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「ハーモーニーサウンド」 中盤脱落のクソボンボンだけど ロボットには乗りたいので知識チートします。  作者: sirosugi
アフタースペース297 リンガット14歳

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Ex5 とある平凡な落伍者の末路

 EX回 原作でのアフターサービス300年 リンガットが破滅したときのクソダディの話です。

 ギャラクシーは、もっとも効率を追求したコロニーの一つだ。

 定まったリーダーがいたのは200年以上前の話で、かつてのリーダーたちの末裔もこのコロニーを構成する一組織でしかない。権力は歴史や人脈ではなく経済力に依存する。

 金を持つ者が偉い。

 経済力のある人間は上等で快適な空間に、一般人はそれなりで、貧乏人は最低限のインフラの整った場所でひっそりと生きる。上の人間は使い切れないほどの空気と富を、底辺の人間はその日にできる呼吸の回数すら気を使う必要なほど粗末で汚い場所で生活をする必要がある。そんな底辺に暮らす無能や怠け者にはふさわしい悲惨な生活。それでも生き残れるのは、下手に搾り取って無為に死体を作るとコロニーの環境に影響が出るからだ。この宇宙時代では、場を乱さない限りは、ただ生きているだけでも許される。いやコロニーを循環させるシステムの一部歯車となるのだ。

 旧時代の資本主義をより具体的かつシンプルなものにした権力構造は、歪ながら、その歪さが心地よいと思う人間が集まっているため、思いのほか治安は悪くない。


「私が夢見た世界の真実がこれか。」


 そんな下層階級の一角、崩れかけのバラックにうずくまりながらベルベット・ビックツリーは、公共端末に流れているニュースを見ながら、そうつぶやいた。その目に浮かぶのは失望のようでもあり、嘲笑のようでもあった。


「私を否定した父と、期待外れの息子を持ち上げた馬鹿どもにはお似合いの末路だな。」


 ニュースは、ついさきほどまで行われていたビックオーシャンを中心としたクーデター軍とビックツリー両軍の戦いの推移を抜粋して繰り返し流していた。ここ数か月で何度も繰り返されたコロニー間の戦争の推移と結果を示すもの。ギャラクシーを居場所に選んだ多くの人間にとっては大きなビジネスチャンスであると同時に、危険な賭け試合だ。どの勢力につくか、それを見定めるために誰もが必死に情報を求め、上も下も関係なく群がっている。


「また一つコロニーが落ちたか。」

「おいおい、嘘だろ。戦力差はどう見積もって7倍差だって。」

「新型兵器の性能さだろ。どこのメーカーだ。」


 皆が気にするのは、勝者ではなく、勝因、そしてそれを担っている組織または個人だった。勝者であるビックオーシャンはもちろん、敗者であるビックツリーの領主であるリンガット・ビックツリーへの興味はない。

 なるほど、自分もこんな感じだったのか。とベルベットは理解した。

 十年前、自分はすべてを投げ出してビックツリーの領主という立場を捨てた。手切れ金だと持ち出した大量の資金と女だけをつれてギャラクシーへと亡命し、新しい身分を買った。それなりの大金だったので、一生とまではいかないが、それなりの期間贅沢な暮らしができるだけの大金を持ち出したことに罪悪感はなかった。代わりにあったのは恐怖だった。

 ギャラクシーという実力主義のコロニーに置いて、ただの次期領主でしかなかった自分が輝ける場所はなかったし、当時の自分にはそんな気概もなかった。高級ホテルで湯水のように金を使い、かつての友を通じて適当に儲けていた。

 それが非合法なことであり、かつて自分が描いた理想とはかけ離れたものであることは理解していた。理解した上でどうでもいいと思っていた。勝手に自分に期待し、失望した連中から少しばかり掠めとることは、自分の権利だとすら思っていた。

 同時に金を奪われる怒りや恐怖も知った。何度か詐欺師に騙されて持ち出した金の何割かを失った時点で、彼は自分のしたことが正しくても相手に理屈が通じないことがあることを知った。


 豪華なホテルの扉を蹴破って、祖父やビックツリーの大物が自分に復讐に来るんじゃないか?

 友と思っていた相手が、金のために自分を売るんじゃないだろうか? 

 捨てた息子が自分を恨んで、誅殺に来るんじゃないだろうか?


 そんな悪夢に苛まれ、気づけば高級ホテルから飛び出し、スラムの片隅でひっそりと暮らすようになった。その時点で妻だった女は別の男を作って消えていた。そして、命綱と思っていたかつての人脈も一人、また一人と離れ、数年と経たずに彼は1人になっていた。

 悪銭身に付かずとは言ったものだ。身軽になったことを歓迎すらした。そのままひっそりと隠れるように底辺の生活をして気づけば10年が経っていた。落ちぶれていく日々の中で、衰退し、治安が悪化していく故郷の様子だけが彼の慰めだった。同時に、その原因が自分だと理不尽に暴力を振るわれることにおびえた。人目をさけ、こそこそと生きるみじめな日々。本人は気づいていないが、やせてボロボロにやつれた彼の姿は、かつての彼を知る者でも気づけないレベルで変わっていた。だが、そんな風に落ちぶれていく人間もこの世界では珍しくなかった。物取りや人さらいだって、人間を選ぶ。ベルベットにはその価値すら見出されないのだ。


「わかってはいた、わかってはいたのだ。」


 自分は、ここにいる大勢の底辺の人間と同様に、酸素を二酸化炭素に還る循環システムの部品でしかない。そして、父や息子はおろか、かつて自分が貶めた相手すら自分から興味をもっていなかった。故郷が滅ぶニュースとそれに対する反応を見たことで、ベルベットは今更ながらそれを認めた。


「なんと無意味か。」


 涙はでなかった。感情によって漏れ出る体液すら惜しい。長い極貧生活の中で身についた習慣からか、激しく感情を揺さぶられながらも身体はロクに反応しなかった。


「これが結末か。こんな場所でなにもできず、誰からも見向きもされず。」


 自分の人生の意味はなんだったのだろうか?きっとこの場で、自分が滅んだビックツリーの先代であるベルベット・ビックツリーだと叫んでも、誰もが騒音として判断するだろう。自分はひっそりと生きていくしかない。この場所で。

 そう思って彼は住処の奥へと引っ込んで、通りの喧騒から目を閉じて、通りの喧騒を意識から切り離した。そして、自分の人生を嘆き、若き日の輝かしい日々に思いをはせる。

 こうして、ひっそりとベルベット・ビックツリーは生き、ギャラクシーのスラムで生きていく。


 こと此処に至って、その嘆きすらも自分が動かない理由として。

 




原作の両親

ギャラクシーに亡命し、チンピラとして過ごしていたが、後ろ盾だった人脈はリンガットに奪われて没落。以後はひっそりと生きていた。


本編

リンガットの活躍で、ビックツリーの経済が発展したのと、リンガットが父の関係者を嫌っていたことで、人脈と資金が充実し、スラムでもそこそこの地位を獲得。結果として無謀な夢を見て、ビックツリーに戻ることで、粛清される。


というEX回でした。次回からは年度は変わりませんが、新章です。

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