84 アフタースペース297コーダ 何も知らないうちに追い込んでました。
友人との楽しいおしゃべりタイム。
アニモやテティスがアビスになぜいるんだろうか?
その疑問を解決する前に、なぜ俺たちがこの場に登場したかを少しだけで話しておこう。
時は少しだけさかのぼる。
エンジン完成に興奮していた俺たちは、更に一日ほど時間をかけて、3台のエンジンの安定化に成功した。まだ不安定な要素はあるが、エンジンの量産化に必要な要素と変数はほぼ確実につかめたと思う。
「ははは、すごい、すごいぞ。リンガット。」
「そうですねー。」
博士は終始テンションマックスだったが、またしても徹夜に近い活動となってしまったので、お付きの人達に引きずられて小休憩を挟んでもらった。そして、新ためて、実験の結果について、俺たちは話しあっていた。
「恐らくはエンジンの密閉が甘かったんでしょうね。それでエネルギーが拡散してしまって安定しなかった。」
「密閉させなくても安定はするが、カバーをして密閉させることで変数の幅が飛躍的に広がったわけか、なるほどな。」
思えばとても簡単なことだった。エンジンが安定しないのは密閉が甘かったから、いや、より密閉させる必要があっただけだ。例えるならば穴の開いたホースに水を流すようなもの、あるいは電球のフィラメントの強度の問題なんだろう。
新型エンジンの実用化、そこに必要なのは変数ではなく素材のアップデートだった。言葉にすれば簡単なことであるが、簡単だからこそ気づけなかった要素だった。
それこそ、竹を使って電球を完成させたエジソン並みの発想力が必要だったというわけだ。
「思い込みというのは恐ろしいものだな。君を招待したのは大成功だったよ、リンガット。」
「コストは跳ね上がりますよ。」
「構わない、そっちは経理の仕事だ。リンガット。」
ゴキゲンな様子で完成したエンジンを観察するアンポル博士だが、俺は少し複雑だった。
新型エンジンの完成は嬉しい。しかしうちの特許技術の注目度が上がるのは厄介ではある。
今まではちょっと性能のいい金属でしかなく、二足歩行ロボットの性能を若干高める程度のもので、代用可能な合金でしかなかった。だが、このエンジンに不可欠となれば、注目度は上がってしまう。購入制限はもちろんことだが、技術漏洩については更に気を使う必要がでてくる。
だというのに、アンポル博士の前で堂々と組成式をさらしてしまった。
それでいて、俺は新元素についての情報を持っていない。状況は彼女が有利過ぎる。原作への知識と期待から思わずひけらかしてしまったが、迂闊だったかもしれない。
「報告、リンガット。面白い連中が集まってるぞ。」
「はい?」
そんな中、不意にメトルがもたらした情報をもたらした。
「なんだ、ミニロボに通信機も仕込んでいるのか、いやAIが優れているのかい、メトル。」
「否定、肯定。私の思考プロトコルは現存のどのプログラムよりも優れている。」
「いや、いいから、面白い連中ってどういうこと。」
「解。アビス職員向けの一斉通知にて、ホープとビックオーシャン向けの一大プレゼンが行われると通知があった。」
「はっ?」
「不可解、愉快。アンポル博士には意図的に通知が遅れている。ただ全体通知を見れば内容の確認は可能。」
「く、ちょっと待て・・・、マジじゃないか、あのくそヴァーチェン。」
メトルの指摘に従い、アンポル博士は慌てて連絡グループを確認した。あとで聞いたが、研究に集中したいときは、通知をオフにしているらしく、先方の小細工もズルとは言えないレベルだったそうだ。
内容を確認した博士からは、笑顔がすとんと落ちた。一分にも満たないわずかな時間であったが、そこに込められた暴風のごとき怒りはなんとなく感じられた。人間、ほんとに怒ると表情が抜け落ちんだよね。そして、
「急ぐぞ、リンガット。」
再び笑顔を張り付けた彼女の瞳は、少しも笑っていなかった。
で、現在に至る。つまり何が言いたいかと言うと。
「ねえ、これ、どういう状況?」
「いや、それは私がお聞きしたいのですけど、あちらのかたはどなたですの。」
久しぶりに再会した友人たちとお互いに相手を射殺ろさんばかりににらみ合う2人の博士。このカオスな状況について、俺は何も知らないのだ。
いや、うん、落ち着こう。知らないなら、知らないままでもいいじゃないか。変に気取るのも俺らしくない。
「状況は一旦置いておいて、アニモ、久しぶりだね、また君と会えてうれしいよ。」
「あ、ああ。そっちも相変わらず元気そうだな、リンガット。」
「元気、元気、おかげさまでうちの経営も安定しているよ。ホープがレーン内の警備を強化してくれてるから宙賊の数も減っている。ホープには感謝しかないよ。」
「そ、そうか。」
まずは、挨拶、挨拶が大事だ。俺は久しぶりにあったアニモと友人として挨拶をし、次は、テティスに視線を向ける。
「テティス様もご無沙汰しております。」
「え、ええ。」
「スーザンとジルオールがお世話になっているそうで、ノンランは元気ですか。」
「そ、そうね、2人も会いたがっていたわ。」
「ドーリス夫人も相変わらずで?」
「ええ、母も元気よ。」
「それは何より。」
こっちにも社交的な挨拶を済ませる。こういう場面で、挨拶を忘れるとあとあと問題にされかねないので、挨拶は大事だ。
「で、アニモ。ここで何が行われているか聞いても大丈夫?」
「ああ、だが。」
「分かってるよ。ただ、うちの博士の剣幕を見る限り、誤解があるっぽいからさあ。」
「そうなのか。というか、あの人は誰だ。」
「うん、気になるよね。彼女、美人だし。」
「いや、そういうんじゃなくてな。ああ、もう。真面目なのはいいが、もう少しこの状況に危機感をもってくれないかな。」
「うん、ごめん。僕もちょっと落ち着きたくてね。」
うんうん、アニモも随分と丸くなった。直接会うのは数年ぶりだけどチャットやビデオ通話は何度もしているからか、すっかりお友達だ。原作のクールな仕事人間よりも血が通っていて非常に好感が持てる。そんな今の彼を信じ、まずは俺から情報開示する。
「彼女は、アンポル・ヴァリエ博士。アビスの研究員で、新型エンジン開発の責任者だ。それで俺は彼女からの要請で開発に協力していた。」
「うん?、エンジンの開発者はヴァーチェン博士なのでは?」
「ああ、新元素の発見とエンジンの雛形を作ったのはヴァーチェン博士らしいね。」
アニモの返答はまっとうなものだった。彼クラスの人間がここにいるのが新型エンジン関連なのは予想がついた。そして、それに俺が関わっていることなんて、あの爽やか筋肉なら把握しているだろうことも。何よりテティスもいる。彼女ならスーザン達やドーリス夫人から俺がアビスに来ていることを聞いているはずだ。つまり3人の間なら、ある程度情報を開示しても大丈夫。俺はそう判断した。
「で、そっちは?」
「俺たちは、新型エンジンの起動実験を見学させてもらっていたんだ。すごいエンジンだなこれは。」
「うんうん、そう思うよね。すごいよねー。」
なるほど、今まさに売り込みが行われていたのか、これはよくないかもしれない。
「あれだけのポテンシャルを秘めたエンジンだ。次期領主であるリンガットが、その立場を棚上げして開発協力を決めたのも納得だ。うん、何で気づかなかったのか、兄や君ならこのエンジンの価値に真っ先に気づいていたと思う。」
「ははは、ありがとう。」
賞賛が心苦しいのは、原作知識でズルをしているからだろう。本来なら数年はかかると思われる開発を一気に完成させた。普段なら気にしないが、今回は技術革命のレベルが違いすぎる。蒸気機関による産業革命クラスの大発見だとさすがにびびる。
「ちょ、ちょっとリンガット卿、私と対応が違いすぎませんこと?」
「うん、いや、アニモは友人ですから?」
「えっ、私は?」
「知り合い?」
と、アニモとの会話に夢中になっていたら、テティスが割り込んできた。いやあなたとはそんなに親しくないし。確かにスーザン一家の関係で色々と便宜を図ってもらっているが、アニモのように親しくしているわけではない。どうしても社交的な付き合いになってしまう。けして、塩対応がデフォになっているとかじゃないよ。リンガット・ビックツリーは敵以外には何時だって紳士なのだ。
「ぐぬぬ、それはそうですけど。」
「まあまあ、お二人とも、私たちは年も近いし、共通の話題も多そうだ。これを機会に交流を深めるのはどうだろうか。」
「アニモ卿、素晴らしい提案ですわ。」
「うん、アニモがそういうなら。それならばテティス様、僕を呼ぶときに卿をつけなくてもいいですよ。」
「えっ、それはそれで手のひら返しが早すぎません。それなら私の事をもテティスと。」
「いや、年上の女性相手にそれはちょっと。」
「なんで、そうなるの。」
「それはそうかもしれない。テティス様、私も年下だし、アニモで構わない。」
「う、うーん。それなら、今後はそうさせていただきますわ。アニモ、リンガット。」
あれ、この子ってこんな面白い子だったけ?うん、落ち着こう、久しぶりにアニモと会えたから俺も浮かれているらしい。俺はアニモに目配せし、わざとらしく咳払いをして居住まいを正した。
「こほん。それで改めて確認なんですが、お二人は新型エンジンの実験を見学されていたと。」
「ああ、とても素晴らしい性能だった。」
「ぜひとも、ビックオーシャンでも取り入れていきたいものですわ。」
まあ、そうなるな。あのチート級の性能、データーだけで見たならまず信じられない。そして実際に目にしたなら、喉から手が出るほど欲しくなる。それこそ二人の立場を考えれば是が非でも手に入れたい技術だろう。
「暴発の危険性や生産性の難しさについては。」
「説明されたし、情報も開示された。だがそのデメリットを補ってあまりある性能だと思う。」
「そうですね、驚異的ですよね。」
そこまで話して、俺は初めてモニターに映る実験の様子をみた。そこにあるのはさんざん苦労させられたエンジンと同じ構造をした旧モデルの姿があった。おそらくはヴァーチェン博士が奇跡的に作ったと言われるエンジンなのだろう。
なるほど、アンポル博士が怒っているのはこれが理由か。
ヴァーチェン博士は確かに新元素の発見者であり、エンジンの雛形を作った人物だ。一方で、新元素の危険性を危惧して、研究を放棄している。それでいて、事故を防ぐためと研究を引き継いだアンポル博士に対してあれこれと嫌がらせをしていたのだ。そんな彼が勝手にエンジンの売り込みをしていたのなら、怒るだろう。当事者でない俺だって、イラっときた。
それにアンポル博士は1日前に、新型エンジンの安定化に成功したと、アビス中に通知をしてある。
そこから導き出される結論は・・・。
「量産化までは、あと一歩かな。ここにきてまだ3個しか作れてないですけど。」
「「はっ?」」
そんなことを考えたのは後になってからだ。その時の俺は単純に2人がエンジンの最新情報について知らされていると思っていた。だから、こんなにも迂闊な発言をしてしまった。
「どういうことだ。現状で11個しかないんじゃないのか?」
アニモの驚きの発言を聞いたときは、すでに後の祭りだった。
そして、俺の一言がヴァーチェン博士の致命傷になり、
「このくそ野郎。ただで済むと思うなよ。ヴァーチェン。」
アンポル博士の数ミリほど残っていた堪忍袋の尾を断ち切ることになった。
まあ、色々あったが、打撃コンボで人が中に浮かぶ光景を人生で初めて見ることになりました。
リンガット「やべえ、機密情報を漏らしちゃった?」
アニモ 「何やってんのお前。」
テティス 「人間って殴って浮くんですわねー。」
ただの会話でも人を破滅させる。これぞクソボンボンクオリティー。
お詫び
アンポルが高確率でアンボルになっていることがあります。
パソコンの画面だとポとボが見分けづらく、ときどきアンボルになってることがありますが、気づき次第修正していきます。




