70 アフタスペース297 人はそれを悪夢というらしい。
淡々と暴れるリンガット様な話
車両をジャックし、それを使って交通事故を起こす。同時に周辺の通信を遮断し情報封鎖を行う。事故でターゲットが仕留められたなら、よし。ダメな場合は後続の部隊が追い打ちして片付ける。警備や護衛の人間が現場に駆けつけるころにはターゲットも下手人はおらず破壊の痕跡だけが残る。報道されるのは痛ましい事故と俺の死亡だけ。
襲撃者たちが描いていた計画は、きっとこんな感じだろう。
暗殺の教科書があれば真っ先に載っているであろうテンプレートな襲撃。手段としては、数年前のアニモ襲撃事件と似ている。まあ、あの時の方が手際は鮮やかだった。密かに運び込まれた作業機械と移動ユニットはすべて無人機だったし、徹底して痕跡が消されていたので犯人は結局特定できなかった。
それに対して今回は初手から有人、マニュアル操作だ。襲撃者は、俺に正体を隠す気がない。ついでに殺意もだろう。だったら俺も絶対に逃がさない。わざわざ電磁ネットで生け捕りにしたのはそういう理由だ。
『小型の飛翔体、数。10。』
「見えてるよ。ドローンか。」
移動ユニットの次に向かってきたのは小型ドローンだった。個人向け運搬用で当然ながら兵器ではない。それでも、速度制限を解除して体当たりさせれば充分な脅威となりうる。爆発物や刃物などを装備させれば、その危険度は更にあがる。電波を妨害することで無力化できるという弱点もあるが、そんなものを持ち歩いている人は少数派だろう。大半の人間が襲われたら最後、この速度と小ささに翻弄されることになる。
「まあ、意味ないけどね。」
そんなドローンを向けられたのは、3丁の大型ショットガン。4本の内3本のアームのそれぞれでショットガンを構え、残りの一本は道路脇の柱に巻き付いてバランスを保持。シルエットだけ見るとSFアニメのタコ型のエイリアンのように見えるが、今は、これが最適解だ。
「きたねえ、花火だ。」
散弾による面制圧を前に機動力は意味をなさない。ドローンたちはあっさりと撃ち抜かれ爆散した。予想通り、爆弾を満載していたらしい。電磁ネットで捕縛していたら大変なことになっていただろう。
「これ、人間に向けるのはまずいねー。」
被害の大きさや人道的な理由で大柄の散弾銃や爆弾を搭載したドローンによる攻撃などは国際法で禁止となっている。その理由が分かる、嫌な光景となってしまった。だが手持ちのカードで、安全に無力化できるのがこれしかなかったので仕方ない。
『さらにアンノーンが接近、数4。』
「今度は?どっち?」
『生体反応あり、有人機です。』
「マジかよ、めんどくせー。」
ショットガンを人に向けるのは人道的にまずい。それでいてホイッスルの性能を考えると、武器無しで5機相手はやや厳しい。ネット弾でもいいが、作業機械だと対策されている可能性もある。しかたない。
「とりあえず、煙幕」
『了解、煙幕展開します。』
数秒だけ迷ったのち、俺は移動ユニット乗せておいた煙幕を展開させる。煙で視界が白くなっていく中、ショットガンを手放してその場に落とし、別の柱にアームを伸ばし掴む。そして、腕を縮めて本体を持ち上げる。ガチャガチャとそんな作業を数度繰り返せば、20メートル級の鉄塔の上に陣取ることができた。
「うーん快適。」
『アンノーンは、3時方向です。』
「そちらに旋回。」
ナビに従って微調整。近づく4機の作業機械が見えた。視認性の悪さは要改善だな。
「これは、気づいてないな。」
ドローンの爆発も目くらましになったのだろう。作業機械の動きは水平なもので、煙幕と移動ユニットに注目しているのが分かる。これで安全に観察できる。
「機体情報を照会。運転席を可視化。って、うちの商品まで持ち出したのかよ。」
土砂を運ぶためのダンプカーに荷物を持ち上げるためのクレーン車。道を均すためのホイルローダーと精密作業用のミキサー。工事現場で見かける作業機械の組み合わせだ。おそらくは現場から持ち出したものを切り札として用意にしたのだろう。
あの襲撃事件以来、作業機械や移動ユニットにはいくつかの安全装置の搭載が義務付けられている。
その一つがペアリング機能。複数の作業機械をリンクさせてお互いの状態を相互に監視するものだ。お互いの位置情報やパイロットのバイタルなどが確認され、離れたり暴れだしたりといった不自然な行動があった場合は、即座にエンジンが停止され、リンク先に通報される。これによって、起動中の作業機械の置き引きや、ストレスなどによる衝動的な犯行は未然に防がれるわけだ。あと地味に作業効率や安全性も向上したらしい。
だからこそあんなちぐはぐな組み合わせなんだろう。それでいて今も警告メッセージは送っているにも関わらず反応がないのは、彼らも敵ということなんだろう。
「なら、容赦する必要はないな。」
ふわり。いや実際は、鉄塔の一部がひしゃげるほどの衝撃でホイッスルが撥ねる。そのまま空中で回転しながら微妙な位置調整。同時に4本のアームの先端を伸ばして鋭くとがらせる。
「串刺しだ。」
自由落下の速度と相手の位置情報。それらを計算し、角度を調整。そのあたりは解析さん任せだ。イメージ的にはゴルフゲームの目押しに近い。それでも確実にわずかなずれもなく落下し。
4本のアームはミキサーを串刺しにして無力化した。
「よっし。」
1本は頭部から脇腹を貫くようにコクピットを割けてカメラ機能を停止させ。
2本は両肩から、関節部を貫いて両腕を落とし。
最期の1本はバックパックを貫いて、動力を停止させる。
対象を刺し貫きつつも、落下の衝撃を受け止めるクッションの役割を果たしてくれたアームは煙を上げてやばい事になっているが、問題ない。
『補助アーム、攻撃を開始します。』
残りの3台には、移動ユニットから密かに近づいていた別のアームが攻撃を開始している。無数のアームがコクピットへと忍び込み、それぞれのパイロットを締め上げ、ついでにハンドルなどの操作機器を無造作に破壊させる。自動操縦だが、なかなかの精度だ。
「ひ、ひいいいいいい。」
むき出しになったミキサーのコクピットから悲鳴が聞こえる。いや、ほかの作業機械からかもしれない。まあ、気持ちはわからなくもない。俺も君の立場だったらかなり怖かったと思う。
作業用のアーマーユニットということにしているが、この「ホイッスル」の本体は蛇腹状になっているアームたちだ。
伸び縮みさせやすい上に、固定もしやすい。形状を変えることで簡易的な発射機構を作ったり、人間サイズからミキサー向けの機械の使い分けも可能という優れもの。また、蛇のように動かすことで自走することも可能なのでこんな風に奇襲を仕掛けることもできる。なんなら、移動ユニットから出ないでアームだけを操作することもできなくもない。
そんな面白いものであるが、この「ホイッスル」は残念ながら欠陥機であり実用性はかなり低い。
まず操作性が悪い。様々な形状や動きが可能だがそのためには、正確な座標を入力する必要がある。この場所に固定、掴む、指定された場所に移動、離す。物を運んで動かすといった単純な動作ですら、一つ一つ指示ださないと、まともに動かないし座標がおかしければすぐエラーとなって動きが止まる。
そのため、繊細な操作をするためには、座標の起点となるマーカーが必須となり。それが俺がいる胴体部分である。起点として接続した状態で、これなのだ。遠隔操作ともなればより詳細に情報を集めつつ、対象に接近するしかない。、わざわざ鉄塔に上ったのも、ミキサーへ飛びかかったのも、このためだ。けして、趣味ではない。原作の真似とか再現とかでもない。
あと、燃費も悪いし、耐久性も低い。ちょっとしたおもちゃが相手ならともかく、ミキサーや宇宙船を相手にしたときに、効果的かと言われれば、何も言えない。
「まあ、生け捕りは成功っと。」
ぐるぐると縛り上げられたパイロットたちのバイタルを確認しつつ、俺は残ったアームを呼び寄せて継げ替える。慣れれば移動ツールとしては面白いかもしれない。パルクールもびっくりな動きができるのはちょっと楽しい。
「な、なななな。」
「ああ、話はあとでゆっくり聞かせてもらうからね。」
真下でもごもごしているミキサーのパイロットににこりと微笑みかける。
あと何か知らないけど、無数の手足を操る姿には非情に威圧感があるらしい。初めて見た人にはかなり怯えられる。
まあ、心を折るのも大事な事ということで。結果として、ほぼ無傷で襲撃者たちを捕獲できたので、俺は満足である。
詳しい話は、基地へ帰ってからにしよう。
リンガット「一発ネタにしかならなかった・・・。」
天〇の城のロボットのようであり、その実態はス〇イダーマンのオクトパスな博士な兵器だったわけですが、お気に召さなかったようです。




