86 アフタースペース297コーダ 宇宙で漁業をするのはきっと、俺たちが初めてだろう。
未知の生物を求めてな話。
ホープ自慢の500メートル級の戦艦が2隻に、ビックオーシャンの100メートル級の高速船が1隻。そこに我らがアーテムを加えた4隻の戦艦は、悠々と並走を開始した。まるで糸でつながれたかのような見事な連携であるが、実際に有線だったりするから面白い。
『こちらホープ所属「フロストフォーク。」および「フレイムスピア」、同期運転を開始する。よろしく頼むぞ、宙賊狩り。』
『ビックオーシャン所属「トライデント」、同期完了。以前の借りはここで返させてもらう。』
「ビックツリー所属「アーテム」、前代未聞の大仕事を共にできることを誇りに思う。楽しくやろうぜ、兄弟。」
4隻の船を繋ぐのは巨大な電磁ネットだ。一辺が1キロの鋼の網は正方形に広げられ、それぞれの頂点に各船が配置されている。広大な宇宙空間であっても、その陣形は、なかなかの存在感だ。
秘密の暴露から1週間、今日は4つのコロニーが合同で行う宇宙クジラ捕獲作戦の決行日だ。
トップである俺たちの急な無茶ぶりに対して、ホープ、ビックオーシャン、ビックツリーの船員たちは、最初は反対した。だが、頑として譲らない上の意志と綿密な計画を見たことでしぶしぶ了承してくた。幸いなことに、うちを含めて精鋭揃揃いだった。了承したあとの行動は早く、1週間という僅かな期間で動きを慣熟させ、こちらの期待に応えてくれた。
おかげで作戦の第一段階である網の準備は大成功だ。
「それでは、猟犬を放す。各艦は索敵をしつつ、待機を。」
『『了解』』
それぞれの艦からの連絡に対してニヒル返していたアルさんであったが、通信を切った途端にまゆをひそめて、問いてきた。
「坊ちゃん、本気でやるんですか?「愚か者のクジラ追い」を。」
「仕方ないじゃん、知ってしまった以上先んじるしかない。そういう状況なんだもん。」
「だもんって、あんた。アリの時とは規模が違いますよ。」
「分かってるって。」
話を持ち掛けられてから、何度なく繰り返されたやりとりをそれでもしつこく繰り返す。おそらくだが、他の船でも行われているだろう。
今からやろうとしていることは、それぐらい無謀な作戦なのだ。
宇宙クジラの生態調査は過去に何度も行われている。その見た目の神秘さに焦がれたり、その希少性に一攫千金の夢見たりして宇宙クジラの捕獲に挑戦した人間や組織は多い。そして、そのことごとくが尻尾すら見ることなく挫折している。遠くに見える宇宙クジラを追いかけて旅立ち、そのまま帰ってこない船も少なくない。
「愚か者のクジラ追い」、いつしか船乗りたちの間では、夢見がちな挑戦をそう例えるようになった。
自分たちのトップがそれをやろうとするんだから、不安にはなるだろう。いや、そんな不安を抱えつつもきちんとそれぞれの役割を全うしているのだから、みんな優秀だ。
「準備はばっちりなんでしょ、それとも怖いの?」
「その挑発、そっくりそのままお返ししますよ、坊ちゃん。今回、事故るとしたら、アンタが一番危ういからな。」
「ははは、まじでそれな。代わってくれてもいいんだよ。」
「いやですよ、あんな役割は二度とごめんです。」
俺とアルさんのやり取りに反応して、ブリッジないで笑い声が上がった。アルさんを筆頭に、うちの連中はまだましな方だ。過去に似たような経験があるからだ。
「宇宙クジラは、特定の周波数の電波に対して、過剰に反応することが分かっている。これを使えばある程度はその動きをコントロールできる。これまでは不意の衝突事故を避けるために使われていた。」
「なるほど、それを使って追い込もうというわけですか。」
「君のところの素晴らしいロボットなら可能だろう、リンガット。」
アンポル博士の提示した計画は、かつて俺が行ったスペースアント捕獲作戦を基にしたものだった。
網を用意して、獲物を引き寄せる。いや、特殊な電波を発信する装置を持ったミキサーを使ってクジラを網へと追い込もうというわけだ。
実に、シンプルかつ、荒唐無稽な作戦だ。
更に質の悪いことに、この作戦は、二足歩行ロボットの汎用性の高さを過分に高く評価して立てられたものだった。
まず、宇宙クジラが遊泳していいるポイントまでの航路やその後に予想される軌道は複雑かつ狭く、通常の船舶ではたどり着くことすら困難なものだ。また、追い込む際は、宇宙クジラが逃げないように立ちまわる臨機応変な機動力と、万が一クジラが暴れたときの自衛力も求められる。
これほど繊細なオペレーションができるのは、アーテムのチームしかいないだろう。なので、最も危険なこの役割はビックツリーが引き受けるしかなかった。
「偶然にもそう遠くない小惑星群で宇宙クジラの群れが遊泳している。しかも、ここには宇宙一のロボット乗り達がいる。これはもはや、運命だな、リンガット。」
「そうですねー。」
作戦を説明し終えたとき、アンポル博士は運命と言っていた。
だが、実際はどうだろうか?
彼女がエンジン開発に行き詰っていたのは事実だろう。エンジンが安定化したときの喜びや、ヴァーチェン博士の不誠実な行為に対しての怒りに嘘はなかった。
だが、掲示された作戦計画は、うちのミキサーの性能とチームの実力ありきの高難度ミッション。その綿密さから、エンジン開発と同時に、宇宙クジラの捕獲を予め計画していたのは明らかだ。
一応言っておくが、宇宙クジラの捕獲のための協力要請だったら、連絡段階で鼻で笑って断っていただろう。ロマンはあれど、荒唐無稽な夢物語に付き合う気は流石にない。エンジンの量産に必要とわかったからこそ、協力を快諾したにすぎない。
つまりはエンジン開発の協力は、俺やアーテムを釣りだすための餌でもあり、俺はまんまと釣られたわけである。
それでも、彼女を責めようとは思わない。むしろ、己の目的のためにここまで、綿密な計画を立てながら、それを運命とのたまう博士の面の皮の厚さと健気さには好感を持てた。
やはり、彼女は同類らしい。
それならば、俺としても協力するのはやぶさかではない。何より、新型エンジンはいくらあってもいいものだしね。
リンガット「べ、べつに博士のためなんかじゃないんだからね。」
アンポル 「ツンデレ、ツンデレなのか、似合わないぞ、リンガット。」
グダグダと長くなりましたが、実は全部わかってますという、リンガットの強がりな話となってしまいました。次回こそ、漁業アクション回になる予定です。




