気だった。命懸けなことや新型機故に思わぬトラブルが起こる。そういったことをアルさんたち大人とともになんども 説明をした。その上で自信満々だった彼は猟犬役を引き受けた。
「だって、俺が一番適任なんだろう。リンガット様がそう判断したなら、俺はやるぜ。」
「OK、わかった。降参だよ。」
その判断が、若さ故の万能感や万能感ではなく、俺や仲間への信頼からのものだと分かった時、俺は最新機であるフォルテの解禁を決意した。
けして、最高速度のフォルテの雄姿をみたかったわけじゃないからな。あえて言うなら、たった一週間で、新型エンジンをフォルテに積み込んだ博士が悪い。
「カウントダウン開始。一発勝負だけど、びびってないよね?」
『もちろんでさー。』
と、何時までも感動はしてられない。俺はカナデの駆るフォルテが予定通りの動きを始めたのを確認して、捕獲作戦を実行した。
リンガット「博士も、カナデもやべえなあ。」
一同 「いや、あんたが言うな。」
なんだかんだ同行していたけど、久しぶりに登場したカナデ君の活躍は次回にご期待ください。




