69 アフタースペース297 正当防衛という名の免罪符は何にも勝る。
非常事態こそ、アレの出番な話。
移動ユニットは、路肩に寄せてから停止させた。受信装置も物理的に停止させたので、遠隔操作でどこかへ運ばれることはもうない。同時にこちらが異変に気付いたことが相手に伝わったらしく、敵の行動は露骨であからさまなものとなった。
「おお、きたきたー。」
付近一帯の通信はジャミングされ、照明が消える。端末のエラー音がしたと思ったら、数キロ先から、こちらに近付いてくる移動ユニットのヘッドライトの光が見えた。見晴らしのいい場所とはいえ、派手に加速していると嫌でも目にはいる。
もはや、相手の悪意は明らかだった。
『接近警報。此方は停止中です。減速をして適切な車間距離をとってください。』
それでもまずは警告からだ。近づいてくる移動ユニットに警告メッセージを送り、スピーカーやライトも警告も出す。交通事故とか故障とかで事故を避けるために置く赤いランプ、あれみたいなものだ。これが出ているときは、移動経路を変えるか、近付いても減速してすれ違うのがマナーなのだが。
近づいてくる移動ユニットは、他の道に逸れることはなく、それどころかさらに加速していた。
「安全装置の確認に、警告。」
口頭確認をしつつ、端末を操作し移動ユニットから降りる。近づいてくるヘッドライトから察するに、あと50秒もしないうちに移動ユニットはここに来るだろう。
「目視確認完了。もう一度を警告を送る。」
残り50秒。警告に反応はない。先方が受信していることは、は確認できているので相手が気づいていないということはないだろう。
「先方に悪意ありと判断。現時点をもって無力化を決定。「ホイッスル」の安全装置を解除する。」
残り45秒。俺は端末を操作して、移動ユニットの貨物用扉を開き、ギミックを起動させた。
「なんとまあ。ここでご自身で動かれますか。」
「あとあと面倒だからね、ハーメルさんは目撃者ってことで。」
残り40秒、心配そうに声をかけてきたハーメルさんに返事をしつつ、貨物室からスライドしてきた足場に立って両手を広げる。すると自動化されたシステムに従い、鉄板や機械が俺の身体に次々と取り付けられていく。まるでどこぞの鉄なヒーローのようであるが、宇宙服や作業用スーツを着るための自動装置は、この世界では珍しくはない。ちょっとばか、俺の趣味によせてはいるけどな。
『アーマーユニットの装着を確認。バイタル情報から搭乗者を確認完了。リンガット様、「ホイッスル」へ、ようこそ。』
残り5秒。作業用のアーマーユニットを装着した俺の姿はちょっとした巨人であった。胴体は分厚い鉄板で覆われ、そこから蛇腹状に伸びた手足が生えている。俺の身体は胴体部分にすっぽりと収まっており、顔はヘルメットで隠されている。
ポータブル戦闘ユニット「ホイッスル」。二足歩行ロボットの技術を流用して作ったこちらの鎧は、なんともコミカルで個性的な見た目だが、その性能は・・・、まあ、見てもらった方が早いだろう。
「電磁ネット弾用意。」
『了解。装填します。』
「ぶちかませー。」
残り1秒。アシストAIに命令しつつ、→腕を上げると腕の一部が変形して銃口となり、指定した弾丸が装填される。
カウント0。先頭の移動ユニットが目の前に来ていたが、構わずぶっ放す。
ポン!
軽い音とともに、射出される構造は、銃とというよりはグレネードランチャのそれだった。電磁ネットと呼ばれる特殊弾は、蜘蛛の巣のように広がり移動ユニットを絡みつき、その柔軟性で運動エネルギーを吸収して失速させる。さらには接触と同時に電磁パルスでエンジンを停止させるので相手はもう動けず、地面に落下するしかない。使える場所は限られるし、射程も短いのだが、迎え撃つのも追い打つのにも使える優れものだ。
「よし、次。」
『次弾装填、連射モードに入ります。』
その効果を確認できたので、後続の移動ユニットにも電磁ネット弾を撃って動きを止めていく。此方に迫っていた5台の移動ユニットは、例外なく絡めとられ、虚しく地面へと落ちた。
「これ、中の人無事?」
『生体スキャンを実行・・・。内部でのバイタルサインを確認。意識はないようですが生存はしているようです。』
「なら、いっか。」
移動ユニットのサイズはワゴン車ぐらいで、重さは約3トン。それが時速100キロの速度で突撃してきたとした場合、その運動エネルギーは約200,000ジュールと言われている。正直、そのあたりのエネルギー計算はよくわかっていないがなんかすごそうだ。それを無理やり止めた結果、中の人がどうなっているかは非常に興味深いが、生きているようなので、とりあえずよし。
『警告、更に複数。未登録のユニットが接近しています。』
「なるほど、じゃあ散弾用意。」
そうこうしている間に、増援が近づいている。まだまだ暴れ、もとい身を守る行動をする必要があるのだ。検証や尋問は後回しにしないとならない。
「話し合いができないんだもんねー。これは正当防衛だ。」
まったく、どうしてこう野蛮な人ばかりなんだろうか。同じ人間なのに、話し合う前に襲い掛かるなんて、ひどいじゃないか。俺ってば、まだ14歳なんですけど、旧時代なら中学生なんだけど。
「子ども相手に恥ずかしくないのかねー。」
そんなことを思ってはいてもやるべきことは変わらない。俺は迫りくる脅威に立ち向かうべく、「ホイッスル」の装備を確認するのだった。
リンガット「こんなこともあろうかと、作業用のものを準備してました。」
??? 「絶対、作業用じゃない。」
戦闘パートの描写に悩みすぎて、区分けにすることになりました。
次回、まだまだ暴れます。




