↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「ハーモーニーサウンド」 中盤脱落のクソボンボンだけど ロボットには乗りたいので知識チートします。  作者: sirosugi
アフタースペース297 リンガット14歳

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
84/96

75 アフタスペース297 周囲の反応は予想通りでした。

 一方その頃なお話です。

(スーザン)


 穏やかな時間。というのも存外悪くない。

 そう思えるようになるには少々のお時間をいただく必要がありました。両親が亡くなるまでは訓練漬けの日々で、領主邸で働くようになってからは仕事が趣味な状態で、役割から離れて休むという感覚がわからなかったのです。


「すぐに、そんなこと言ってられなくなると思うよ。」

「ふふふ、リンガット卿の方がわかってるわね。甘く見てると痛い目を見るわよ。」


 リンガット様とドーリス夫人の言葉、更には夫であるジルオールからの懇願もあって、長期休暇を甘んじて受けいれました。かなり後ろめたくありましたが、あのときの英断を褒めてあげたい。

 大丈夫と思いつつも日に日に大きくなっていくお腹と体の不調と身体の変化。早くから最新の医療体制とビックツリーでの休暇を提供していただいていながらも不安は隠せなかったですし、つわりによる味覚の変化はなんともいえないものがありました。何より自分の中に別の命がいるという緊張感は未知のものでした。

 世の母親はこれほどの苦行に耐えながら働いたり家事をしたりしているのかと改めて尊敬してしまいました。自分はなんと愚かだったのでしょう。と今でも思います。


 ただ、我が子の顔を見たとき、後ろめたさやつらさは吹っ飛んでしまいました。


「ふえー、ふぇうー。」

「あらあら、どうしたのですか、ノンラン。」


 クズる我が子をあやしながら窓辺から見える海を見る。その景色の良さにノンランは機嫌を良くして手を伸ばします。その動きを微笑ましく思いながらも、落としてしまうのではないかと抱きしめる力が強まってしまう。


「ふえ。」

「大丈夫ですよー、ママも見てますよ。」


 その力加減に不思議そうな顔をするノンランに笑顔で語りかける。数か月前の自分からは想像できない行為が自然とできてしまう。ここでの生活も数か月、娘のいない生活がもはや考えられないです。悪意のある視線を打ち破る日々に不満はありませんでしたが、娘の些細な変化や成長に振り回される時間は騒がしいながらも穏やかなものです。

 穏やかな時間。というのも存在悪くない。ただの侍女や秘書でしかない私達に、これほどの厚遇を与えてくださったリンガット様には感謝しかありません。

 そして、同時に悲しくもあります。


「やっぱり、子どもは親と一緒にいるべきだよ。」


 そう言って私とジルオールの長期休暇とビックオーシャンでの滞在を手配してくれたリンガット様は、笑いながらもいつも通りでした。

 私の懐妊に、驚いたり喜んだりしたわけでもなく。

 私達の不在に対して不安を思っているわけでもなく。

 御自身の境遇を嘆いているわけでもなく。

 一般的な、いや、やや旧時代的な優しさと常識からあの方はそう判断を下されたように思えます。その証拠に、お祝いの品などを用意しつつも、淡々と私たちの穴埋めを準備されていました。

 数年後には復職する。その前提で準備されていたのがわずかばかりの親しみだったのでしょう。ですが、このまま離職してもあの方は仕方ないと割り切ってしまわれる気がします。

 それほどにまであの方は人には執着なされません。傍にいれば頼られますが、自分でできることは自分でなさろうとされますし、誰かに追いすがるという考えがありません。

 おそらくは幼き頃に孤独に過ごされた結果なのでしょう。

 幼き我が子を胸に抱く喜び、愛する男とともに穏やかに過ごす日々。それを知った今は、なるほど確かにあの言葉通りだと思います。

 当たり前に与えられるべきものが与えられなかったあの方を不憫と思うのはあまりに傲慢で不敬なのでしょうが、どこかでそう思ってしまう。


「スーザン、どうかしたのかい?」

「いえ、ノンランがぐずっていたのであやしていたのです。」

「そうか、おや、今はゴキゲンのようだねー。」


 そんなことを思っていたらいつの間にか夫であるジルオールがもどってきていました。娘やリンガット様のことを考えていたからとはいえ、少々気が抜けていたようにも思えます。


「いいじゃないか、僕らだって親としては初心者なんだ。振り回されるぐらいでちょうどいいと思う。そして、リンガット様に御子が生まれたときに、この経験を生かせばいいんだよ。」

「そうですね。」


 そんな私の心を見透かしたのか夫は、穏やかに笑い私とノンランの頭を交互に撫でます。今でこそ落ち着いていますが、私の妊娠を知ったときから今日まで夫の挙動不審っぷりは面白かったですわ。

 リンガット様へお仕えする同志。最初はそう思っていましたが、改めてかけがえのないパートナーとなっています。いずれは共に復職して、リンガット様を支えたいという思いは変わりません。


「ふきゃー。」

「「はいはい、どうしました?」」


 ただ、今この時は我が子に集中させていただきましょう。それがきっとあの方の願いでしょうし。



 その日の午後は珍しくお客様がいらっしゃいました。ドーリス夫人とテティス様の親子です。


「あらあら、ノンランちゃん、相変わらず美人ねー。」

「きゃっきゃ。」


 女性ながら、鍛えられた体幹と美しい顔。フォーマルなスーツではなくセーターにジーンズというラフな格好なのに隠しきれない気品。そんなドーリス夫人はノンランを抱っこしてゴキゲンであやされていました。3人のお子様を育てられた経験もあり、赤子の扱いも手慣れたもので、私の抱っこだとやや不安げなノンランも彼女にだっこされているときは御機嫌です。未だに娘を抱っこするときは緊張してしまう私としては、悔しいと思いつつも、どうにか秘訣を掴みたいものです。


「それは年の功よ、テティスも含めて3人も子育てをしてきたから、抱き方も心得ているわ。」

「ぜ、ぜひご教授を。」

「硬くなりすぎ、まずはスーザンちゃんがリラックスしないと。」


 慣れよ慣れ。そうおっしゃる夫人ですが、妊娠しているときから何かと時間を作っては我が家を訪れて何かと世話を焼いてくださります。夫人曰く、乳母や侍女に任せずお子様たちを育てていたからとのことですが、本当に頼りになります。

 もっとも、私達を通じてリンガット様とのつながりを強めるという意図があることは明らかですが。


「ドーリス様、本日はどのようなご用件で?」

「ああ、そうだったわ。ごめんなさいねー、こうして穏やかに子どもの相手をする時間が最近はないから。」


 そう言ってノンランをベビーベットへ寝かせ、夫人は居住まいを正す。ベットで手足をばたつかせるノンランに、テティス様がそわそわされていますが、ぎろりと睨まれて大人しくなった。

 テティス様もノンランをとても可愛がってくださり、何かと理由をつけては我が家を訪ねてくださります。お二人とも普段は凛とした美人なのですが、ノンランを前にするとでへへと緩んだ表情をされます。我が娘ながら、魔性の女ですね。


「あなたたちの事だから、リンガット卿からすでに知らされていると思うけど、近いうちに、いやもう向こうを出発しているころかしらね。アビスへ訪問をすることになったの。」

「「存じています。」」


 新婚旅行と育児休暇の最中とはいえ、ジルオールはリモートで仕事をしているし、私もコロニーの部下たちとは定期的に連絡を取っています。専用回線や定期便を利用した連絡なので、周囲に漏れることはないのですが、夫人の知らない情報も持っています。

 今回のアビスの訪問は公的な行事なので、ドーリス夫人が知っていてもおかしくはないので、今回の訪問は、その裏の意図を探りに来たといったところでしょうか?


「ああ、違うわよ。探りをいれようとかじゃないの。今回の件についてはリンガット卿から直接連絡をもらったわ。なんでも新型エンジンの開発へ協力することになったんですってね。」

「はい。そのように連絡を受けました。それ以外の隔意はないと夫人にもお伝えするようにとリンガット様からは言われています。」

「なるほど。あの子の趣味ってことね。」

「相違ないかと。」


 ドーリス夫人の質問によどみなく答えながら、ジルオールの顔には苦笑が浮かんでいます。おそらく私も似たような顔をしていることでしょう。

 若き俊英、麒麟児などとと言われていますが、私達の主であるリンガット・ビックツリー様には、一つだけ変わった趣味があります。

 それが二足歩行ロボット開発です。(ロボットというと不機嫌になるので注意です。)

 7歳のころから、勤勉で倹約家であり領主としての最低限の贅沢以外はされないリンガット様ですが、二足歩行ロボットに関わると色々と箍が外れます。

 サイト40にあるリンガット様の私有地には、専用の研究所と格納庫があり専用の戦艦まで保有されています。その規模は個人が持つには大きすぎ、私もジルオールにも全容は語られていません。宇宙広しと言えど、私的に艦隊クラスのロボットを所有しているのはあの方ぐらいでしょう。

 今でこそ各地のコロニーで導入され、ビックツリーの大きな商材となっていますが、当時は趣味人向けの玩具でしかありませんでした。そこに価値を見出したと、評価こそされていますが、近くで見守らせていただいていた私達からすると、趣味を正当化するためにリンガット様が無理やり価値づけしていたのは明らかでした。

 なんなら、あの方の偉業の数々は二足歩行ロボットの開発にための活動の余波でしかありません。気さくで生真面目、そう見せかけて趣味に全力な男の子です、リンガット様は。


「そうなの、なら安心ね。」

「はい、問題はないかと。むしろ新たな技術革新でコロニーはより発展するものと愚考します。」

「そうね、うちとしてもその恩恵を受けられるなら心配はないわ。」


 リンガット様の趣味については、分かる人には分かるようで、ドーリス夫人もそのお1人です。

 おそらく、今回の「アビス」への訪問も二足歩行ロボット開発のためという以外の目的はないでしょう。おそらく今頃は、ニコニコな笑顔で嬉々して周囲を振り回されていることでしょう。

 けれど、そこがまた人間らしい、いえ、リンガット様らしいと言えるでしょう。

 ただ善良な領主であろうとするよりもずっと好感がもてます。

 あと、二足歩行ロボットが関わっている時ならば、悪い事はしていないと信頼もできるというものです。


「で、相談なんだけど、今回の訪問にね。テティスも同行させようかと思うのよ。」

「はい?テティス様もですか?」


 なので、ドーリス夫人の急な提案にも、私達はあまり驚きませんでした。


「ええ、この子も機械工学は学んでいるわ。それにコロニー整備や作業機械の運用について、うちには独自のノウハウがあるの。」

「新型エンジンのスペックは未知数ですが、リンガット卿が注目されているなら他の技術にも転用できる可能性が高いです。それならば私も興味があります。」

「なるほど、素晴らしいお考えです。」


 リンガット様とテティス様の関係を目にしていなければ、妙な邪推をするところでしょう。ですが、目の前のテティス様の顔は真剣なもので、新技術への興味とリンガット様への対抗心を隠そうとすらしていませんでした。彼女の中では、ビックツリーの更なる発展のために努力を惜しまない人間となっているんでしょうね。


「なるほど、それはありがたいです。ここでの生活のおかげでビックオーシャンの技術の素晴らしさは我々も日々驚かされています。リンガット様も喜ばれることでしょう。」

「はい、協力して、素晴らしい成果をあげてみせますわ。」


 夫の賞賛に対して、テティス様は拳を握り、気合のこもったお返事でした。

 子どもが生まれたからでしょうか。それともリンガット様の評価を聞いているからでしょうか。張り切るテティス様の姿は微笑ましく、その顔はとても素直で愛らしいものに思えます。きっと、この場に置いてテティス様だけは、真剣に新技術の可能性とそれを持ち帰る使命感に燃えているんでしょう。

 実際は、趣味に全力なだけですよ、あの方は。いつの日かそれに気づかれるでしょうか? 


「そうね、テティス。ビックオーシャンの代表として励みなさい。」

「はい、任せてください。」


 ドーリス夫人の激励もどこか楽し気です。

 うん、これは絶対、玩具にされてますね。生真面目すぎるテティス様の性格を考えれば、入れ込みすぎないように、この場でフォローすべきでしょうか?

 

「ふえー。」


 と思っていたら、ノンランが声をあげ全員の意識がベビーベットに向けられます。そして一番に動き出したテティス様は、ノンランを抱っこし、その背中をやさしく叩きます。


「ああ、ノンラン。しばらくお別れね。お姉ちゃんのこと忘れないでね。」

「あらあら、すっかり懐いてしまったわね。」

「ありがたい限りですわ。娘もすっかりお二人に懐いてしまいました。」


 うん、テティス様にはこのままでいただきましょう。その方がきっと面白いです。

スーザン  「まあ、リンガット様ですし。」

ジルオール 「リンガット様だからねー。」

ドーリス夫人「リンガット卿だからねー。」

テティス  「リンガット卿には負けませんわ。」

 1人だけベクトルがずれているテティス様。

 そして、趣味に全力なだけなことを周囲の大人はちゃんと理解しているという話でした。

 次回も別視点での話となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
おや、需要無いヒロイン()も来るんですな 正ヒロインはいつになったら出てくるのか・・・w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。