72 アフタースペース297 とりあえずその顔をぶん殴りました。
容赦なく制圧します。
なんか、文章がひどいループをしていたので修正しました。(8月20日16時20分)
その顔も声も、記憶にはない。
最後に見たのは10年近く前。
その時だってほとんど会ったこともなければ、まともに目を合わしたこともなかった。
それでも知識として、その顔は覚えていた。
「大人しく、自分の失敗を認めろ。それなくして。」
聞き覚えのない、妙に甲高い声。
それ、どの口が言うのかな?
まあ、とりあえず。
「死ね。」
「グブファー。」
何のためらいもなく引き金を引けた。
まあ、護身用のテーザー銃なので。死ぬことはない。
当たり所によっては身体に深刻なダメージが入るかもしれないが、死ぬことはない。
電圧が強めなのでかなり痛いらしいが、死ぬことはない。
ガス式の撃ちだしなので火薬のような殺傷力はないから、死ぬことはない。
瞬間的に時速1000キロになる銃に対して、この銃は時速200キロなので、死ぬことはない。
野球で硬球を至近距離でぶつけられたようなものだが、死ぬことはない。
「な、何を。」
「無関係の人間を引き入れたとなれば、共犯だよねー。」
「ぎゃべらー。」
そのまま銃口をイムールに向けて引き金を引く。テーザー銃と言っているけど、旧時代にある有線式のものではなく、着弾とともに電気ショックで相手を痺れさせるもので、反動的にはエアーガンに近い。
「や、やめ。」
「この状況ですることが命乞い?」
次々に撃ち抜いてイムールたちを無力化していく。イムール憲兵長は司法の番人であるしその部下たちだって荒事に慣れている。とっさにコートを翻して攻撃を弾く人や、飛びのいて躱す人もいた。その上で俺に向かって飛び掛かろうとする人間もいた。
「捕縛。」
だが、そのことごとくが、足元から生えてきたホイッスルによって捕縛されていく。この部屋に招き入れた時点から、いつでも捕縛できるように床下に仕込んでおいたのだ。
ここは領主邸の執務室。いわば、このコロニーの頭脳と言っても過言ではない。不審者を迎撃するための準備はそれなりにしてあるのだ。
「ハーメルさん、護衛は何をしているのかな。」
「も、申し訳ございません。さすがに、これは。」
「しっかりしてよね。仕事はともかく、僕はか弱いんだから。」
デザーガンの残弾を確認しながら、俺は立ち上がり、乱入者に向かって歩みよった。
話し合う?そんなわけがない。
近付いたのは、より確実に無力化するためだ。
「ほいっと。」
「「「「gyたああああさあs。」」」」
投げつけたのは水風船。と言っても玩具ではない。
中身は特殊な接着剤で、宇宙船やコロニーで空気漏れが起きたときはこれを投げつけて穴を塞ぐ。
瞬間的に広がった液体は数秒後にがっつり固まり専用の薬剤を拭きかけない限りはとれない優れものだ。その分、お高いんだけど、護身用のグッズとしてもなかなか優秀だ。
そのまま動けなくなった一人に一体ずつホイッスルを巻き付けて拘束する。身をよじって抵抗する人もいたが、テーザー銃を数発撃ち込んだら大人しくなった。
「これだけやっておけば充分かな。ああ、怖かった。」
「ぐげー。」
「てか、君らがこれを持ち歩いたらだめでしょう。」
拘束しているあいだにざっと調べたらナイフやピストル、レアなところでレーザーガンでで武装している人もいたので、もれなく没収させもらった。
ビックツリーは平和主義なコロニーだ。職務中であっても、許可なく武器を持つことは許されない。
それに、ここは、領主邸の執務室。事前に武器は預けるのがルールだし、ボディチェックもされたはず・・・。
「コルテオ君?」
「も、申し訳ありません。お急ぎということで、ボディチェックをスルーされてしまいまして。」
「だーかーらー、そう言う例外が危ないんだって。規定の装備を預け、手ぶらなフリをして凶器を持ち込むなんて、よくある手口なんだから。」
税関のすり抜けなんかでもよく使われる手口だ。あからさまに怪しい人間に注意を集め、本命が検査をパスする。あるいは信用のある役職の人間がそれを隠れ蓑にするなんてことは、一番に疑うべきことだ。
「まあ、それは君が悪いよね。イムール憲兵長?たしか、武器の不法所持は、発覚次第、警告無しでの攻撃と拘束だったよね?」
「うぐ。」
「気絶したフリでとぼけるなよ。それとも目が覚めるようにもう一発いっとく?」
「も、申し訳ございません。急ぎということで推し通らせていただきました。」
「それで、部下の手綱も制御できないと。」
繰り言になるが、ここはビックツリー領主邸の執務室。コロニーに頭脳にして心臓部だ。常駐の職員であっても、この部屋の出入りには特別な許可が必要だし、金属探知機やボディチェックなど様々な手順を踏む必要がある。
それをスルーするされた。気分は悪いがそれは許そう。明文化された決まりじゃないからね。
武器の持ち込み。それも許そう。ある種の暗黙の了解みたいなものだし、それが向けられる前に無力化できたので実害はなかったからね。
だが、関係ない人間を領主邸に招き入れるのNGだ。
特に、こいつはダメだ。
「そもそもとして、ビックツリーからの永久追放されたはず人間がなんでここにいる?」
十年前、己の役目を投げ出して逃げ出した。それはいい。
色々と持ち出して当時の財政に結構なダメージを与えたことも、過去の事だ。
しかし、捨てたはずの苗字や俺やお爺様とのつながりを使って阿漕に稼いでいたことは許されない。特に、コロニーの機密情報を流出させたことや密輸業者やスパイの手引きをしたことは重罪だ。
「明確な裏切りと利敵行為。7年前にお爺様、現領主から破門された事実は、君らも知っていたはずだよね。逮捕こそしないけど、入国はおろか、ビックツリー関連の施設に近寄ることすら禁止していはずだ。憲兵長である君が知らないわけないよね。」
「くっ、それは冤罪。」
「お爺様のESPを疑うと?そうでなくても、証拠は山ほどあるんだけど、見てないの?アレのゴミっぷりは、ビックツリーをはじめとした周辺コロニー内でも周知されている事実なんだけど。それを冤罪?」
二度と這い上がれないように、徹底して悪事を暴いたというのに。
二度と野心を抱かないように、最低限の金儲けは見逃してあげたのに。
二度と会わなくてすむように、港や交易船の監視は徹底させていたというのに。
二度と顔を見ないために、ここだけは譲れない一線として命令を出していたのに。
「憲兵長・・・、君には失望したよ。この最低限のラインも守れないなんて。」
誰にだって、超えていけないラインというものがある。
書類でお茶目するのも許そう。
妙な言いがかりで仕事を邪魔するのも許そう。
横領だって、転売だって、横流しだって許そう。
事件を事故と言い換えて誤魔化すのも許そう。
「でもさあ、安全は無視しちゃだめでしょ。」
それをされたら、反撃するしかなくなるじゃないか。俺は平和主義だというのに。
リンガット様「お仕事、お仕事。」
感情が高ぶると箇条書きな表現になるリンガット様なのでした。




