68 アフタースペース297 責任者だれだよと思ったら、自分でした。
さらっと罠にかかるけど慌てない話。
宇宙時代になって、劇的に減少したものの一つに交通渋滞がある。
既存の地形を整備して道を作っていた旧時代と違い、流通や移動も考慮して0から設計がされたコロニーの構造とシステムは、快適で効率的な移動手段を提供してくれる。混雑するとしたらイベントなどで、人の移動が劇的に増えてキャパシティーが圧迫されたときぐらいだろう。それだってコロニー内の導線はしっかり確保されているため、旧時代の花火大会や有名テーマパークのような混雑とは縁遠い。
それもあってか旧時代とは移動の感覚がかなり違う。職種や目的によって導線は使い分けられているし、基本的には数人単位での移動で自動運転だ。旧時代の電車やバスのように周囲に気を使う必要がない。景色も画一的なため、多くの人間は移動中は眠っているか、端末や書籍を見ながら時間をつぶしている。プライベートスペースの延長、車というよりはエレベーターに近いかもしれない。
なので、俺が気づいたのは偶然、幸運によるものだった。なんとなくの気まぐれで窓を開けた。それだけだった。
「今日は車が少ないねー。」
コロニーの交通事情を加味しても、その日は静かすぎた。道を走る移動ユニットは俺が乗っているものだけで、わずかな走行音が妙に響く。新しい植林場の視察の帰り道で繁華街からは離れた場所だとしても、なかなかに珍しいことだ。
「そうですな、繁忙期にしては珍しいかと。」
ハーメルさんにも確認してもらう。彼も外の光景を前に不思議そうな顔をしていた。
「もしかして、視察対応で交通整理とかした感じ?」
「いえ、そのようなことは、確かに作業員たちの多くは本日から泊まり込みと報告を受けていますが。これはいくら何でも。」
「だよねー。」
これが異常事態ということは間違いない。100歩譲って他の移動ユニットが見えないのはいい。ありえないことではない。だが、護衛のために前後をカバーをしているはずの移動ユニットまでないのは、さすがにあからさますぎる。
「職務怠慢?」
「自動運転の弊害ですな。システム側が掌握されると非常にもろい。」
「セキュリティーのファイヤーウォールは最高レベルのはずなんだけど・・・。一応聞くけどハーメルさんは仕掛け人?」
「いえいえ、流石に自分の命を懸けてまではしませんよ。」
そんな会話の間に俺は端末を操作して周囲の状況を探る。ナビシステムでは通常通りの行程を進んでいるし、GPS情報では前後には移動ユニットもいることになっている。ゆえに、警報も作動していない。気分を変えたくて窓を開けなかったら気づかないまま、より致命的な事態になっていただろう。
事故やシステムトラブルを疑う余地もない。これは、完全に悪意ある犯行だ。良くて拉致、酷ければ暗殺な未来が待っている。
「いや、気づけて良かった。」
「全くですな、命拾いしましたぞ。」
たしかにこれは自動操縦の弊害だ。どんなに優れたシステムであったとしても、管理する人間に悪意があれば、どうとでもなってしまう。そして、その心当たりが多すぎる。
「インフラ関連の工作は、目くらましだったか。いや、どうでもいいか。」
もちろん、個人の暴走でどうにかできないようにシステムにはいくつもの監視システムが存在する。だが、権限を持つ人間が数人結託して、計画的に準備すれば不可能ではない。それこそ、護衛もグルだったりする?
「面従腹背って厄介だねー。」
「親方様、レイウッド様のESPはそれが強みでしたから。」
「なるほど、お爺様がいないからってのもあるのか。」
お爺様やジルオールが居れば、計画の段階で仕組まれた嘘や悪意を察知できただろう。
スーザンがいれば、移動ユニットの挙動がおかしくなった時点で気づけただろう。
いや、そもそもとして、こういったことも想定して、護衛の数や計画を入念しておけば・・・。
「まあ、反省は後回しだね。とりあえずはこの状況をなんとかしないと。」
「ははは、前向きな姿勢は、リンガット様の美点ですな。」
パンパンと頬を叩いて気持ちを切り替える。ここで反省だ後悔をしても状況は悪化するばかりだ。そんな暇があったら、この場を切り抜け準備をしろって話だ。
「少し揺れるかもだから、ハーメルさんも気を付けてね。」
「ははは、そんなことおっしゃらず、いざとなればこの老骨を盾にでも武器にでも活用ください。」
「うん、最後の手段として頭にはいれておく。」
この後に及んでふざけるハーメルさんを頼もしく思いながら、俺は端末を操作して状況を整理する。
「情報封鎖はされていない。移動ユニット周りのシステムだけクラックした感じだ。」
「深入りしたら、勘づかれると思ったのでしょうな。」
「そういうのもいいから、しばらく黙ってて、気が散る。」
敵の意図やらなにやらを考察するのは後回し。今すべきなのは現在地の確認と、安全の確保だ。その上で、
「不埒者め、成敗してくれる。」
この程度の工作で俺をどうにかできると思った愚か者たちに報いを受けさせる準備をしないといけない。
いやまあ、こんなこともあろうかと、準備はばっちりですけど、何か?
リンガット「怖いよー、やばいよー、どうしよう。これはもう仕方ないねー。」
次回は無責任に暴れるリンガット様をお届け予定です。




